ハッキリと言っちゃうタイプの人

「間宮君。おはよ」

 朝、リビングへやって来たのは山野さんだ。

 目を擦っており、少しばかり眠そうなのが見て取れる。


「眠れなかったんですか?」


「まあね」


「色々ありましたし、そりゃそうですね……」


「うん、昨日は色々ありすぎてびっくりだよ」

 

「コーヒーでも飲みますか?」


「よろしく!」

 二人分のコーヒーを淹れようとキッチンへ。

 すると山野さんも着いて来た。


「待ってて良いんですよ?」


「ううん。間宮君にちょっとキッチン周りについて教えて貰いたいからさ」


「りょうかいです」

 俺は色々と山野さんに教えていく。

 姉さんの会社から支払われる家賃補助がまあまあ金額がデカいらしく、住んで居る部屋は余裕のあるファミリー層向けマンション。

 アパートのキッチンとは比べ物にならないほどにしっかりとしている。

 もっとも大きな違いはコンロが3口もあることだ。


「あ、そうだ。今日は私に朝ご飯を作らせてよ」


「じゃあ、お願いします」


「任せて!」

 まあ、調理器具とかの場所が分からないため、何だかんだで俺は山野さんの後ろに立って見守らなくちゃだけどな。

 期限が今日までの食パンと買い置きしてあった卵。

 それらを使って、山野さんはとある料理を作って行く。


「フレンチトーストですね」


「残念ながら不正解だよ。フレンチトースト風クロックムッシュかな」


「甘くないフレンチトーストみたいなやつで、中にハムとかチーズとかを入れる奴であってますか?」


「うん、大体そんな感じ。寧々さんの分も作っとくでしょ?」


「お願いします」


「おっけ~」

 山野さんがキッチンで料理を始める事、ものの10分。

 出来上がったフレンチトースト風クロックムッシュ。

 姉さんはまだ寝ているので、二人でコーヒーと一緒に食べ始めた。

 牛乳を少なめにしてある事もあり、柔らかすぎずに表面はバターのいい匂いがし、ちょっとカリっとしている。

 パンを噛みちぎると、卵とチーズとハムのうまみが口いっぱいに広がる。

 そして、それを纏めるかのようなパンの口当たりが堪らなく心地よい。


「上出来だね」


「美味しいです。これは、料理上手なお嫁さんになる風格を感じます」

 朝からちょっとおしゃれ? な料理を作ってくれた山野さんを褒める。

 そしたら、満更でもない顔で照れてしまった。

 うん、山野さんは朝から可愛い。


「あははは、ありがと」


「なんかあれですね。これって、同棲してるみたいだなって」

 

「してるみたいじゃ無くて、本当に同棲してるんだよ?」


「ああ、確かに」

 山野さんと向かえた朝は夏休み以来だ。

 その時と違って妙に安心感がある。

 ふと、横に座っている山野さんを俺は見てしまう。

 口元にちょっぴりパン屑をつけていたので、俺はティッシュペーパーで頬を拭ってあげた。


「えへへ。ありがと」


「いえいえ」

 幸せを噛みしめていた時だった。

 いつの間にか開いていた扉の隙間からこっそり姉さんが見ている事に気が付く。


「ね、姉さん?」


「あらら、バレましたか。おはようございます。哲郎、楓ちゃん。朝から、良い感じですね」


「は、はぃ……」

 消え入りそうな声で答える山野さん。

 顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 それもそのはず、今まで二人だけの秘密であったひと時を誰かに目撃されたんだ。

 当たり前の事である。

 なお、もちろん俺も恥ずかしくてまじまじとこっちを見て来る姉さんの方を向くことが出来なかった。


「私の分はありますか?」


「き、キッチンに置いてあります」


「ありがとうございます」

 キッチンにクロックムッシュが乗った皿を取りに行く。

 そして、姉さんは俺と山野さんが隣同士で座っている真ん前に座った。


「……」


「……」

 気まずい。なんか、気まずい。

 俺と山野さんは無言でパクパクと食べている。

 そしたら、姉さんは満面の笑みで俺達をからかって来た。


「あ、私の事は気にしないでくださいね?」

 出来るか!!! 

