そして、始まる同居生活
恋人が出来た次の日。
目覚ましが鳴る前に、目を覚ました俺は時計代わりの携帯で時間を確認した。
すると、メッセージアリの通知が一件届いていた。
『おはよ! 今日も一日、頑張ろうね!』
山野さんからのおはよう。
寝起きですっきりとしない頭を一瞬で冷めさせてくれた。
さて、俺も山野さんにメッセージを送るとするか……。
『おはようございます! 今日もいい天気ですね!』
『うん!』
すぐに返って来た返信。
それから、気が付けば長々とメッセージでやり取りを繰り広げてしまう。
もう面倒になった俺は電話を掛けた。
「面倒なので電話をかけちゃいました」
『ふふっ。私もそろそろ電話しちゃお~って思ってたよ。改めて、おはよ!』
朝、お弁当を作るために早く起きている俺と山野さんはお弁当をそっちのけでお話を続けてしまう。
そして、学校へと足を運ぶべくマンションを出る。
ちょうど敷地を出た時、
「ま~みやくん! 来ちゃった!」
山野さんがぴょこんと物陰から姿を現した。
出会ったそばから山野さんは上機嫌で俺の横を歩き始める。
そんな彼女はそわそわとしながら、小さな声で俺に聞く。
「私って間宮君の彼女だよね?」
「もちろん」
「ん~、良い気分だよ。でもさ~、間宮君……。ちょっぴり残念なお知らせがあるんだよ」
「あ~、何となく分かります」
横を歩く山野さんと俺の間の距離は昨日のデートなんかよりも広い。
曲がりなりにも生徒会長。
いや、それだけであれば別に問題はなかっただろう。
山野さんは受験で合格するのが難しい大学の指定校推薦を狙う生徒会長だ。
内心点の他に、普段の行いも絶対に先生たちは考慮する。
だからこそ、目立つ行動は出来ない。
ましてや、彼氏とイチャイチャする姿など風紀を乱すことをすれば、絶対に目をつけられる。
……まあ、指定校推薦を貰える可能性は非常に低くなっているんだけどな。
だが、だからと言って、すべての希望を捨てきれるわけじゃあないのだ。
「指定校推薦が貰える可能性が低くても、今まで頑張って来たからね……。ごめんね? 学校ではちょっと距離を置いちゃうかも」
「気にしないでください。簡単に諦めきれるようなことじゃないのは、身をもって知ってますので」
指定校推薦を狙うための努力を知っている。
学内での定期試験。生徒会長としての内申点。
それらをしてきたからこそ、指定校推薦を貰える可能性が低かろうが、諦めきれるわけがない。
「ありがと」
「いえいえ」
まあ、学校では今まで通りというのはちょっとだけ残念だ。
そんな風に思っているのが分かっているからこそ、山野さんは俺に笑って言う。
「その代わり、学校以外では遠慮しないよ?」
「はいはい。そうですね」
いつも通りに歩いて学校に向かう俺達。
普段とあまり変わらない。
でも、いつもよりウキウキとした気分で学校へと歩くのであった。
初めて、恋人になった山野さんとの通学。
それはそれは……いつもより数倍幸せなのは当たり前か……。
昇降口で山野さんと別れた後、俺は教室に向かう。
そこにはいつも通りの顔ぶれがあり、いつも通りな日常が転がっている。
山野さんと恋人になろうが、ここでの日常は全く変わらない。
そう思っていたのだが、俺の顔を見るや否や、うざい幼馴染ことみっちゃんは俺に近寄って来た。
「ねえ、哲君。なんかあったの?」
「なんもないぞ」
「え~、誰がどう見てもご機嫌じゃん」
「お前の気のせいだ」
煩そうなので山野さんと恋人になったことは言うつもりはない。
みっちゃんは俺が山野さんと脈なしだと思い込んでおり、姉であるけい先輩をやたらと進めて来るうざい奴。
いや、山野さんという恋人がいるのに、けい先輩を勧められても困るだけじゃ……。
となると、うざいの覚悟で付き合い始めたのを言うべきか?
