第5章
第86話 恋愛に興味なんかねえ!
珍しいことがあったもんだ。あのシャーロットさんがアニスに相談を持ちかけたのだ。
俺はいつものようにアニスに拉致られ、手作りスープをアニスの手で食べさせられて居たところにシャーロットさんは門前を叩いたのだ。
「勇者は死んだから居ない!」
などと狂言をのたまうアニス。
まさに死ぬほど面倒そうにあしらおうとしたが、シャーロットさんが、聞いてくれねえならここでここで延々と雷落としの練習をしてやると脅すとアニスは渋々、シャーロットさんを受け入れた。渋々すぎて扉開けるのに一分くらいかかった。
現在は勇者の家の応接室のような場所で話を聞いていた。中の感じは王城の応対室に似ていた。俺とアニスが並んでソファに座っている反対側のソファに座るシャーロットさん。なぜかプライベートだろうに黒い鎧を着こんでいる。
「なんでてめえはそんな際どい格好してんだ」
「僕がどんな格好をしていようと関係ないだろ」
アニスの格好は前俺の家に泊まりの時に着ていた薄い材質で出来たノースリーブの丈が足りてなくおへそがちらちら見てしまっている上と太ももががっつり見えている短パンのような下という露出度が半端ないくら高い服装だ。
正直、俺は感覚が麻痺しているのであまり気にしなかったがシャーロットさんは恥ずかしそうにアニスを見ていた。そして俺の方に視線をスライドさせた。
「ガキの目とかもあるだろが」
「それを狙っているんだ、バカかお前は」
「んだと!?」
怒鳴り上げ、立ち上がったシャーロットさんだったが、アニスは冷静に手のひらを掲げ、座る様に手を下に動かした。シャーロットさんは舌打ちだけすると腰を降ろした。
「で? なんだ?」
「いや、あのさ、例えばよ? アモンがさ、男と歩いてたらどう思――」
「知るか、帰れ」
「まだ途中だろうが!!」
アニスの興味の無さにブチギレるシャーロットさん。いや、でも男と歩いてるからなんなんだろうか。嫁入り前のお父さんのような発言を繰り出すシャーロットさんの言葉に俺の表情は困惑の色に染められた。
「だからよ? アモンがよ、歩いてたんだよ」
「アモンを馬鹿にし過ぎだろ、あんな人でも人間だぞ、歩けるだろ」
「いや、そういうことじゃなくてよ! 男とよ! しかも羊じゃなくて白い清楚な服着てたんだぜ!?」
「なんだって!? あの人、私服があったのか!?」
思わず立ち上がってしまう。あの人はあの格好でどこでも来るから仕事着以外あれしかないのかと思っていた。
「そこじゃねえだろ! あるに決まってんだろ!」
驚く俺にツッコミを入れるシャーロットさん。俺は確かに。と心を落ち着かせて座りなおす。アニスが少し呆れた様にため息を吐いた。
「男女が歩いているからなんだ? お前は子どもか、男女で歩くのにおめかしするのは当然だ」
「だってさ!? アモンがだぜ!?」
そんな高校生みたいなノリで放されても困る。あいつ、女と登校してたぜ~というクラスに一人は居そうなお調子者と大差ない。
「で? どうして欲しいんだ?」
「どうしてほしいとかじゃないんだけどよ? あの……どうして歩いてたのかなって」
「人と歩くのにいちいち理由が必要か?」
「なんか、気になんだよ! あのふわふわしたアモンが男と歩いてるなんて!」
「じゃあ直接聞いたらどうです?」
「ガキ、事態はそんな甘くねえんだよ」
「アモンさんと男が歩いてたら世界でも爆発するんですか?」
「あのな、アモンはな、魔術学校時代、かなりモテてたんだ」
それは意外だ。確かに美人ではあるがあの抜けている性格のアモンさんと付き合おうという爆弾処理班みたいな男が居るとは。
「だが、あいつは告られてもこう言うんだ」
シャーロットさんは少し間を置いて胸に手を当てた。
「はい~! 図書館に付き合いますよ~!」
「げほっげほっ!」
「おい、なんで突然むせてんだ」
突然、裏声できゃぴきゃぴし始めたシャーロットさんにむせてしまった。無理矢理感というか一切似ていない。物まね大会なら最下位だ。
「アモンのマネが絶望的に下手でむせたんだろ」
「はぁ!? めちゃくちゃ特徴捉えてましたけど~!」
「ぶっ!」
なんでもう一回やったんだこの人。マジでツボに入りかけたぞ。
「きたねっ! このガキ! なんでつば飛ばした!?」
「アモンのマネが絶望的にへたくそだからだろ」
「おい! さっきのにクソが付いてんじゃねえか!」
「それほど下手と言う事だ、分かったか? ならもう用は無いな、帰れ」
「モノマネの評論してほしかったわけじゃねえから!」
「じゃあなんなんだ? そのアモンと歩いていた男を殺せば満足か?」
そんな一緒にどこかに行けば満足か? みたいなノリで殺される男の方の身にもなって欲しい。
「そういうことじゃねえんだよ、あのさ、アモンにさ、一緒に聞いてほしい」
「なにを?」
「なんで男と歩いていたのか」
「帰れ」
アニスはあほくさ状態に入り、シャーロットさんを睨んで手を握って親指だけ立てると出口を指した。シャーロットさんはとてつもないほどに絶望した顔で俺を見るが、正直、そんな事、自分で聞いてほしい。
「シャーロットさん、自分で聞いた方が早いですよ」
「出来てるならとっきにしてるんだっつーの!」
「いつもみたいに、勢いでいけば大丈夫ですよ」
「嫌だね! なんか俺がそういう恋愛事に興味があるみたいだろ」
「大丈夫ですよ、シャーロットさんが実は喧嘩以外の事は興味があるけどクソ雑魚すぎて手がだせなぁ!?」
なんか投げられたんだが! なんだこれ! 石か!?
俺は小粒の石を拾い上げ、直撃したおでこを撫でる。こんな小粒の石でもこんだけの威力ってどんな腕力新てるんだこの人。さすがオーガを殴り倒した人だ。
「おい、シャロちゃん、アービスに石を投げるとは良い度胸だな!」
「俺をクソ雑魚と言ったそいつが悪い」
「クソ雑魚シャロちゃんは事実じゃないか」
「クソっ! 来るんじゃなかったぜ!」
「逆になんで来たんだ……」
最後のアニスの言葉が聞こえてたのか、なかったのか、シャーロットさんはそのまま家を出て行ってしまった。
「ほら、アービス痛かったね、膝枕をしてあげよう」
「いや、もうだいじょ――いだだだ!!?」
腕をつねられ、無理矢理膝枕をさせられた俺はアニスの柔らかい太ももに頭を乗せ、頭を撫でられ始めた。アニスは俺を傷つけても良いのか……? そういうのは良くないと思います! でも太ももの感触は最高だった。
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