第110話 青の縞々で頭が沸騰した


 朝方。起きた俺は王城のメイドの世話になり、豪華な朝食をロウさんと取りながらパーティーメンバー候補の説明をし、食べ終わると同時に王城の近くにある勇者借家に向かった。


 ――――


 勇者借家のクライシスさん宅に着いた俺はロウさんを背後に置き、ノックを繰り返した。すると扉が開き、上半身裸のクライシスさんが現れた。ずいぶんワイルドだ。かっこいい。


 「おはよう。アービスくん、昨日は妹が世話になってしまったようだね」


 「い、いえ。逆に夜遅くまで遊ばせてしまいごめんなさい」


 「いや、良いんだ。妹ももう子どもでは無いのだから門限を付ける事は無いとセイラにもおこられてしまってね。さすがに探しには行ったんだが戻ってきたときはソファで寝ていたからね。確かに心配しすぎていたのかもしれないと考えを改めたよ」


 ああ、だから昨日、夜に居なかったのか。クロエちゃんの考えは憶測にすぎなかったということか。クライシスさんが彼女が出来て変わってしまったという俺の不安も消えた。


 「セイラさんと言うのは最近住み始めた?」


 「おや、知っているのかい?」


 「クロエちゃんから聞きました」


 「ク、クロエちゃんは私の事をなんと言っていた!?」


 「え、ええ!?」


 俺の元へクライシスさんの背後から現れたのはネグリジェ姿の大人の女性だった。なんというけしからん格好なのだ。というかクライシスさんの格好と相まって変な妄想が頭の中で沸々と湧き出してしまう。


 「セイラ。そんな恰好で外に出ない方が良い」


 「な、なんだ? もしかして嫉――?」


 「さすがに暑い時期でも朝方にその格好では風邪を引いてしまうぞ」


 「ああ、そうだなー」


 セイラさんの目が死んでしまった。クライシスさん、鈍感そのものだな。だが俺が口出ししても仕方がない。


 「まぁ良い。クライシスに期待などしていない。そ、それで? クロエちゃんはなんと言っていた?」


 「えっと……」


 それに答えるのもなかなかにハードルが高いな。クロエちゃんは確か、優しすぎて気まずいだったか。セイラさんはなかなか意を決したかのような表情をしているが俺のようなやつがクロエちゃんの気持ちを代弁しても良いのだろうか。


 「セイラさん! 先輩を困らせないでください!」


 すると奥からクロエちゃんがやってきて俺を庇うようにセイラさんの前に立ちふさがった。その表情は嫌がっていると言うより、困っている表情だった。

 だが、それよりも! 俺は顔を一瞬で背けた。


 「ク、クロエちゃん?」


 「あ、怒鳴ってごめんなさい」


 「いや、クロエ……」


 「ごめん、兄さん」


 「じゃなくてだな? クロエ。お前、下、履いてないぞ?」


 「へ?」


 クロエちゃんは自身の下半身を見つめる。そして、青の縞々柄のパンツと自身の血色の良いムチムチとした太ももが露わになっている下半身を見つめ顔を真っ赤にさせていき、俺の方を振り向いた。


 「ひぐぅ! や、やぁああ!!」


 涙の粒を溜め、心底恥ずかしそうに叫びながら家の中に引っ込んでしまった。後で怒られそうだ。というかここに住むとみんな露出して寝る魔法でもかかっているのだろうか……。


 「クロエちゃん!?」


 セイラさんが追いかけていき、家の中に引っ込んでいく。クライシスさんは慌てた様子で目を慌ただしく動かしていた。俺を置いていくことも出来ないと言う事だろう。


 「あ、後で出直しますね」


 「すまない。アービス君。そうしてもらえると助かるよ」


 心底申し訳なさそうにクライシスさんは俺に謝罪するが俺は気にしてないでくださいと手を振り、ロウさんと別の場所へと向かった。


 「すいません、ロウさん……ロウさん?」


 ロウさんは顔を赤くしてボーっとしており、俺はロウさんの肩を揺らした。するとロウさんは驚いたように背筋をピンっと立て、慌てて俺の方を見た。


 「へ?! ええ! 大丈夫です!」


 「ロウさんもしかしてクロエちゃんのパンツに見とれ――」


 「そんなわけないですから! 私が淑女の、何より見知らぬ女性の下着を見て興奮なんてしてません!」


 「わ、分かってますよ」


 この人、女性の免疫無いんだなぁ。すごい顔真っ赤だし、今にも頭から湯気が出そうだ。だが、ここで男子高校生のようなノリでいじったら脳内回路がバグってしまう可能性がある。俺はあえて大丈夫、分かっているという態度を見せ、ロウさんを落ち着かせていく。


 「はぁはぁ。分かってもらえて良かったです」


 「うん。落ち着こう? な?」


 「はい。申し訳ございません……」


 ロウさんは額の汗を腕で拭うと冷静を振舞った。次はあいつの家だからピュアピュア同士良いかもしれないなとロウさんの精神を案じながらもう一人の候補の家へと向かった。ちょくちょく帰っているから里帰りという感じはしないし、あいつともちょくちょく会っているからな。そういえばあの事件でナチも昏倒していたな。お見舞いの食いものでも買っていくか。

 

 ペロパリの起こした事件はロウさんから昏倒していた人たちは無事目覚め、現在ペロパリさんを捜索中とのことだ。俺は途中で抜けてしまったからすでにペロパリが国内に居ない事を知らないためだろう。ロウさんにだけ教えようとかと思ったが今は良いかと言わずに置いた。理由はなんとなくだ。

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