第89話 僕らはカップルに見えるらしいぞ!


 ペロパリさんが出て行ってしまった店内。俺とアモンさん、アニスは老紳士が持ってきてくれた食事を頬張り、作戦会議をしていた。


 「良かったな、解決だ」


 「いや、あれで放置して良いのかよ」


 「構わんだろ、アモンの望んだとおり、明日は来ないらしいからな」


 「うーん、それだけ考えれば成功だろうけど、ペロパリさんが可哀想じゃないか?」


 「初対面の奴を可哀想と思えるほど僕は博愛主義者じゃない」


 「勇者は博愛主義がなるべきだと思うんだ……」


 「最近、僕を勇者じゃないというセリフをよく聞くが勇者など定義があやふやな物だ。魔王を倒せればそれで良いという声もある」


 そんな声は聞いたことが無いが、確かにこれが勇者だという定義はない。クライシスさんのような人物だと勇者ではなく英雄だし。


 「とにかく僕は魔王退治以外は僕とアービスのために働くさ」


 そう言い切ったアニスはよく焦げたパリパリのふっくらトーストを頬張った。マイペースで羨ましい限りだ。俺のためというのは嬉しいけどさ。


 「私はペロパリさんを傷つけたのでしょうか~?」


 「そうですね、言い方が悪かったかもしれないですね」


 「難しいですね~、日を改めてほしいと思っただけなのですが~」


 「それは先に言わないから……」


 「言おうとしたらペロパリさんが叫んでどこかに行ってしまって~」


 「まあ、気にするな、またどこかで会えるだろ」


 「それでいいのか……」


 アニスとアモンさんはそれ以降その話をすることなく、アモンさんが野菜をナイフで切って食べだしたあたりをいじり倒して終わった。


 ――――


 アモンさんはケルベロスの世話があるというので先に帰る事にした。一応、礼は言われたがなんか釈然としない気持ちになる。


 「さて、アービス、ついでにデートでもどうだい?」


 「まだ昼過ぎだしな、どうすっか」


 最近、三人組とチェーンさんの件でかなりの金銭が入った結果、毎日こんな暮らしをしているが魔王を倒す前の体休めといったところだ。


 「そういえば魔王て復活したらどこで復活するんだ?」


 「なぜデートから魔王の話に……」


 「なんか俺たちこうやって遊んで暮らしてるけどいぞという時は戦わないとだなと思って」


 「大丈夫さ、僕が居ればアービスに指一本触れさせないよ」


 「言う方が逆な気がするんだよなぁ……」


 「アービスは僕の事を甘やかしてればいいんだ、なんの脇目も振らずにただ僕を見て、ね?」

 

 脇目も振らずにお前をすでにずっと見ている気もしたが、アニスに伝わってないということは頑張りが足りないのかもしれない。いや、アニスの求めるものはデカすぎるせいか。


 「アニス、公園でも行くか」


 「また膝枕をしてくれるのか?」


 「たまには身体を動かそうって意味」


 「それはベッドの上で良いだろ」


 「ベッドの上で身体を激しく運動させたことなんてないだろ」


 突然挑発的な事を言うのはやめていただきたい。こちらの我慢が限界突破したらどうするんだ。


 「じゃあ、これからは激しい運動込みでも良いんだぞ」


 「遠慮しとくわ……」


 「むぅ」


 アニスが膨れるがそんなに煽られてこちらは頭の中の妄想が大パニックだ。


 「そこのカップルさん」


 すると、耳に特徴のある高い声が耳に入る。男の人が無理矢理裏声で喋っているかのような声だ。


 「か、カップルだと!?そんな素晴らしい事を言ったのは誰だい!?」


 アニスは嬉しそうにそう言った男を顔を振って探す。そんなに嬉しかったのか。


 「私だよ、カップルさん」


 男は俺達の背後に立っており、赤いマントを羽織った。白いスーツを着た陽に焼けた男だった。年齢40後半くらいか。

 俺は警戒してアニスを傍に引き寄せる。


 「ほら見ろ! 僕らはこれくらいラブラブだ!」


 いや、そういう念押しのためにやったわけじゃない。後、ラブラブとか言うの恥ずかしいからやめろ。


 「あのどなたです?」


 「おお、申し遅れました、私、ハーリーと申します」


 「ハーリーさん?」


 「はい、私、この国の人では無いのですが、明日、この国の図書館で朗読会で本を読みに来まして」


 「あ、なるほど」


 つい納得してしまい、俺は話を遮ってしまった。


 「なるほど?」


 「いえ、特徴のある声だなと思って」


 「あ、すいません、最近は女性の演技を練習していまして……んん! あ! ああ! これで戻ったかと」


 おお! すごい! 声が裏声から低い男の声になった!


 「変声師か、何処の国から来たんだい?」


 「私、帝国から南の小国で生まれまして、そこからずっと旅芸人をやっております」


 そう言ってお辞儀をするハーリー。俺はこんな人も居るんだなと感心した。


 「ほう、頑張ってくれ」


 「ありがとうございます、それで、カップル様の二人に聞きたいことがありまして」


 「ああ、なんでも聞いてくれ、変声師」


 「実はペロパリ・ディーパという男性を探していまして……」


 「ペロパリならさっき一緒に居たぞ」


 「おお! お知り合いですか?」


 「ああ、今日初対面して、今日仲違いになった仲だな」


 「ははは、ペロパリさんになにか御用で?」


 「今どこに居るか知りませんか?」


 「ペロパリさんなら家に帰ってると思いますよ、基本詩を書いてるので」


 「やはり、彼はここで詩人をやっているのですね?」


 「は、はい」


 なぜか突然、嬉しそうにするハーリーさん。俺はなんの事だが分からず、顔をしかめるとハーリーさんは慌てる。


 「あ、す、すいません、なんせ娘が嫁いだ方がどんな人なのか、本人の説明以外知る機会が無かったもんで……」


 「は?今なんと?」


 今、聞き捨てならない事を聞いた気がする。


 「いえ、なんせ、突然娘がこの国から手紙を送ってきましてね? 有名な詩人さんと結婚したなんて書いてあるもんだから……心配で心配で。ですが私もその日暮らしの旅芸人でして、なかなか来れる余裕もなくて……今回は仕事のついでと言っては言い方が悪いですが……あれ?どうかしましたか?」


 俺とアニスは顔を見合わせ、ペロパリという男を思い浮かべる。そして、アニスがどうかは知らないが、なにやら悪寒が走った。

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