「ねえねえ、教えてよ~」
「知るか」
とはいえ、指定校推薦を狙う山野さん。
みっちゃんが周りに言いふらすのも迷惑だろうし、言わない方が良いな。
「まったくもう。冷たいな~。はいはい、良いですよ~だ」
ふてくされて俺の前から去っていくみっちゃん。
そんな彼女には言うつもりはないが、その姉であるけい先輩には山野さんと恋人なったことを伝えようと思う。
今思えば、めちゃくちゃアシストをしてくれていた超頼れる先輩だったのだから。
いや、ほんとすみません。
という訳で、お昼休み。
けい先輩に少し話したい事があると伝え時間を作って貰った。
人気のない場所で俺は周りを見渡して誰も聞いていないのを確認した後、けい先輩に話した。
「あの、今ままで数々のアシストありがとうございました」
「……そう。やっとくっ付いたのね」
ため息を吐かれるも、優しい目つきで俺にはっきりと言ってくれた。
「おめでとう。でもね、もう少し早く素直に私の助言を聞いても良かったんじゃないの? どうせ、くっ付いたからにはどこら辺から好きだったとか話したのでしょう?」
「その節は本当にすみませんでした」
「ええ、まったくよ?」
ちょっぴり怒られる俺である。
まあ、うん。
けい先輩の言う事を聞いてたら、山野さんと恋人になるまでヤキモキとした気持ちを抱く必要なんてなかったんだからな……。
ここはやっぱり反省の意味合いも込めて、しっかりと怒られておくべきだろう。
気が付けば学校も終わり帰り道を歩く俺。
そもそも学年が違うしクラスが違う山野さんとは恋人になろうが、学校での生活は何の代わりもなかった。
帰り道を歩く中、まあこんなもんだろ。
そんな風に思っていた時である。
山野さんから届くメッセージ。
その内容は俺の心臓を破裂させるんじゃないかってくらいドキドキした内容。
『間宮君。今日、暇だよね? これから、うちに来る?』
彼女からそんな誘いを受ければ当然だろ?
浮足立つ俺は山野さんの部屋へ行き、インターホンを鳴らす。
軽やかな足取りが聞こえた後、がたっと開く玄関。
もちろん現れたのは……
「えへへ。来てくれて嬉しいよ。間宮君」
山野さんだ。
それから普通に彼女の部屋に上がって楽しい放課後を過ごす。
ただやっぱり、告白するまでも奥手であった俺と山野さんは奥手である。
手を出せない。
恋人になろうが、恋人がするようなことが全然出来ずにいた。
まあ、焦らずじっくりと進んで行けばいい。今までだってそうだったんだから。
そんな気軽に身構える俺と山野さん。
1日、2日、3日、と恋人になってから過ごす山野さんとの時間。
放課後になれば、すぐに山野さんのお部屋に行っては二人で料理したり、お話したり、映画を見たりする。
そして、夜になったら名残惜しいが俺は山野さんの部屋から去っていく。
日々これの繰り返しをする中で、恋人らしいことをいつかはするんだろうなあと胸を高鳴る幸せな時間。
でも、長くは続かなかった……。
「最近、帰りが遅いと思っていたらこういう事だったんですね?」
「え、あ」
山野さんの部屋から出て、アパートの外まで山野さんのお見送りを受けていた。
そんなところを会社帰りの姉さんに見つかってしまったのだ。
「彼女が居る事には文句はありません。ですが、その……節度は持たなくちゃダメです」
彼女の部屋に入り浸る男。
そりゃまあ、してることはしてると思われているに違いない。
ちらっと横を見ると、山野さんは何が何だか分からないのだろう。
ポカンと口を開けて固まっている。
「いや、節度は守って……」
が、しかし無駄だ。
この状況で節度を守っているだなんて言おうが信じて貰えるわけがない。
姉さんは恋人がいるのは反対はしないものの俺に言う。
「哲郎に彼女が居るのは別に良いんです。問題は、一人暮らしの女の子の部屋に入り浸るのはさすがに爛れ過ぎという事です。といっても、聞く耳を持ってもらえないでしょうし、実力行使と行きましょう」
「ね、姉さん?」
「哲郎。なんで哲郎はスムーズに一人暮らしを始められたと思いますか?」
「ま、待ってくれ意味が……」
「理由は簡単です。モデルケースが存在していたからです。そう、田舎を飛び出て一人暮らしを始めた一人の女の子が存在していて、それを知っていたからこそ哲郎は一人暮らしが出来たんです。実は黙っていたんですが、山野楓ちゃんのご両親と私達の親は知り合いなんですよ? 哲郎を上京させる際に楓ちゃんが居たから、もの凄く哲郎の上京はスムーズに進んだわけです」
さーっと血の気が引いていく。
今思えばお隣さんが俺と同じ境遇で、田舎から出て来た一人暮らしをする高校生だなんて、奇跡が起こったとしか言いようがない。
俺と山野さんが出会ったのは偶然じゃ無くて必然だった?
「あ、どうも間宮寧々です。え~っとですね。かくかくしかじかで、うちの哲郎と楓ちゃんが恋人同士になったみたいでして……」
俺らそっちのけで誰かと電話している姉さん。
もう何が何だか分からないまま、待ちぼうけする事、10分後。
姉さんは山野さんと俺に言った。
「という訳で、今、山野楓ちゃんのご両親に電話してご了承を貰ったので、言っちゃいますね」
姉さんは息継ぎして俺達にはっきりと告げる。
「楓ちゃんを預かる事にしました。私の監視があれば多少はマシになる事でしょう。という事で覚悟してください。二人には爛れた日々なんて送らせませんよ?」
こうして、俺と姉さんが住む3LDKのマンションに新たな住人がやって来ることが決まったのであった。
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