第34話新たな節約の一歩を踏み出す
「間宮君。毛布を持っていくのはあれだから何か貸して?」
布団から顔を出した状態で、破れてしまった背中から見えるブラ紐を隠せる何かを所望する山野さん。
確かに返して貰えると分かっていても、毛布を外に持って行かれるのはいい気はしない。
なので、山野さんのブラ紐を隠せる何かを貸すべく俺は棚を漁る。
ちょうど良さそうなパーカーを見繕い、それを山野さんに渡すと、毛布の中でもごもごと着替えをし始めた。
なんだろう、お布団の中で着替えていると想像するだけですごく良いと思えるのは俺だけか?
「良いしょっと」
メイド服の上からパーカーを来た山野さんが出てきた。
そして、俺の目をじっと見つめて来るので、どうしたものなのか聞く。
「どうしたんですか? こっちをじっと見て」
「間宮君。ふと思ったんだけど、私のブラ紐を冷静に注視してたけど、何も思わなかった?」
「正直に言うと、ヤバかったです。さすがに同年代の女子のブラ紐を見て何も思うところがないなんて事はありませんって」
エロかった。
もっと見たい。なんて言っては駄目だ。
人畜無害なふりを辞めるにしたって、さすがにデリカシーと言うものが存在しているのは言うまでもない。
相手に嫌な思いをさせるのはセクハラであり、俺が目指すところとはかけ離れているので答えは出ているようで、出ていない曖昧さを持つ発言を持って返答した。
「それなら良いんだけど……」
しかし、俺の曖昧な返答に少し腑に落ち無さそうだ。
……腑に落ち無さそうな顔を浮かべているので、取り敢えず謝っておこうの精神で謝ることにした。
「すみません。俺なんかに見られて嫌でしたよね」
「あ、違う。違うからね? 間宮君に見られるのは別に良いんだよ……。ただ、今日の下着はちょっと気を抜いてたから、そこが気になっちゃってさ」
「気を抜いてた?」
「今日のブラはちょっと長く使ってて、よーく見ると結構くたびれてるんだよ。で、そんなのを見られて、間宮君にだらしないなんて思われたら嫌だな~って思ってただけ」
物凄く分かる。
俺だって、山野さんにくたびれたパンツを穿いているところを目撃されれば、だらしなく思われていないだろうか? と気になるからな。
「なる程、確かにそうですね。俺も山野さんにだらしないところはあんまり見せたくないですし」
「うんうん。じゃ、私はメイド服を着替えて来るね」
話がひと段落下とこで山野さんは自分の部屋へと帰って行った。
……と思いきや、さすがに同じアパートの住人にメイド服姿(パーカー着用)状態を見られるのは恥ずかしいのだろう。
玄関をちょっぴり開けて、廊下に誰も居ないのかを確かめてから、俺の部屋を出ていくのであった。
メイド服姿を見てひと悶着があった次の日。
学校での生活は何事もなく過ぎて行き、気が付けば放課後。
生徒会として活動をする時間となっていた。
「行こうか、間宮」
生徒会室で生徒会書記である八坂(やさか) 勇将(ゆうしょう)と生徒会室を出た。
そう、俺と八坂は生徒会の仕事で体育祭実行委員会がどの程度まで体育祭の準備を進めているのかを確認するために生徒会室を出て、実行委員が会議をしている場所に出向くという訳だ。
ちなみに大勢で出向いても邪魔なだけなので、他の生徒会役員はお留守番。
「にしても、思った以上に生徒会の仕事って地味だ。間宮はそう思わないか?」
「まあ、それなりに。でも、こんなもんだろ」
「そうか。こんなもんか」
適当に話をしながら歩く。
そして、体育祭実行委員が会議をしている教室に辿り着いた。辿り着いた俺と八坂は実行委員の代表にどのくらいしっかりと会議が行われ、予定がきちんと立っているのかを確認した。
「……さてと、後は生徒会室に行って今聞いたことをまとめれば今日の生徒会は終わりだな」
そう、生徒会の活動は今の行動でほとんど終わったのだ。
生徒会室に戻り、待機していた他の役員たちに体育祭の進捗状況を報告。
そして、顧問である山口先生に体育祭の進み具合についてを俺達で纏め上げてから報告をした。
「それじゃあ、今日はこれくらいで終わりだね。以上、解散」
山野さんが挨拶をして今日も生徒会の活動は終わりを迎えるかと思いきや、山口先生が口を開く。
「皆さん。少しだけ、お仕事を追加してもよろしいでしょうか?」
別に断る理由なんてなく、生徒会役員の誰一人も嫌ですとは言わない。
それを確認した山口先生の口から発せられた言葉は簡単だ。
「リレーの練習をしましょう」
「……」
生徒会役員の誰もがちょっと良く分からないという顔で困惑した顔を浮かべている中、1人だけ山口先生の言っている意味を理解した者が居た。
「あ、分かっちゃった。山口せんせーが言いたいのはあれだ。体育祭で団体別リレーがあるからそれに向けて練習しようって事でしょ?」
「三鷹さんの言う通りです。団体別リレーで生徒会と言う団体でリレーに参加することになっていますが、さすがに練習をしなければだらしないと思われてしまいます。生徒会は一応、生徒たちの模範解答でなければありません。リレーでバトンを格好悪く落とすのだけは避けた方が良いに決まっています」
