第56話文化祭準備日 二日目
文化祭準備日の二日目。
生徒会としての仕事は、お昼過ぎに全部の出し物を再度確認するのみだ。
よって、それまではクラスでの出し物を成功させるべく精を出すことに。
俺のクラスはハロウィン仕様な飾りつけを施した駄菓子屋だ。
内装のクオリティをあげるべく、皆が皆、色々と張り切っている。
……わけではなく、一部だけが張り切って、後は適当にだらだらと暇を潰しているのが現状だ。
こればかりはお化け屋敷といった膨大な作業が必要な出し物ではないので、仕方がない話だ。
かく言う俺も、仕事が無くだらだらと眺めているだけだし。
「あ」
文化祭を仕切っているみっちゃんが急に素っ頓狂な声を出した。
凄く俺の方をちらちらと見て来るので、俺から話しかける。
「どうかしたか?」
「ほら、うちのクラスってただの駄菓子屋じゃん? だから、ハロウィン風にして売り子はコスプレというテコ入れを用意したよね?」
「ああ、そうだったな」
「最初は連絡なしでもコスプレはオッケーだったけど、事前に衣装を確認してもらうようにって連絡があったでしょ?」
「まあ、そうだな」
山野さんにメイド服がきちんと大丈夫かと生徒会顧問である山口先生が確認をお願いしたあとの事だ。
やはり、生徒個人で良し悪しを判断させるのは不味いという事で、コスプレ衣装は事前に提出の上、先生に確認をして貰う事となったのだ。
「分かった。何となく、お前が言いたい事がな」
「申請忘れてた? てへ?」
ぶりっ子風に言うみっちゃんに殺意が沸く。
確か、何度かみっちゃんに、ちゃんと申請しとけよ? と念を押したのを覚えているのだから。
「はあ……。分かった。それはこっちで何とかする。使う予定の衣装はどこだ?」
「持つべきものは友だね。あそこにある袋に入ってるからよろしく! あ、お礼にお姉ちゃんと文化祭でデート出来るように取り持ってあげよっか?」
「取り持たなくて良い。というか、しつこいぞ。けい先輩にみっちゃんがうざいと怒られてるんだから辞めてくれ」
それから俺は、衣装の事前確認が出来ていなかったことを伝えるべく、文化祭実行委員の顧問である先生に会いに行った。
話をするも、今年の文化祭実行委員会はなんというか、だらしないらしく、準備が終わるかどうか分からないぐらいに切迫した状態らしい。
よって、衣装の確認は出来ないと言われた。
とはいえ、さすがに先生も鬼ではない。
生徒会である俺達を信用してくれているわけで、生徒会が確認してOKなら大丈夫だとお墨付きをもらった。
加えて、文化祭実行委員の顧問である先生はと言うと、俺達のクラスと同じように事前確認を忘れていたり、事前確認した衣装に手を加えたところもあるだろうとの事で、確認をお願いできないだろうか? と頼まれた。
面倒事を押し付けられて良い気分ではないが、別に暇だったのでなんてことないのだが、全クラスのを確認するのは中々に骨が折れそうだ。
「さすがに一人じゃ無理そうだし山野さんに力を借りるか」
山野さんもクラスの方が大忙しという訳では無いのを知っているわけで、力を借りることにした。
メッセージを送ると、大丈夫だよと返事が来た。
それから、俺は山野さんと合流し、各クラスの衣装の確認を始める。
俺達が手始めに向かったのはメイド喫茶。
中を覗くと、むさ苦しい男がメイド服、可愛いらしい女の子が燕尾服を着て接客の練習をしている。
そう、手始めに向かったのは男がメイド服を女が燕尾服を着て接客する喫茶店。
衣装自体は事前確認を済ませてはいるが、普通に問題が見つかった。
「男子がスカートを履く場合。絶対に下着が見えないようにしてくださいとお願いしましたよね?」
男子はスカートを履いていることなど知らんぷりで動くので、スカートからパンツが絶対に見える。
