第54話 かっこいいセリフを言ってみたかったんです~!
オーゲイを殴り飛ばしたガリレスはすぐさまこちらへ背中を向けて戻ってきた。戻ってきた彼の後からぞろぞろ現れる強面の男たち。
「なんで敵を増やして戻ってきてんだ!」
「馬鹿野郎! なんでこんなに傭兵が居んだ!」
ガリレスの言う通り、王都ではあまり見ないような連中も居る。というか全員見知らぬ顔だった。そして、勇者パーティーが護衛に就いたと知ってなお、この任務を金で受けた連中。
「この人たち、王国の傭兵や魔術士じゃない」
「そうだな、アービス、だが、心配するな、しょせん雑魚だ」
「んだとごらぁ!」
アニスの何気ない一言にキレる男。男は大型の鉈を振りかざしながら、アニスに素早く斬りこんできた。
「アニス!」
「ア、アービス!?」
刃の部分がアニスに迫る。俺は咄嗟に瞬発力を発揮し、アニスの腕を引っ張ると、自身の身体で包んで、男に背を向けた。
俺は刃物で斬られる痛みに耐えられるように、目を瞑った。
「な、なにっ!?」
――――だが、刃物は俺の背中に届かなかった。刃物と何か硬いものがぶつかる音が響く。
「いきなり大将狙いかよ、詰まんねえな!!」
止めたのはシャーロットさんの籠手だった。刃物を右手で掴み、左足で男の腹部の中心に強烈な蹴りを浴びせた。男は軽く吹き飛ぶと、ポーカー台に背中から叩きつけられる。ポーカー台は見るも無残に真っ二つになってしまった。
それを見た他の傭兵たちは各々の武器を構えて、距離を取りだした。さすがにオーガのように考えなしに突っ込んでは来ないか。
「君のおかげでアービスに傷が付かなかった、感謝する」
「ありがとうございます! シャーロットさん!」
「うるせえ、一応、従者だからな、いきなり大将狙われて黙ってられるか、アービス、そういう時は背中を向けるな……だが、かっこよかったぜ」
「シャロちゃん、感謝はするがアービスに惚れるのは許さん」
「誰が惚れるか、そんなガキ!」
シャーロットさんはそう言い捨てると、俺たちと反対側の傭兵団に突っ込んでいった。シャーロットさんはオフだったそうで、槍も鎧も着ていないが籠手は着けていたためか、傭兵を一撃でノックダウンしていく。
「やろお!!」
「しまっ!」
「
乱闘をしているシャーロットさんの背後を取った男がシャーロットさんの背中にナイフを斬り付ける。瞬間、アモンさんの声が聞こえ、シャーロットさんの背後に光る壁が生まれていた。光の壁はシャーロットさんへの攻撃を阻み、ナイフの刃は砕け散った。
「背後は任せて~!」
「おう! アモン!」
さすがアモンさん、普段は間抜けだがやるときはやる人だと信じていた。
反対側の数が多い方はシャーロットさんとアモンさんに任せてよさそうだっ!? 俺の目と鼻の先に投げナイフが飛んできやがった! 油断していた。だが、何とか当たらずに済んだ。九死に一生を得たってやつだ。
「い、犬君」
「どうしました? チェーンさ……チェーンさん!?」
なんということだ。俺の避けたナイフがチェーンさんの額に突き刺さっていた。俺は慌てて俯いているチェーンさんに駆け寄るとチェーンさんは俯いていた顔を上げ、ニコッと笑っていた。
「嘘だよ、ほら」
チェーンさんは刺さっているように見えたナイフの柄を持って見せると刃が無いおもちゃだった。いや、今、そんなことしてる場合じゃないから!
「馬鹿な事としてないで、俺たちは逃げましょう、まだまだ援軍が来るかもしれません」
「シャロちゃんは良いのかい?」
「おう! チェーン! ここは俺とアモンとガリレスに任せとけ!」
敵を殴り倒しながらそう言ったシャーロットさん、頼もしい。
「なんで俺まで!?」
「私もですか~!?」
「ガリレスはともかく、アモンは背中は任せろって言ってたじゃねえか!!」
「一度言ってみたかったんです~! 昔、シャロちゃんが言ってたから~!」
「はぁ!?」
アモンさんがやけに珍しくかっこいいと思ったらそういうことだったのか。シャロちゃんの受け売りなら納得だ。
「とにかく君らは残れ、僕とアービスで商人を守ろう」
「だからなんで俺まで!?」
「強運、後でシャロちゃんがお礼をするよ」
「いや、シャーロットに何が出来るんだよ! 喧嘩だけの女だぞ!」
「ああ? そんなに喧嘩してえなら後でしてやるから入り口の敵任せたぞ!」
「喧嘩でお礼ってどういうことだよ!?」
お礼参りかな? いや、今はそんなくだらない事言ってる状況じゃないか、だんだん中の敵が増えている気がする。俺はアニスの腕を掴んだ。離れないようにだ。チェーンさんはエルちゃんを抱っこしていた。足元に気を付けていれば大丈夫なはずだ。
「どこに逃げる!」
「裏口がある!」
「ありがと! ガリレスさん!」
ガリレスは腹を括ったのか、避けるだけだが足止めに協力してくれるらしい。裏口を教わった俺たちは賭場の奥に走っていった。
「おいごらぁ! 逃がすな!」
すると、背後から三人を抜けた敵が数人追いかけてきていた。ちくしょう、さすがに三人であの数押さえるのは無理があったか。
「相手をするか?」
「いや、相手をしていたらどんどん来ちまう! チェーンさん頑張ってくれ!」
「ああ! 大丈夫! 慣れっこだよ!」
チェーンさんの了解を得て、俺たちは全速力で賭場から脱出した。
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