第54話不意打ちされてムカッとする

 木曜日のお昼時。

 生徒会室に集まる生徒会役員共。


「という訳で、これから手分けして出店しているお店が大丈夫か確認をしに行きたいと思います」

 山野さんが生徒会メンバーに告げる。

 そう、今日は文化祭準備日。朝から、明日に始まる文化祭に向けた準備を行える日で授業など一切ない日だ。

 そして、昨日の放課後も含めればそれなりに出し物は形になって来ている今、生徒会は安全確認をすべく動き出すという訳である。


「んじゃ、事前に決めた相手と一緒に確認へレッツゴーだね」

 1人じゃ甘い判断を下してしまうかも知れないので、2人で安全を確認する事となっている。

 俺と一緒に確認に出向くのは……生徒会1年の書記である八坂 勇将だ。

 サッカー部のイケメンで次期エースと名高い八坂と一緒にまずはフランクフルトを売る予定のクラスの元へ。


「看板がダメです。下ネタはダメって説明会の時も言いましたよね?」

 フランクフルトのお店を率いる責任者にダメな点を伝える。

 衛生的な問題はしっかりとしていたが、お店の看板が不味いのだ。


「でっかくってぶっとい女子にも大人気なフランクフルトのお店! のどこが下ネタ何ですか! 下ネタだと勘違いする君たちが不潔なんじゃないか?」

 責任者がキレ気味に言ってきた。

 このまま、押し切るつもりなのだろうがさすがに引くことは出来ない。


「企画書にはケチャップかけ放題のフランクフルト屋さんって名前で出店するって書いてありましたよね? それで良いじゃ無いですか」


「その名前、詰まらないだろ? ただのありきたりなフランクフルトを売るためにはお店の名前にインパクトが必要なんだよ。で、クラス全員で話し合った結果、でっかくてぶっとくて女子にも大人気なフランクフルトのお店! にした。そのクラスの意志を無駄にするつもりなのか?」

 ……一理あるがダメなものはダメだ。

 

「分かりました。じゃあ、出店はさせられません」


「っく。でっかくてぶっといフランクフルト屋さんならどうだ?」


「八坂、どうする?」

 一緒に来た八坂にどうするかを仰ぐ。

 判断に困ったときの二人体制だからな。


「良いんじゃないか?」


「じゃあ、女子にも大人気なは絶対に消してくださいよ? 看板の名前以外は問題はないのでこのくらいで失礼します」

 フランクフルトを出店予定の教室から離れるべく歩き始めようとした時だ。

 1人の女生徒が近づいて来てこう告げる。


「あの、ありがとうね。なんかさー、男子が勝手に名前を変えてさ。でも、雰囲気的にダメって言いにくくてさ。ホント、ありがとね。お礼と言っちゃなんだけど、これ食べて?」

 お礼の言葉と明日売る予定のフランクフルトを八坂に渡して去って行く女生徒。

 もちろん、俺には見向きもせずに。


「なあ、なんであの子はお前にお礼を言ったんだ?」


「答えを言っても良いのか?」


「いいや、何となく分かってる。八坂、お前がサッカー部のエースでイケメンだからだろ。俺が主導権を握って話して居ようが、お前の方が存在感があるし」


「なんか悪いな。さてと、次行くか」

 そうして、俺と八坂は文化祭に向けてきちんと出店するお店が安全基準を満たしているかどうかを見て回る予定だったのだが。


「……八坂。お前ってやつは本当に凄いやつだ。で、体は大丈夫か?」


「わるい。無理そうだ」

 八坂が大変な事になっている。

 視察に行ったクラスの大半から試食してと出す予定の食べ物を八坂にお近づきになりたい女子から渡され、それを断れずに八坂は美味しそうに食べた。

 断れば良いのに断らないのはさすがイケメンである。

 俺にはついでに試食をという感じで出す予定の食べ物を渡されている女子がちらほらと居たくらいで全員から渡されたわけでもなく八坂に比べて胃は軽い。


「ほんとに大丈夫か?」


「ちょっと保健室で横になって来る」

 胃をさすりながら八坂は保健室へと消えて行くのであった……。

 で、残された俺はと言うと1人になってしまった。


「さてと、どうしたものか……」

 気が付けば一人。

 二人一組、もしくはそれ以上の人数でチェックを行わなければいけない。

 仕方がないので山野さんに連絡を取る。


『あの、山野さん。八坂が出す予定の食べ物を受け取っては断れずに食べ続けていたせいでダウンしたんですけど、俺はどうすれば良いですか?』


『後、何か所くらい確認に行かないといけないの?』


『3か所です』


『そっか。んじゃ、私達と合流して3人で出店に問題が無いかチェックしよっか。間宮君が甘い感じでダメな所を注意しないのは考えられないけど、先生側から必ず二人以上でお店のチェックをしろって言われちゃってるからね』


『了解です。じゃあ、合流しますね』

 別れて行動していた山野さんと三鷹先輩に合流する事となった。

 合流すべく、待ち合わせ場所へ向かうとすでに山野さんと三鷹先輩は居た。


「やー、残酷だよね。女の子って」

 ポンポンと肩を叩いて来た三鷹先輩。

 ……何が言いたいのかは何となく分かる。


「ですよね。俺も居るのに八坂にだけ出す予定の食べ物を試食とか言って渡すとか、ちょっと涙が出てきそうになりました」


「あはは、八坂君に取り入りたい女子は一杯だもんね。でも、あれでしょ? やまのんから聞いてるけど、八坂君と同じで間宮君も断れない系男子。八坂君と同じくらい試食で出す予定の食べ物を渡されてたら今頃、ダウンしてたっしょ?」


「まあ、そうですね。正直、今も割とお腹がいっぱいで大変です。八坂のついでとはいえ、試食で出す予定の食べ物を結構食べたので」

 三鷹先輩とやり取りを繰り広げていると、一緒に居た山野さんはちょっぴり羨ましそうにしながら話に混ざる。


「今日の夕飯は要らないね。良かったじゃん」


「確かにそうですね。そう考えれば得しました」


「はー、私達なんて最初に向かったお化け屋敷でくたくただよ」

 やれやれと肩を落とす山野さん。

 視察に行ったお化け屋敷で何があったのだろうか?