 姉の前で彼女とイチャイチャできる程、図太い神経の持ち主でない俺。 

 山野さんも気まずくて暑くもないのにパタパタと手で顔を扇いでしまっている。


「で、姉さん。今日はなんか予定があるのか?」

 話さないから気まずい。

 姉さんの予定を聞いて、場の空気を変えていく。


「いえ、今日は仕事がお休みです。なんなら、明日も休みで二連休です。予定は悲しい事に無いんですよね。せっかくの二連休なのに……」

 普段は2日まとめて休むことの無い姉さんは悲し気に嘆いた。

 山野さんは姉さんを気遣って言う。


「私達なんて無視して遊び行って大丈夫です!」


「ふふっ。ありがとうございます。楓ちゃん。もっと、私には気楽に話して良いんですよ? 哲郎みたいに話すように」


「え、あ、良いの?」


「はい。私はこの口調を辞めるつもりはありませんけど、別にこう言う丁寧な口調を他の人に強要するつもりはないですし」


「う、うん」


「さてと、楓ちゃんに気遣って貰えたのでどこかに出かけようと思ったんですが、まあそれは辞めておきましょう」


「なんでだ?」


「だって、私が居ない間に二人で色々しちゃうかもしれませんし。にしても、楓ちゃんも抜け目ないですね。私をさりげなく家から追い出すことで、哲郎と二人きりになろうなんて」


「ち、ちがうから!」

 山野さんはあたふたと手をわちゃわちゃと動かしながら弁解する。

 そんな彼女を見て、姉さんはくすっと笑った。


「ごめんなさい。可愛いので、ちょっと意地悪しちゃいました。さてと、ご飯を食べ終わったら、二人にこれからの生活費を渡しますね」

 それから朝ご飯をゆっくりと噛みしめる俺達であった。

 なお、姉さんに『はい、あ~ん』とかしないんです? と弄られたのは言うまでもない。




 で、朝ご飯を食べ終わった後、姉さんは財布からお金を取り出す。


「食費です」

 俺と山野さんの前に置かれたのは何枚かの一万円。

 そして、姉さんは言った。


「二人とも良い子なので余ったら残りはあげます。そして、これが水道代です。これまた、余ったらあげます。最後にガス代。これも残ったら二人のものです」

 次々と財布からお金を取り出し俺達の前に置いてくれた。


「節約すれば俺達のお小遣いが増えると」


「そういう事です。残ったお金は必ずデートで使うことが条件です。ただし、デートで生活費を節約して残ったお金以外を使うのは、交通費以外NGです。どうしてもと言う時は相談してくださいね」


「何でこんなことするの?」

 山野さんが姉さんに聞く。

 そしたら、姉さんは満面の笑みで言った。


「二人がちょっと妬ましいからですよ。苦労させたいんです」

 そんな風に言う姉さん。

 しかし、置かれた食費と光熱費はどう見ても過剰だ。

 節約しなくても、そこそこ余るのは目に見えている。


「にしても、これじゃあ節約しなくても余るんじゃ……」


「余計な事を言うと取り上げますよ?」

 多分姉さんは俺達を気遣ってくれている。

 本当に妬ましいんだったら、こんなにもお金をくれていないだろう。

 と思っていたら、最後にとんでもない爆弾を投下して来た。


「まあ、家でしちゃダメと言ってます。なので、私のせいでお金がないからってホテル以外でやられてトラブったら困りますし」

 

「……」


「……」

 

「あれ? 私、何か間違ったこと言いましたか? 」

 いや、うん。

 間違ってないけどさ、なんと言うかもっと包み隠して欲しいんだが?


 

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