そういう事情から、中には短パンを穿くことを義務付けていたのだが、どうやら十分に伝達されていなかったらしい。
「女子は普段から短パンを穿いているのか? 穿いてないよな?」
どうしてもお祭り気分でパンツを見せつけたい一部の男子から抗議されるも、山野さんが無慈悲にも告げる。
「じゃあ、出店中止だね。先生にはこっちから伝えとく」
その言葉を皮切りに、女子たちの、お前らが変な意地を張って出店できないとか、マジで御免だからな? と怖い視線が送られた結果。
「っく、分かったよ。下に短パンを穿くからそれだけは辞めてくれ。女子が凄い目でこっちを見てるし」
「じゃあ大丈夫だね。ただ、本当に穿いてなかった場合、出店中止になるから気を付けなよ?」
それから俺と山野さんは衣装を確認して回った。
やはり、事前確認をした衣装を弄ったものや、そもそも確認に出していなかった衣装がたくさん出てきた。
なんとか確認を終えると、気が付けばお昼。
お昼を済ませ、他の生徒会役員と合流。
全ての出し物が出店可能かどうかを判断すべく、最終確認へと向かった。
で、なんやかんやで出し物の確認を終えて生徒会役員たちはそれぞれのクラスに戻って行く。
俺も駄菓子屋を出す教室に戻ったのだが、すでに誰も居ない。
どうやら準備が終わったので、みんな帰ってしまったようだ。
「あ」
事の発端であるうちのクラスで使う予定のコスプレ衣装を確認してない事に気が付く。
まあ、生徒会役員が確認してOKなんだし、俺が確認すれば良いか。
コスプレ衣装が入っている袋を覗く。
中には吸血鬼風なマントと小道具。
ゾンビの被り物といったものが色々と入っていた。
一応、生徒会役員である俺が確認すればOKと言えばOKなのだが……。
「これはどうすれば?」
不思議の国のアリスを模したようなコスプレ衣装だけは俺だけの判断ではどうにもならない。
そう、スカートの丈は平気なのだが、山口先生が確認を頼んで来たメイド服と同様に生地が薄いのだ。
やはり所詮はコスプレ衣装であり、作りは雑。
着ている時に破れてしまうような衣装はNGである。
そして、うちのクラスの誰かに着て貰った姿を確認出来れば良いのだが、すでに準備が終わってしまい誰も居ない。
「さすがに明日の朝、確認するのは不味いよなあ……」
事前に俺が確認してくれていることを知っている。
今日、この後、メッセージを使って、確認に手間取って申し訳ない。生地が薄そうで破れる可能性があるからダメであったと伝えるのなら、そこまで非難はされないだろう。
しかし、明日の朝に確認して『これはダメだ』と言えば怒られそうだ。
「仕方ない。山野さんに頼むか……」
そう思った俺は、山野さんに頼むべく衣装を持って山野さんのクラスへ。
準備そのものは終わっているがもう少し細かいところを良くしたいとの事で、それなりに人が残っているらしいし、私も残ると言っていたのできっと居るだろう。
そう言えば、山野さんってどうして同じクラスの人にはやまのんと呼ばれてるんだろうな~なんて考えながら山野さんのクラスへと向かう。
たどり着いた山野さんのクラスが使っている教室はドアが閉まっており、中が見えない。
なんというか、ちょっと開けずらいなとドアに手を掛けようとした時だ。
トイレかどこかに行っていたのであろう山野さんのクラスメイトが、どうしたものかと俺に話しかけてくれた。
「どうしたの? うちのクラスに何か用があるのかな?」
「山野さんっていますか?」
「ああ、山野さんね。山野さんだったらまだ居るね。ちょっと待ってて」
そう言われた俺は待つ。
ほどなくしてドアが開く。
中から出てきた山野さんに、俺はいつもみたいに冗談交じりでこう言った。
「この服、山野さんに似合うと思って持ってきました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます