第64話間宮君が好き過ぎるせいで告白できない!

 トイレに引き籠り数分が経とうとしている。

 いくら時間が経過しようが、変な息苦しさが消え去る事は無い。

 むしろ、より一層と苦しくなってきてる気がするくらいだ。

 

「さすがにな……」

 友達として好かれているのか、異性として好かれているのか、それが分からなくて立ち往生。

 普通に山野さんは俺の事を異性として意識してくれているのを知った。


 乙女心をもて遊ばれた。

 それはきっと、俺を異性としてはっきりと見てくれているから。


 男の人の体が気になる。

 長い付き合いがあるからこそわかる。

 山野さんは男の体に興味があったとしても、きっと仲良しな異性でなければ、絶対に触らない。

 つまり、俺だからこそ触れてくれているわけだ。


「後は勇気を出すだけだ」

 気持ちを奮い立たせる。

 もう十分だ。

 俺を異性として扱ってくれているか、どのくらい好いているかなんて、もう十分知ったはずだ。

 恋人でもないのに、付き合い立て以上の恋人よりも仲良し。

 俺の行動に乙女心をくすぐられる。


 これだけ分かって、立ち尽くすだけはおかしい。


「だからと言って、いきなり告白はしないけどな」


 確かめた。

 十分に確かめた上での告白。

 絶対に投げやりに告白なんてしたくないし、告白される側もちゃんとした場で告白された方が嬉しいはずだ。


 ……恋愛なんて生まれてこの方、まだ初めてな俺が言うのもなんだけどな。


「色々と考えるのは後だ」

 目的をしかっりと定めた俺はトイレから出る。

 息苦しく、でもそれでも、目的が決まったおかげか晴々とした心持で。






 トイレから出ると、山野さんが机にぺたんと腕と顔を載せ、放心状態。

 まるで、もう消えてなくなりたさそうなのが目に見えていて少し笑えてしまう。


「山野さん。寝て居る俺に触っていたのがバレて、そんなにショックだったんですか?」

 

「まあね……」


「まあまあ、落ち込まないでください。俺は全然触られたことに関しては、嫌じゃないので気にしてませんし」


「そういう気遣いが逆に辛いんだよ……」

 

「確かに」

 それからちょっとの間、無言の時間が続く。

 友達同士、無言で居るのは気まずい。それこそ、もう用が無ければ『そろそろ、お開きにしよっか』となる。 

 しかし、俺と山野さんは夏休み、互いに互いが好きなことをして、数時間、一言も言葉を交わさなかった。

 よって、この沈黙の時間に息苦しさは微塵も感じない。

 けど、一緒に居られる時間が減ったせいか、何でも良いから山野さんと話したい俺は話題を振る。


「すっかりと秋っぽくなりましたよね」


「うん」

 そっけない返事。

 まだまだ心に負った傷はデカいらしく、へこたれていた。


「そろそろ、元気を取り戻してくださいって」


「間宮君が私に聞かれたら、恥ずかしいような事を教えてくれたら元気でるかも」


「無茶な事を……まあ、良いですよ。あれは……」

 拗ねている山野さんのご機嫌を取り戻すため、俺は恥ずかしい体験談を語るのであった。




 1時間後。

 俺の恥ずかしい体験談を聞いた山野さんはすっかりと元気になった。

「怪我の功名だね。間宮君が周りに言いふらされたら、恥ずかしくなるようなお話を聞かせて貰えちゃうなんてさ」


「絶対に言いふらさないでくださいよ?」


「えー、それが言わないで欲しい人が取る態度?」


「っく、卑怯者……」

 そう言いながら、山野さんの背後に回り、肩を揉む。

 凝りに凝った肩を揉むと嬉しそうにしながら笑いかけてくれる。


「間宮君って良い子だよね」


「そうですか?」


「自業自得で恥ずかしい思いをした私を励まそうって、恥ずかしい体験談を話してくれたじゃん。あ、安心してよ? ノリで言っただけで、教えてくれたことは絶対に周りに言いふらさないから」


「知ってます」


「自信満々だ。っと、励ましてくれたお礼に私も肩を揉んであげよっか?」


「そう言って、さりげなく俺の体を触って、もて遊ぶんですね……」

 

