第18話 君の役割は


 家の前に立ち眠りをしていたエア・バーニングさんを起こした俺は、エア・バーニングさんが目的地まで連れていってくれると言うので一時間歩かずに済んだことに安堵した。


 「では、失礼」


 「うおっ」


 エア・バーニングさんは俺を左の脇の下と腕で荷物を抱え込むと、右手から風魔法を溜め、ロケットのように飛び上がった。


 「うおぉおおおおおおおお!!!!」


 高すぎる高度に、速い速度。更に風を噴出する向きを止めて放つを繰り返して進んで移動するエア・バーニングさんの乗り心地というか持たれ心地は最悪だった。

 向きを変えるたびに頭はがくんがくんと揺れ、急に急降下した時はジェットコースターのようだった。


 「大丈夫かい? アービスくん?」


 「だいっ! じょう! ぶっ! です!」


 「そうか! なら良かった!! ここからもっと早くなるから気を付けてね!」


 「え? ちょっ! まあぁあああああああ!!!!」


 エア・バーニングさんはとてつもないスピードで国を横断すると、王城の近くに降り立った。王城への道にある並木道が大きく揺れる。そして、エア・バーニングさんはゆっくりと俺を降ろした。


 「あ、あ、吐きそう……」


 俺は千鳥足でふらふらと膝から地面に崩れ落ちた。視界がグラグラ揺れている。目が回ったのだろうか。視界が安定しない。


 「え!? すまない! 大丈夫だ! 匂いなら私が吹き飛ばそう!」


 「いや、そういう問題じゃな……おえっ」


 「では早く勇者様の元へ行かねばな、私に掴まりたまえ」


 「お願いしま……うぅ」


 エア・バーニングさんに連れてきてもらうのはやめよう。俺はそう誓いながらアニスの家までエア・バーニングさんに肩を貸してもらおうとしたが、背が高いエア・バーニングさんに腕を回すと足が宙に浮いてしまったので仕方なく、おんぶをしてもらう形になった。


 ――――


 エア・バーニングさんの大きな背中に身を預けながら、王城の外を通って勇者の家に向かっていた俺は、ある疑問をエア・バーニングさんに聞いてみた。


 「そういえば、昼食届けたの誰から聞いたんですか?」


 「ん? それはもちろん、妹さ、会っただろう? クロエに」


「彼女、なんて言ってましたか?」


 「変態を寄越すな! と怒られてしまったよ」


 「い、いや!そんな変なことはしてないですよ!?」


 「分かっているよ、君はそういう事をするタイプには見えないからね」

 

 まあ、変なことと言えば変なことだが、初対面の女性の頭を撫でるのが変態かと言われれば確かに変態行為かもしれない。だが、ここは穏便に済ませるために誤魔化しておこう。


 「でも話って事はすごい仲が悪いわけじゃないんですね」


 「ん? ああ、今日は珍しいよ、普段は街であっても目も合わせないからね」


 「そうなんですか?」


 「ああ、そうなんだ」


 やはり妹の話をする時のエア・バーニングさんは寂しそうな声色をした。もしかたしたら思春期の妹に手を焼く兄といった風なんだろうか。それなら微笑ましいが。エア・バーニングさんの兄であって兄ではないという言葉に引っかかりを感じた。ここで良かったら何があったか教えてくださいとアニス並みの図々しさがあれば良かったが俺はなんとなく聞けなかった。


 「あ、後、一つ聞いていいですか?」


 話題転換に聞いてしまったが、これは大事な質問だ。俺はこの返答次第によっては俺はシャーロットさんに貰った言葉と同じくらいのショックを受けるだろう。


 「ああ、良いとも、疑問に思ったことはなんでも聞きなさい」


 「どうして上級止まりの俺が勇者パーティーに入ったのをすんなり受け入れてくれたんですか?」


 この質問は俺にとって覚悟が要る質問だった。

 これで、誰にも受け入れられないのは同情してしまうからとか、勇者や国に選ばれた仲間の一人だからとか、私はどんな人も守って見せれるからといった俺じゃなくても成立する答えなら。女々しいかもしれないが、そういう答えだった場合、自信が今以上に喪失してしまうかもしれない。

 シャーロットさんにも抜けるならさっさと抜けろと言われてしまってから、もしこのまま入って足しか引っ張れないようなら俺は、アニスに嫌われてでも辞めないといけない。そう感じて過ごしていた。プレッシャーだったのだ。今にして思えば勇者になりたいと言っていた自分はどんな自信があって言っていたのだろうか。内定などあの胡散臭い野球男がくれただけに過ぎないのに……。


 「誰でも良かった――――」


 ああ、この人は自分が強いから、どんなに足手まといかもしれなくても国に選ばれた勇者パーティー魔術士ということで仲間として受け入れられるんだ。上級でも――――。


 「――――わけじゃない」


 「え?」

 

 その後の言葉に俺は驚いた。まるで心を見透かされたようなそんな気分だった。エア・バーニングさんの表情は見えないが声のトーンが普段の爽やかな物言いではなく、真剣だった。


 「君はきっと自分なんかが、勇者パーティーに入ったのは間違いだと思ってるんだろうが……私はそうは思わない」


 「そうですかね……」


 「勇者様は悪い人ではないが、気難しそうな半面をお持ちだ、今だってシャーロットさんと喧嘩をしているだろ? だからそういう時になだめられるのは頼られている君ではないかね? 私もシャーロットさんもアモンさんも彼女の事を知らない、君だけなんだ、なにも勇者パーティーは何も武力がすべては無いよ、勇者様を助けるパーティーなんだ、もしも精神面の問題に勇者様が直面した時、救えるのは君だと思うな」


 そう暖かい声で言ったエア・バーニングさんはやっぱりかっこよかった。


 あれだ。あの友達と一緒に部活に入った感じだ。俺はそう思い、確かにアニスのストレスを和らげるのは俺しか出来ないのかもしれないと少し自惚れた。

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