アリストテレス 詩学まとめ
真田五季
第1話
アリストテレス 詩学まとめ
1:悲劇とは
・悲劇とはすなわち、再現を指す。人物が行動し、何かを手に入れようとするその過程。したがって留意するべきは、作者の考える話を読者へ押し付けるものではないということ。あくまで登場人物が構成のなかで求めるものを描き出す必要がある。登場人物による欲求と行動の再現が、物語そのものの定義となる。
2:再現する対象について
・これは3つに分けられる。①我々より劣った者。②我々のような者。③我々より優れている者。悲劇は三つ目を取り扱う。より優れた人物の再現を狙う。
3:悲劇の定義と悲劇の構成要素について
・悲劇とは、一定の大きさを備え完結した高貴な行為。
・叙述によってではなく、行為する人物たちによっておこなわれ、憐れみと恐れを通して、そのような感情の浄化(カタルシス)を達成するもの。
・悲劇は行為の再現である。この行為を行うものは、性格と思想において何らかの性質を持っていなければならない。その性質は幕を通して一貫させること。
・行為の再現とは、筋(プロット)のこと。すなわち、出来事の組み立てのこと。性格とは、行為する人々がどのような性質を持っているのかを、私たちがいうときの基準になるもの。思想とは、行為する人々が何かあることを証明したり一般的な意見を述べたりするときに語る、すべての事柄のなかに現れるものを指す。
・最も重要なのは出来事の組み立てである。
悲劇は人間の再現ではなく、行為と人生の再現であるため、幸福も不幸も、行為に基づくものである。目的は何らかの行為であって、性質ではない。幸福かその反対かは、行為によって決定される。
したがって劇のなかの登場人物が、性格を再現するために行為するのではなく、行為を再現するために性格も併せて取り入れる。出来事、すなわち筋は、悲劇の目的であり、目的は何にもまして重要である。
・悲劇がひとの心をもっともよく動かす要素は、筋を構成する部分としての逆転と、認知である。
・性格とは、登場人物が何を選び、何を避けるかが明らかではない場合に、その人物がどのような選択をするのかを明らかにするもの。したがって、語りてが何を選び、何を避けるのかということを全く含まない台詞は、性格を持たない。したがって、どのような場面でも、この性格による選択を引き起こし、またそれが行為に直結するようにすること。
・思想とは、ある事柄を、こうであると証明しようとしたり、その人物に根付く普遍的な見解を表明する箇所に現れるものである。
4:筋の組み立て
・悲劇とは、一定の大きさをそなえ、完結した一つの全体としての行為の再現である。
・そして、ありそうな仕方で、あるいは必然的な仕方で出来事が次々と発生し、不幸から幸福へ、あるいは幸福から不幸へ移り変わることができる程度の長さが、筋の長さの制限としては十分なものになる。
・また、行為は統一があり、一つの全体としての再現でなければならない。さらに、出来事の部分部分は、その一つの部分でも置き換えられたり、引き抜かれたりすると、全体が支離滅裂になるように組み立てられなければならない。
・したがって詩人の仕事は、起こりうることをありそうな仕方で、あるいは必然的な仕方で起こる可能性のあることを、語ることである。歴史家は既に起こったことを語り、詩人は起こる可能性のあるものを語る。
・また、筋の解決は、筋そのものから生じなければならない。筋が要求することではなく、作者が要求することを自ら登場人物に口にさせたり、そのように筋を作ってはならない。
5:場面偏重の筋、驚きの要素について
・単一な筋と単一な行為のうちで、場面を偏重するものが最も劣る。場面の変調とは、そのなかの場面の並べ方が、ありそうでなく、必然的でもない筋のことを指す。
・再現は完結した行為のそれであるばかりではなく、恐れと憐れみを引き起こす出来事の再現である。このような出来事は、予期に反して、しかも因果関係によって起きる場合、最も効果を上げる。
偶然の出来事のなかでも、なんらかの意図の元に生じたように見える出来事が、もっとも驚くべきものに思われるため。
・悲劇を描く場合、幸福から不幸へ転じなければいけない。また、その原因は、邪悪さにあるのではなく、大きな過ちにあるのでなければならない。また、上述したように、優れた人物でなければいけない。
