第69話 クライシスさんは意外と色を好む?


 【ヒールオアシス】という店は繁華街の裏路地通りという場所にあるのだが雑多な店に並んでおり、外見は地味だが、内装はかなり派手なピンク系統な物が置かれた受付から先は全てが派手そうだ。受付から見える通路に部屋が何個もあった。個室か。


 「いらっしゃいませ」


 受付のお兄さんはスキンヘッドの怖そうな人だったが、物腰は低かった。


 「エア・バーニングさん! 久しぶりです!」


 「やあ、レドル、彼女はいるかい?後、エア・バーニングじゃなくてクライシスね」


 「失礼しました! クライシスさん! 彼女なら居ますよ!」

 

 「そうか、では二人ともまた後で」


 手馴れたやり方だ。クライシスさんはすでに店の奥に行ってしまった。隣の強運のガリレスはガチガチだと言うのに。


 「なんであんな手慣れてんだ?」


 「さあ? そんなことより俺の後ろに隠れるのやめてください」


 「敵勢調査だ」


 誰が敵なんだろうか……。

 ガリレスさんは俺の肩越しにクライシスさんと店員のやり取りを見ていた。なぜ来たのだろうか。

だが、俺も来たことは無い。正直、緊張していた。


 「お二人様はえっと……」


 「最上級魔術士のガリレスだ」


 なぜ急にカッコつけた?なんで俺を押しのけて黒いコートをバサってしたんだ?


 「あ、上級魔術士のアービスです」


 「これはこれは勇者パーティー随一の幸運なひとですね、上級で勇者パーティー入りしたのはあなたで初めてだとみんな噂しておりましたよ」


 て、照れていいのか? 聞きようによっては嫌味にしか聞こえないんだが……。


 「え? 俺は? 俺は? 俺がこの王国で随一の強運と言われてるんだけど?」


 自分に触れられなかったガリレスさんは店員にこれでもかと言うほどアピールをし、店員は厳つい顔をニコニコさせた。


 「ご存知ですよ、ガリレス様、匂いは取れましたか?」


 「その不毛地帯を脳汁タレ流させて彩ってやろうか?」


 「なんでシャーロットさん並の喧嘩腰なんですか……」


 「この不毛地帯が俺の事をくせえって言うからよ」


 「そこまで言ってないですよ」


 「不快になられたなら申し訳ございません」


 「気をつけろよ、こっちは勇者のパーティーなんだぞ」


 「いや、あなたは違うでしょうが……」


 なんでパーティーに無関係のガリレスさんがこんなにイキれるのかが不思議でならない。


 「申し訳ございません」


 「あ、この人が何を言っても勇者パーティーは動かないので大丈夫ですよ!」


 「動けよ! マブダチだろ!」


 「だからいつからマブダチになった……」


 「会った時から俺達は勇者パーティーを超えた友情で――」


 「はいはい、分かりましたよ、とりあえずどんな感じのサービスがあるのか教えてくれませんか?」


 面倒になってガリレスさんに適当をあしらった俺は店員さんにそう聞くと店員さんは快く説明してくれた。

 どうやら、この店は時間もそういう事をする時のルールも接客をする娘が決めるらしい。だが、この世界に写真はない。見せられた名前一覧から良い子を見つけねばならない。

 うお、女の子によって値段が違う。高ければ高いほどというやつか。あまりそういうのは関心しないが、現実でのこういう店のシステムも似たようなものか。そういえばクライシスさんは誰を選んだんだろう。


 「クライシスさんは誰を?」


 「この子です」


 店員が指指したのは一番高い女の子だった。え、家が三件は建つぞ? この値段。

 名前は、セイラ。


 「高いですね……」


 「クライシス様はですね、特別なのでほとんどこれの半分しか払わなくて良いんです」


 「特別?」


 「そんな半分割引が効くほど通ってるのかよ、英雄色を好むとはよく言ったもんだな」


 上手い。座布団一枚じゃなくて、クライシスさんが特別になるほど通うとは、クライシスさんの好きな人なんじゃないか? と疑う程だ。


 「そうですね、皆さんはクライシス様のお仲間らしいので教えます」


 「はい! 俺達、クライシスのマブダチなんで!」


 うわ、ガリレスさん楽しそうだな……。粗探しが好きそうな感じではあるから不思議ではないが。


 「実はですね、半年前にクライシス様がセイラを暴漢から助けてくれたんですよ」


 「ほう」


 「それからセイラもクライシス様を気に入りまして、クライシス様は半分以下の値段で良いとなっております」


 「なんだそりゃ、そりゃいっぱい来るわな、普通の半額以下で良いんだから」


 ガリレスは羨ましそうに話を聴いて、最初の楽しそうな態度とは一変、死ぬほどつまらなさそうな顔をしだした。俺はさすがクライシスさんと思ったくらいだ。


 「セイラは良い女ですしね」


 少し下卑た笑いを浮かべた店員。ガリレスと俺は顔を見合わせる。嫌な感じだ。だが、ガリレスさんはどうでも良いと思ったのか、氏名表を見て指を指した。


 「じゃ、俺、この娘でいいや」


 ガリレスさんが指さしたのは一番安い値段の娘だった。


 「この娘は正直、おすすめはしないのですが……」


 「馬鹿野郎、女の子におすすめもクソもねえよ、女の子は全員尊いもんだろ」


 「わ、分かりました」


 かっこいいことを言ってるんだろうが俺にはケチな守銭奴にしか見えない。それともこの前の件で俺はこの人を見誤ってるのだろうか。


 「んじゃま、俺は行くぜ」

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