「うん。あれは酷すぎるね。明かりの基準は守ってない。驚かすためにこんにゃくを天井から吊るしてる。蛍光灯の周りをビニールで覆ってたりと。本当に酷くてマジ大変だった」

 三鷹先輩が理由を語る。

 明かりの基準を守っていない。これは暗すぎて足元が見えずに転んでしまって怪我を防ぐためのもの。

 驚かすためにこんにゃくを使う。

 これは食品で遊ぶなという最もな話。

 蛍光灯の周りをビニールで覆う。

 蛍光灯は熱を持つので周りには何も設置しないのが当たり前、場合によっては火事に繋がりかねないからな。

 

「確かにそれは大変でしたね」


「うん。大変だった。んで、私達が次に視察に向かうのはまた違うクラスが出す予定のお化け屋敷。さてと、うだうだしてないで行かないとね」



 そして、着いたお化け屋敷。

 責任者に視察に来たことを伝えると、ほぼほぼ完成間際という事でお化け屋敷を体験する形で取り敢えず、安全基準を満たしているかを確認することに。 


「うちのお化け屋敷は二人一組で入場して貰います。あんまり、大勢で入られると恐怖心が薄まっちゃうので。という訳で、3人いるのでお1人は待機で」

 三鷹先輩が俺と山野さんを見てこう言う。


「やまのんと間宮君で入って良いよ~。ほら、男女で入った方が盛り上がるじゃん?」

 正直に言うと普通に山野さんとお化け屋敷に入れるのなら嬉しい。

 断る理由も無く、俺と山野さんはお化け屋敷へと足を踏み入れる。


「ん~。明かりはちゃんと大丈夫っぽいね」

 薄暗いお化け屋敷へと改造された教室。

 足元は暗いがきちんと見えているし、これなら安全基準を満たしている。


「ところで、山野さんってお化け屋敷とかは平気なんですか?」


「んー、普通?」

 軽く話しながら段ボールで狭く区切られた通路を進むと顔を伏せて待機している一人の女生徒と出くわす。


「ねえ、私って綺麗?」

 顔を伏せた状態から上げた女生徒。

 その伏せられていた顔は血のりで塗れている。

 薄暗くて、大体こういう風な感じで来ると言うことは分かっていても驚くものは驚くわけで。

 すこし背筋にゾクリとしたものを感じさせる。

 別に顔を血のりで塗らした女生徒は何をするわけでもなかったので、そのまま順路に従って再び足を動かす。

 

「私って綺麗って聞いたでしょ!」

 バンと通路の壁を大きく叩き叫ぶ先ほどの女生徒。

 まさしく不意打ち。

 そんな不意打ちを食らった俺と山野さんはと言うと声を出して叫ぶとまでは行かないが驚いてびくりと肩を大きく上下にする。


「あはは……不意打ち系なんだね」


「怖いと言うよりもびっくりしますよね」

 驚いた俺達はそんなことを言いながら順路通りに進む。

 通路には様々な仕掛けがなされており、いきなりスプレーで霧を吹きかけられたり、天井から気味の悪い人形が降ってきたりと様々だ。

 意外とクオリティーの高いお化け屋敷で驚きながら進み続けた最後に待ち受けていたのは入り口付近に居た『ねえ、私って綺麗?』と聞いて来た血のりで塗れた女生徒と同じ格好をした者。


「ねえ? 私って綺麗?」

 そう言って顔をあげる女生徒。

 入り口付近に居た女生徒がここに来れるわけが無い。

 なにせ、回転率をあげるためどんどんと人を入場させなくてはいけない。

 入り口付近から離れれば入り口付近で驚かす人は居なくなってしまう。


 どうせ別人だろうと高を括っていた。



 しかし、顔をあげた女生徒の顔は最初に出会った女生徒と瓜二つであった。

 

「きゃあああああああ」

 山野さんが叫ぶ。

 そりゃあ、まさか最初に出会った女生徒が出て来るなんて想像もしていない。

 俺はギリ耐えて叫ばない。

 少し経ち叫んだ山野さんはハッとして恥ずかしそうな顔で俺を見た。

 

「さ、最後の最後で大きな声出ちゃった」

 明らかに普段出さないような大きな赤裸々な声を俺に聞かれたのが恥ずかしそうにしている山野さんと一緒にお化け屋敷を抜け出すのであった。



 抜け出した後、つい出来心で俺は山野さんの首筋をスーッと指で撫でる。

 お化け屋敷を出て安心しきっている相手を驚かすという鉄板ネタだ。


「んっ!」

 ビクンと背筋を動かし驚く山野さん。

 そんな彼女は首筋を指で撫でて驚かしてきた俺に紛れもなく怒った顔を向ける。


「す、すみません」

 謝ったのだが山野さんは相変わらずムスッとした顔で俺を睨みつけながら言われてしまう。


「後でやり返す! ぜーったいに間宮君を驚かすからね!」

 やられたらやり返す。

 山野さんの復讐がどんなものかと楽しみになった俺はと言うとついにやけ顔を浮かべてしまう。

 それが火に油を注ぐ形になってしまい山野さんは再び告げる。


「やれるもんならやってみろって感じかな? 後悔しても知らないからね!」

 本当に何をされるか分からないが楽しみな限りだ。



 


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