第88話 この人には何かあるのかもしれない
アモンさんの話だと明日急に来られても困るという事で俺とアニスはアモンさんに付き合い、ペロパリの元へと向かった。
ペロパリは住宅地の奥にある二階建ての一軒家に住んでいた。庭や玄関には鮮やかに咲いた花や植物が置いてあった。
「詩人の家って感じだな」
「そうかい?僕にはジャングルを家にしたみたいに見えるよ」
「アニスは植物興味無いもんな」
「植物が僕のためにアービスをがんじがらめに束縛してくれるなら好きだよ」
そんなロマンチックな束縛はお姫様のような人がされるべきだろ。俺がされてどうするんだ。あ、そういえば植物を操る魔法が魔導書に書いてあった気がする。
「……そんな魔法あったな、使える人見たことないけど」
「半分妖精の人間が使える神秘の技ですからね~!」
「そんな人種も居るんですね」
「噂ではこの大陸のどこかに居ると言われてますけどどこにいるんでしょうね〜」
「妖精みたいな人間か……」
女の人なら可愛いんだろうな。妖精は綺麗と聞くし、神秘的なものだからな。
「おい、アービス」
「なんだ? アニス?」
「妖精より僕の方が可愛いぞ」
「分かってるよ」
ストレートな言い分に少し吹き出しそうになったが、確かにそうだな、想像の美人より目の前の可愛い幼馴染だ。俺はアニスの頭を軽く撫でる。
「そ、そろそろここの詩人を尋ねるか」
「そうだな、家評論に来たわけじゃないし」
「ペロパリさん~?」
アモンさんの間の抜けた声が響く。すると中からバタバタと音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「好きな人に呼ばれたから驚いて階段から落ちたのかもな」
「え~! た、大変です〜!」
「それまずくね?」
「じゃあ扉をぶち破るか?」
俺は考える。もしもアニスの言う通りで頭なんか打ってたら大変だ。
『待ってくりゃさい! 』
中からへにゃへにゃとした男の声が聞こえてきた。どうやらペロパリさんのようだ。声が若いな。あの詩集はいつからあっただろうか。
「ペロパリという男、声に覇気がなさすぎるだろ」
「ペロパリさんは弱気な人ですからね〜」
「いくつの方なんですか?」
「う〜ん、確か二十四だったかと〜」
「クライシスさんより一つ上なんだ……」
俺は中に居る声の覇気がないペロパリさんの姿を想像出来ずに居ると、木製の扉が開いた。
「え、えっと、ど、どうかしましたか?」
中から出てきたのは茶色いローブを着た男性だった。やせ細った身体に青白い肌に痩けた頬。少しやつれた雰囲気だった。
これがペロパリさんか。なんか詩人というより病人だ。あの詩を書いたとは思えないな。
「詩人、僕はアニス、勇者だ、これは僕のアービスだ、アモンは知ってるな」
「ど、どうも」
僕のアービスで分かれというのは無理があるが俺はどうもとしか言えない。
「存じております……勇者の集いのアービスさんと勇者さんですね、アモンさんは久しぶりです」
「はい~! ちゃんとご飯食べてますか〜?」
「あ、い、いや、ははは、お恥ずかしい、詩を考えているとどうしても食が滞ってしまって」
なるほど。夢中になりすぎて他のことに意識が向かないタイプか。
ペロパリさんはアモンさんに視線をやらずに下を俯いてそう答える。恥ずかしがり屋なのだろう。
「倒れてしまいますよ~!」
「も、もう季節の変わり目に二回は倒れてますから、慣れっこですよ」
大変だ。もう手遅れだった。痩けた頬をさらにへこまして笑うペロパリさんの言葉はとても笑えなかった。
「そ、そういえば、なにか御用でしょうか?」
「あ、あのですね〜!」
「それより中に入れてくれないか? いつまで僕らをここで立たせるつもりだ」
「アニス、さすがに失礼だぞ」
どこの王様だ、お前は。
俺の注意を聞き、冗談だ、でも座りたいのは事実だとアニスは悪びれない態度でそう言いのけた。俺はペロパリさんの方を見た。
「すいません、ペロパリさん」
「い、いえ、構わないのですが……あのですね……あ、僕が料金を払いますのでご飯を食べにいきませんか……?」
ん? 家に誰か入れたくないのだろうか。ペロパリさんは何度も家に視線をやってはオドオドし始めた。いや、元からオドオドしていたがそれ以上だ。
「何かを隠すとタメにならないぞ、詩人」
失礼に失礼を上乗せしてペロパリさんを疑うアニス。確かに怪しいが、こんな場所でストレートに聞くなよ。
「か、隠すなんてとんでもない! 隠し事なんてありませんとも!」
「アニスの悪い冗談ですよ、じゃあご飯を食べにいきましょうか」
「そうですね~! そろそろお昼ですし、ペロパリさんも食べないとダメですよ~!」
「は、はい」
「詩人、悪かったな」
「い、いえ」
アニスはそう決まってしまったものは仕方ないとばかりに適当に謝ると、俺の腕を掴んで引いていく。
「どこに行くんだ?アニス?」
「ご飯だろ?」
「いや、そうだけど、ペロパリさん飯屋分かるのか?」
「詩人のあの様子で美味い飯屋を知ってるわけないだろ? な? 詩人?」
「あ、じ、実は行きたい場所がありまして……」
意外だ。食に興味無さそうなのに美味しい店を知っているのだろうか。食に興味が無い人が勧める店というのは興味があるな。
「むっ、詩人、美味くなかったら承知しないからな」
「だ、大丈夫です」
「楽しみです〜!」
ペロパリは頼りない笑顔を見せながら俺とアニスを抜いて先頭を歩き出した。アモンさんはペロパリの横についてどんな店なのかを聞いていた。
「気をつけろ、アービス、あの男」
「決めつけるのは早いぞ」
だが、俺はアニスの言葉を胸に刻んで歩き出した。彼の詩集。
【私物】
俺はこれに書かれている短編を後で思い出すことになる。
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