目を離すとすぐに
話す事も話した。
で、何を話したらいいのか悩み始める前に、俺と山野さんに姉さんは言った。
「今から出前を取ろうと思うんです。二人とも待てますか?」
「え、俺は良いけど」
「わ、私も待てます!」
「じゃあ、頼んじゃいますね」
姉さんはネットで和食系の出前をやっているお店にお寿司とおかずのセットを出前して貰えるように注文した。
それをそわそわとする山野さんが俺にひそひそと声をかけて来る。
「もしかして、歓迎してくれる感じ?」
「でしょうね」
俺達の話し声が聞こえていたのか、ため息ついた後、姉さんは笑った。
「だから、そもそも二人を悪いようにしないと言いましたよね? まったく、楓ちゃんがここに住むのなら歓迎するのは当たり前です」
「す、すみません。なんか気を使わせちゃって……」
「いえいえ。楓ちゃんこそ、もっと気楽にして良いんですからね? あそこの哲郎と同じように」
「そうか? これでも十分、気を使ってると思うけど」
軽口を叩いたら、姉さんに口元を指さされた。
「こういう風に砕けた口調でって事です」
「あ、あはは……」
すぐに口調を変えられるわけもなく、以前と緊張している。
ここまで緊張している山野さんは初めてだ。
そんな風に考えていたら、姉さんが財布を取り出して1000円札を俺に手渡す。
「これは?」
「哲郎と楓ちゃんで飲み物を買ってきてください。どうせ、うちにはお茶くらいしかありません。たまにはジュースをと思いまして。あ、せっかくですしお菓子とかも買って良いですからね」
本当に気遣いの鬼である。
俺と山野さん。
思いもしない出来事の連発で互いに話したい事がたくさんできた。
それを解消させるために、飲み物を買いに行かせようって魂胆だろう。
「分かった。じゃ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
俺と山野さんはジュースを買いにコンビニへと歩き始めた。
季節は秋。
少し寒いと感じるようになってきた夜空の元、俺と山野さんは歩く。
最初に声を発するのは俺ではなく、
「なんだか。凄いことになっちゃったね」
はにかんで笑っている山野さんだ。
姉さんの目がない事もあり、心なしか落ち着いているように見えた。
「ほんとですよ。それにしても、まさか山野さんと俺の実家がお付き合いがあったとは思いもしませんでした」
「それにしてもさ、なんと言うか間宮君。ごめんね?」
「何がですか?」
「私の実家に付き合ってるのがバレちゃって。なんと言うか、重く感じさせちゃったでしょ」
「あ~、確かに重さは増しました。でもまあ、これはこれで良かったです」
「なんで?」
「だって、山野さんと一緒に過ごす時間が増えましたし」
恥ずかしさを紛らわすために頬をかきながら言った。
そしたら、山野さんはくすっと嬉しそうに笑った後、いきなり俺の手を握る。
「間宮君って私の事、好き過ぎでしょ!」
「そう言う山野さんこそ、手をいきなり握るとか俺の事が好きですよね?」
「あはは、そっか」
「さてと、姉さんから貰ったこの1000円。久々にジュースとかお菓子を買って良いお金です。何が食べたいですか?」
「私はチョコレート! 実は新商品で美味しそうなのを見つけちゃって買おうか悩んでたんだ」
コンビニで何を買おうか話しながら歩く。
その時間が堪らなく楽しいのは言うまでもない。
で、あっという間にコンビニで飲み物とお菓子を買った俺と山野さん。
ゆっくりと歩いてマンションに戻った。
リビングでくつろぐ姉さんが俺達を見て呆れたように笑う。
「二人は期待を裏切りませんね」
「何がだ?」
姉さんの目線がコンビニで買って来たものが入っているビニール袋の方へ。
いや、違う。ビニール袋を持つ手の方に向いていた。
ビニール袋を持つのは俺と山野さんの二人だ。
そう、買い物を終えて俺が持つ私が持つという論争を繰り広げた後、じゃあ一緒に持ちましょうと片方ずつ持ち手を持っているのだ。
「あははは……。やっぱり、え~っと、寧々さん的にはこういう風に一つのビニール袋を二人で持っちゃうのって目につきますか?」
「楓ちゃんの言う通り、目につきますよ。ですが、二人もそう言うお年頃。わきまえれば問題なし。とはいえ、イチャイチャしてるのを見て、やっぱり私が居なくてはって感じたので笑っちゃったんです。まあ、あれです。そのくらいなら、別に許してあげるので気にしないでください」
きっちりとスタンスを明確にしていく姉さん。
萎縮しすぎて、したい事も出来ない。そうはなって欲しくないというのが良く伝わって来た。
干渉し過ぎて俺と山野さんの関係にひびは入れたくないんだろうな。
「ありがとうございます。寧々さん」
「いえいえ。私の方こそ、哲郎なんて不甲斐ない弟を貰ってくれるので、お礼を言いたいくらいです」
それから、会話に花が咲いた。
色々と話していく中で、山野さんと姉さんが打ち解けていく。
話していく内に話題は俺の口調に焦点が合う。
「哲郎。なんで、山野さんって呼ぶんですか? 彼女なら下の名前で呼ぶのが筋という物でしょうに。あと、楓ちゃんも間宮君って呼ぶんじゃ無くて哲郎って呼ばないのはなんでですか?」
「えーっと。呼びたいけど、そのなんと言うか、山野さんって呼び方も好きなわけで……」
「私もそんな感じで……」
「なるほど。今はそう言う風に呼び合いたいって感じですね。確かに、恋人になったからと言って、呼び慣れた名前で呼べなくなるのは……少し寂しいと」
今はまだ山野さんと呼んで居たいし、山野さんに間宮君って呼ばれたい。
まあ、確かに哲郎って下の名前で呼んで貰いたい気持ちはあるけどな。
とまあ、そんな話をしていたら出前が到着したようだ。
玄関先に出て寿司とオードブルを受け取る姉さん。
そして、俺は食べられるように取り皿とお箸などを取りに行く。
山野さんも手伝うとキッチンの方に着いてきてくれた。
二人で用意をする中、山野さんが俺の事をこう呼んでくる。
「哲郎君。お皿はこれで足りるかな?」
「……」
「っぷ。ごめんごめん。固まらないでよ。さっき、下の名前で呼ばないのかって話が出たから読んでみただけなのに」
思いもしない呼び名でいきなり呼ばれ固まってしまった俺を笑う山野さん。
ちょっとやられた気がしたので、仕返しで山野さんをこう呼ぶ。
「楓さん。もう2枚くらいお皿を持ってっても良いんじゃないですか? 」
「……」
黙る山野さん。
ほら見た事か、いきなり下の名前で呼ばれたらそうなるんだぞ?
したり顔で山野さんを見つめていると、照れた声で俺に言った。
「哲郎君。下の名前で呼び合うのも悪くないかもね」
「ですね。楓さん」
そんな風に二人で微笑みながら食べられるように準備を進めていた時だ。
玄関で代金を支払い、お寿司とオードブルを持った姉さんに笑われた。
「まったくもう。少し目を離しただけなのに。すぐにいちゃつくんですから。さてと、さっさと用意して乾杯しますよ?」
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