「バレた?」

 すっかり俺の弄りも軽くいなすくらいに、元気になった山野さん。

 いつまでも一緒に居たい気もするが、そろそろ良い時間。

 姉さんもお腹を空かせて帰って来るに違いないし、お暇するとしよう。


「っと、すみません。そろそろ、良い時間なので帰ります」


「そっか。今日は久々に間宮君といっぱい話せて楽しかった。あ、お姉さんの分として残しといたやつを忘れないようにね」


「はい、じゃあ、これで」

 荷物を持ち、玄関を開けた時だ。

 かつて俺が住んで居た部屋に誰かが帰って来たような物音が響いて来た。


「もう、元俺が住んで居た部屋に誰か住み始めたんですね」


「うん……いつもは夜遅くに帰って来るみたいだけど、今日は早いみたい。ささ、帰った。帰った」 

 背中を押されて俺は山野さんの部屋を後にする。

 元俺が住んで居た部屋にはどんな人が住んでるんだろうな。

 そんなことを考えながら、俺は今住む家に帰るのだった。





 姉さんと一緒に住んで居る家に帰って来た。

 どうやら、姉さんはまだ帰って来ていないと思った矢先だ。


「ただいまです」


「ああ、お帰り。姉さん。今日の夕食なんだけど、文化祭で残ったお好み焼きとか焼きそばで良い?」


「全然平気ですよ~。ふぅ」

 くたくたな姉さんは自分の部屋へ着替えに行く。

 俺はその間にお風呂の用意をしたり、夕食を温めたりする。

 すっかり姉さんとの暮らしは慣れっこだ。


「ふー。それにしても、文化祭。どうでしたか?」


「楽しかった。なんと言うか、こういう文化祭を味わう機会をくれた家族に感謝しかない」

 そう、俺は上京して今の高校に通っている。

 実は別に家の周りに通える高校がなかったわけじゃない。

 不良だらけでお世辞にも勉強する場所とは思えない高校だったわけで、姉さんはそこに通った結果。色々と苦労したらしい。

 そんな理由のもと、俺が進学する時に言ってくれた。


『哲郎にあの高校は行かせたくありません。私も援助するので、別の高校に行かせてあげてください』

 中学の時、高校受験の模試でそれなりの成績を取っていたのにも関わらず、通う高校は一択みたいな俺に別の道を用意してくれた。



 姉さんが居なければ俺はこんなにも今を楽しめていない。

 体育祭は普通に喧嘩になるし、文化祭は荒れるから合唱だけなクソみたいな高校で、クソみたいな青春を送るはずだったのを変えてくれたんだ。


 だからこそ、俺はもう一度姉さんにお礼を言う。


「姉さん。色々とありがとうございます」


「まったく、家族なんだから、そんなにかしこまらなくて良いんですよ?」


「でも、姉さんに掛けてる金銭的な負担は大きいし……」


「これは投資です。良い大学に行って、良い所に就職して、たくさんお金を稼いで、たくさん私に貢いでくれればそれで良いんです」

 笑う姉さん。

 同じく俺もそうなれば良いなと笑うのであった。


 








山野さんSide



「間宮君と付き合いたいけど、付き合っちゃいけないと思う私も居る」

 私はベッドの上でじたばたしている。

 訳は簡単。

 間宮君と付き合えば、良くないことが起きそうだから……。

 いや、まあ、告白したところで、付き合えるかはまだ分かんないんだけどね。


「もう少し前だったら、気軽に告白できたのに……」

 本当は今日。

 間宮君に告白するつもりでお部屋に呼んだ。


 でも、告白は出来なかった。


「親の期待は裏切りたくない……」

 私は出来るだけ良い大学に行こうと努力している。

 こうして親に上京させて貰ってるんだし、それは絶対に成し遂げなくちゃダメ。

 予備校に通って、そこで絶え間ない努力もしなければ、絶対に合格できないような良い大学に通うための近道に手を伸ばそうとしている。

 けど、なんとなく最近はその近道は使えないんじゃないかと感づいたんだよ。


「ほんと露骨だし、絶対そうだよね」

 担任の先生が露骨すぎるんだよ……。

 そう、文化祭のちょっと前にあった進路相談の時の事だ。


『山野さん。指定校推薦は成績以外にも人柄、性格、学業以外の実績も見てるから、貰えなかった時の事もきちんと考えて進路を決めて下さい。まあ、山野さんなら頑張れば、難関大学に合格出来ると思うので、それを踏まえた上でどうするか決めて行きましょうか』


 この時、私は察した。

 ああ、これ、私以外にあの大学の指定校推薦を出すつもりなんだって。

 指定校推薦を貰えるかは、まだ分からない。

 けど、なんとなくで分かった。


 私の成績は良い。

 そのせいで、先生はもの凄い期待した目をしていた。


 私は頑張り過ぎちゃったんだと思う。

 先生は私なら自力で良い大学に合格する。そういう目をしていた。


 だから、私よりも成績が低い子に指定校推薦を出すことで、進学実績を良くしようって話が上がってるんだと思う。


 今年に指定校推薦を貰ったけい先輩も多分こういう理由で貰えたに違いない。

 成績は良い方。

 けど、自力で合格するのは少し難しそう。

 けい先輩は、自分よりも成績が上な人も指定校推薦に立候補していたのに、私が貰えたのは今でも不思議なくらいだわって言ってた。


 学校は、けい先輩よりも成績が上な人には、自力で合格して貰おうって魂胆のもと、けい先輩に指定校推薦を出した。

 ……まあ、これは予想でしかないけどね。


「自力で頑張らなくちゃ」

 指定校推薦を貰えない可能性が高い事に早いうちから気がつけて、むしろラッキーだと思わなきゃ。

 より一層と勉強を頑張って良い大学に合格する!

 そんな感じで息巻いてるんだけどさ……


「間宮君が好き過ぎるんだよ! で、まあ、告白して仮に付き合うことになったら、私、勉強が絶対に出来なくなる」

 間宮君が私の事をただの友達じゃ無くて、異性の女の子として見ていてくれている事は、結構前にちゃんと気が付いた。

 最近は露骨に間宮君に近づいて、成功率を上げるべく色々と頑張った。

 あとは告白だけだって気持ちになった時、指定校推薦が無理そうって分かっちゃった。

 そのせいで、もう滅茶苦茶な気持ち……。


「ぐぬぬぬ。間宮君と付き合ったら勉強が……。でも、付き合いたいし……。でも、指定校推薦が貰えなかったときのために受験料を貯めようって考えたら、間宮君とはデートも満足にしてあげられないだろうし……そんな彼女は間宮君も嫌だろうと思っちゃう訳で……」

 

 お部屋に呼んだ。

 告白するつもりで。


 でも、出来なかった。

 色んな不安で頭がいっぱいなせいで。


「そもそも、告白してOKを貰えるかどうかすら分かんないんだけどね。ふぅ、気晴らしで、湯船に浸かろ……」



 人生。

 ほんと思い通りにいかないよね……。



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