「あー、そう言えば去年はダメダメだったもんね。みんな、バトンを渡すときにもたついて格好悪かったし」
去年から生徒会役員であった山野さんが呟く。
「はい、だからこそ今年はと思い練習をしましょうと言いに来ました。グラウンドの隅っこを貸して貰えるようにお願いしてきましたので、せめてバトン練習くらいはしましょう! みんな、動きやすい服装で集まってください!」
と言った感じでリレーでバトンを渡すための練習をすることに。
ちなみに、山口先生はどこに集まるのかを言わないで消えて行った……。
まあ、そこら辺を歩けばすぐに見つかるから別に問題はないだろう。
「私、動きやすい服を持ってきてないんだけど。みんなは?」
山野さんが生徒会室に居る役員たちに聞く。
しかしながら、山野さんには申し訳ないが、皆が皆、それぞれ動きやすい服を持っていた。
「んー、早希。ジャージ貸してくれる? ほら、ハーフパンツはあるんだし」
「ごめん。暑くて着るつもりはなかったから持ってきてないや」
「じゃあ、他の人でジャージを持ってきている人は居る?」
季節的にはジャージを着るような季節ではないが、何となく体育の授業がある日は学校指定のジャージを体操服とは別に持ち歩いているので手を挙げた。
「間宮君のを貸して貰って良いかな? 体操服のハーフパンツもあるでしょ?」
「どうぞ。使ってください」
カバンから学校指定のジャージを取り出して山野さんに渡した。
男女で時間を別けて生徒会室で制服から動きやすい服装に着替えた後、行き先を知らせること無く去って行った山口先生を探す。
割とすぐに山口先生は見つかって、俺達はグラウンドの片隅でバトンを渡す練習を始めるのであった。
……バトンの受け渡しの練習を行う生徒会役員である俺達。
軽い練習かと思いきや、山口先生が割と体育会系な人だったこともあり、練習は苛烈で非常に疲れる
運動部に所属している役員は平気そうだが、そうでない者はバテた。
もちろん、俺もバテ、山野さんもバテてた。
「取り敢えず、バトンの受け渡しはこれで大丈夫でしょう。当日は今日の練習みたいに頑張りましょうか」
その言葉でバトンの受け渡しの練習は幕を閉じた。
俺と山野さん以外は部活に入っているということもあり、生徒会室に着き着替えを終えたらすぐに荷物を持って部活の活動場所へと向かっていく。
残った俺と山野さんも着替えが終わり、一息を吐いて生徒会室を後にするのであった。
「ふぅ……。疲れたね」
帰り道、大きなため息を吐いた山野さんに話しかけられる。
「まさか、山口先生があんなにも体育会系だったとは……」
「山口先生ってマーチングもやってたらしいからね」
マーチング。
それはマーチングバンドの事であり、大まかに言えばきびきびと歩きながら楽器を演奏すると言うものだ。
練習は下手すれば運動部より厳しい事が多いらしい。
まあ、詳しくは知らないけど。
「さてと、帰ろっか」
その一言で何も放課後の予定が詰まっていない俺と山野さんは生徒会室を後にした。
……そして、帰り道。
山野さんがちょっとした話題を振って来る。
「ふと思ったんだけど、私って間宮君から服を借りまくってる気がする。ほら、昨日も紐を隠すためにパーカーを借りたでしょ?」
「ですね」
「という訳で、何かお礼をさせて欲しいかな~って」
昨日も今日も俺から服を借りている。
確かに申し訳なさを感じるのは当たり前だ。ここで、そんなことを気にする必要はありませんと言うのも返って申し訳なさを増長させるだけ。
そこまで大それたことでなければ、お礼はきちんと受けるべきだ。
「せっかくなのでお願いします」
「お礼をさせてと言ったけど、実は何もまだ考えて無いんだよね。あ、そうだ。間宮君とプールに遊びに行くときに何かを奢る。それじゃあ、ダメかな?」
「いえ、有難いです。実は……体育祭の打ち上げ、文化祭の打ち上げで結構お金が飛んでいきそうなので」
仕切りやみっちゃんがすでに体育祭の打ち上げと文化祭の打ち上げを画策しており、なるべく参加しようと思っている。
しかし、結構なお金の負担が掛かるのは言うまでもない。
「……あはは、そうだね。私もクラスでの打ち上げがあるからあまりお金の無駄遣いは出来ないんだった。ま、間宮君に奢ると言ってもたかが知れてるし別に大丈夫だけどね」
「打ち上げの後ノリでカラオケとかに行く可能性が大なので節約しないとですね」
「一次会は割と早めの解散。でも、遊び足りないからどこかに行こうってなっちゃうんだよね。うん、私も節約を頑張らないと」
「でも、あんまりもう節約できるところが無くなってきてますけど……」
「あ、実はちょっと始めたいことがあるんだよ。どう? 間宮君も一緒に始めてみない?」
「始めたい事ってなにですか?」
「ちょっとした家庭菜園をしてみようかな~って。で、どう?」
「なる程、確かにいい案かも知れません。俺もその案に乗らせてください」
こうして、俺と山野さんはまた新たな節約をすべく一歩を踏み出し始めるのだ。
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