6:逆転と認知、苦難について
・逆転と認知は筋の組み立てそのものから生じるものでなければならない。すなわち、それらのことは、先に生じた出来事から、必然的な仕方で起きる結果であるか、あるいはありそうな仕方で起こる結果でなければならない。
ある出来事がある出来事のゆえに起きる。という状況を作り出す事。
・逆転とは、これまでとは反対の方向へ転じる、行為の転換のことを指す。そしてそれは常軌のように、ありそうな仕方で、あるいは必然的な仕方で起きることが求められる。
・認知とは、無知から知への転換――その結果として、それまで幸福であるか不幸であるかがはっきりしていた人々が、愛するか憎むかをするようになる転換――である。認知のもっともすぐれているのは、それが逆転と同時に生じる場合である。
このような認知と逆転が発生する場合、憐れみや恐れを引き起こす。
・苦難とは、人物が破滅したり、苦痛を受けたりする行為のことで、たとえば目の当たりにする死、激しい苦痛、負傷、そのほか、それに類することが当たる。
7:恐れと憐れみの効果の出し方について
・筋は、見ることができなくても、起こりつつあることを聞くだけでその出来事に恐れや、憐れみを感じたりするように組み立てられなければならない。
・恐れ、憐れみを引き起こす行為は、
① 互いに親しい人たちの間。
② 互いに敵対している人たちの間。
③ 親しくも敵でもない人たちの間。
のいずれかで発生する。
②の場合、憐れみは発生しない。③も同様である。したがって、親しい人たちの間で苦難が生じることによって、憐れみは発生する。たとえば、兄弟が兄弟を、息子が父親を、母親田息子を殺害したり、殺害を企てたり、そのほかこれに類することを行ったりする場合。つまり、「やりたくないことをしなければならない状況」。
・行為は次の仕方でなされる
① 自分が何をするか知り、そのことに気付いていながらする行為。
② 恐ろしい行為をしているのに気づかずそれを実行し、後になって近親関係を認知する場合。
③ 何も知らないために何か取り返しのつかないことを使用とし、実行する前に認知する場合。
④ 自分が何をするか気づいていて、それを企て乍ら実行しない場合。
4は絶対に避けなければいけない。それは憐れみを引き起こさず、苦悩も生じない。
・あらゆる認知のうちで、最も優れた認知は出来事そのものから起こる認知である。ありそうな出来事から、あるいは必然的な出来事から驚きが生じる。その次に来るのが、推論による認知となる。つねに驚きを狙うこと。筋とは、隠された驚きが次々明らかになっていく過程。
8:文体について
・文体には、日常語と修飾語が存在する。前者は明確さを、後者は感情的な効果をもたらす。明確にするべき説明と、登場人物の抱く感情をフィルタとして通す場合、それを分けて考える。5W1Hは日常語で。描写は装飾後で行う。
9:叙事詩について
・詩人は、自ら語ることをできる限り避けなければいけない。自分はあくまで再現する者であるということを忘れないようにすること。
10:読者・登場人物の年齢について
幼児:同じ年頃の仲間と遊びたくてうずうずし、起こったかとおもうとあっさり忘れてしまい、気分が刻々と変化する。
青年:守り役からようやく解放され、馬と猟犬、火を浴びた錬兵場に喜びを見出す。悪徳の型にはめようとすれば蝋のように柔らかく、忠告者には反抗し、将来のためを計ることを怠り、金遣いは荒く、地から舞い上がり、激しく求めるかと思えば、夢中になっていたものをすぐに捨ててしまう。解放、情熱、脱却、変化。
大人:富と縁故を求め、立身出世に囚われ、あとから正すのが厄介な間違いは初めから犯さないように用心する。安定。保守的。事なかれ主義。諦念。
老人:稼ぎはするが、稼いだものにあわれにも手を付けようとはせず、それを使うのを恐れるためか、あるいは何かにつけびくびくしながらも熱意なしに事に当たり、物事を先に延ばし、長い間希望にしがみつき、将来のことには欲が深く、気難しい不平屋。わかり私費を称え、年下の者を厳しく叱責する。恐怖、傲慢、臆病者。
アリストテレス 詩学まとめ 真田五季 @sanadaituki
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