第111話 これが小動物の力だ
「見てみろ! ロウさん! これが俺の誇る神官候補様だ!」
「なぜそんな子猫を持つような……」
俺は猫の寝巻を着たナチのわきの下に両手を入れ、持ち上げながらロウさんに差し出していた。ナチは膨れっ面だ。当たり前か。なんでこうなったかを口頭で言えば家から出てきたナチが猫耳と尻尾が付いた猫の寝巻を着ていて可愛かったから。
「ていうかロウさん、子猫とか言って可愛いとか思ったんだろ」
「おおおお思ってませんよ!」
「図星だな、良かったな、ナチ」
「むぅ……」
相変わらず不機嫌なナチは頬を膨らませて、何も言わずに抗議をしているようだ。だが、この可愛い生物を手放すほど俺はバカじゃない。
「ほぉら! ナチ!」
「きゃっ!?」
脇の下を持ったままナチを回していく。ナチは小さい悲鳴と目を丸くして驚いているようだった。
「ほらほら! ナチ! 楽しいか!?」
「やめへくらさい~!」
「アービス様……」
あ、ロウさんが引き始めた。俺はゆっくりとナチを回すのをやめ、地面に降ろすとナチはふらふらと地面にへたり込んだ。
「ナチ、俺と一緒にパーティーに入ってくれないか?」
「へ……よくそんな何事も無かったかのように……」
「入ってくれるって。ロウさん」
「え……まだ何も……」
「良かったですね! アービス様!」
「ああ! じゃあナチ! 今から三人目行くぞ!」
「え、あの……まだ何も……え?」
ごり押しを突きとおした俺はナチを脇の下を持って持ち直すと子猫を抱くように抱いてもう一人の候補の場所へと歩き出した。その間、ナチの表情が唐突な事態を飲みこめていない赤子のような表情をしていたが、あえて何も言わなかった。
――――
こうして俺たち三人が訪れたのはまたもやクライシスさんの家だった。もう一度、ノックを繰り返すと、今度はクロエちゃんが出てきた。もちろん、ちゃんとズボンを履いていた。
「さ、さっきはごめんなさい」
「いや、大丈夫。それより用があるんだ。クロエちゃんに」
「へ? え、えっとなんですか?」
「俺のパーティーに入ってほしいんだ」
「……なんで私なんですか?」
「最上級魔術士以外の知り合いがこの小動物とお前しかいないから」
「……さようなら」
「ちょちょちょっ!」
扉を閉めようとしたクロエちゃんの腕を引っ張り、なんとか留まらせる。急に閉めるなんてひどい後輩だ。
「ほら、ナチも来るんだからよ!」
「うーん、ナチ先輩は大好きだけど……」
「大丈夫! ロウさんも良い人だよ! 好青年だよ!」
俺はなんとかパーティーメンバーの良いところを言っていくがクロエちゃんのジト目は変わらず、不審に思われてしまっている。あ、そうだ。
「ほら、ナチ、両手を猫にして……」
「こ、こうですか?」
「そうそう。で、頬の所まで持ってて……」
俺はナチにこう言ってくれと耳打ちをした。するとナチは呆けた顔で頷くと俺に抱っこされながらクロエちゃんの方を見て猫の手を動かし出した。
「入ってくださいにゃん」
「うう……」
あ、効いてる。どうだ。うちのナチは可愛いだろ。あの村が産み落とした天使二人の内の一人だぞ。もう一人は性格だけは悪いが姿は天使のアニスだ。
「で、でも私、実践もしたことないんですけど……」
「そこは大丈夫だ。ロウさんが居る」
「お恥ずかしながら私も情報管理の業務が多くて実践はあまり経験が……」
うう。少し期待外れだが仕方がない。俺はロウさんの方に顔を向け、親指を立てた。
「大丈夫ですよ! みんな初体験ならなんとかなりますよ」
「不安しかないんですけど」
クロエちゃんのその言葉を俺も内心思い浮かべたが、ここでじゃあ、別の人をとなっても俺の人脈は尽きている。
「まぁ、良いですよ。いい経験にはなりそうですし。ただ、危なくなったらすぐ逃げますからね」
「うんうん! それで大丈夫!」
なんとかクロエちゃんを納得してもらい、パーティーに入ってもらった。俺はなんて策士なんだ。自分の才能が恐ろしい。
「あ、クロエちゃん、友達にモンスター討伐に興味ある武闘派みたいな人いないかな?」
「急にそんなこと言われても……」
「ぶっちゃけ興味なくてもいいや。なんか入ってくれそうな子が居れば男でも女でも良いんだけど」
「ならば私が行ってやろうか?」
部屋の奥から声が聞こえ、クロエちゃんの肩越しに奥を見るとネグリジェではなくピンクのエプロンを付けたセイラさんが出てきた。新妻みたいだな。この人。
「結婚おめでとうございます」
「本当に結婚できるならしたいものだ……」
ああ、なんだか根深い事情がありそうだ。クロエちゃんも苦笑いしか出来ていない。
「クライシスさんはどうしたんですか?」
「居るぞ、二階で掃除でも居るんじゃないか?」
なんか答え方が夫婦みたいだ。さっさと結婚すれば良いのに。
「あの、助かるんですけどセイラさんってどれくらいの魔術士なんですか? 最上級魔術士は入れれないんですよ……」
「私は……分からないな。元はドラゴンだが力が制御されていて実力の六割も出せん」
「今から検査って出来るんですか?」
「そうですね。検査ならいつでも出来ますよ」
「検査? ふむ。検査は苦手だ……」
ロウさんと適性検査の相談をしているとセイラさんの顔色が悪くなっていく。この人も子どもの様な感性持ちなのか……。
「どうしようかな」
「はぁ。セイラさん、無理しなくて良いから。私の友達を紹介しますよ」
「す、すまない。クロエちゃん」
「大丈夫ですよ」
クロエちゃんは苦笑いでセイラさんに手を振って安心させていた。なるほど。確かに気を遣いそうだ。だが、友達を紹介してくれるなら案の定だ。俺はクロエちゃんの案内の元、学園に向かって行った。
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