第35話プチ家庭菜園

「家庭菜園と言っても、プランターで出来るようなのじゃないとね。んー、色々と調べたけど、アイシクルかラディッシュが良いかな~って」

 何のことだか分からないので、色々と調べるとアイシクルは品種の名前で見た目はまんま大根を小さくしたような形。ラディッシュは球形をした小さい大根みたいな奴で赤や白と言った色の違いがある。

 アイシクルの和名は白長二十日ダイコン、ラディッシュは二十日ダイコン。

 実は品種が違うだけであり、分類上ほとんど同じような野菜みたいなものだ。って、素人知識だからあってるか分からないけど。


「つまり、山野さんはダイコン系が育てたいんですね」


「よく食べるでしょ?」

 

「でも、逆に考えて下さい。ダイコンならスーパーで安く売ってますよ?」


「あー、そっか。買ったら高い野菜を育てたほうが得かもね」

 ラディッシュとアイシクルという二十日ダイコンを育てるのは辞めて、買ったら高そうな野菜を調べ、たどり着いたのは……


「リーフレタス……。普通のレタスってよく食べるし結構なお値段がする。だから、代わりにリーフレタスを使ったサラダが作れる。どう? 間宮君的にはリーフレタスは駄目かな?」


「レタスって結構お値段がするのでそうしましょうか。まあ、レタスと言ってもリーフレタスでちょっと味と食感は違くはなりますけどね」


「じゃあ、リーフレタスを育てる事に決定。最初から張りきっても失敗したら怖いし、リーフレタスオンリーで行くべきかな? それとも、他の何かも育ててみる?」

 家庭菜園なんてしたことが無い。

 確かにベランダに一つのプランターだけと言うのも味気ない気がするも、一気に手広くプランターを並べて色々と栽培しても失敗した時の事が怖い。


「いえ、リーフレタスだけにしましょう。失敗が怖いです」


「じゃあ次はベランダにおけるプランターとか土の調達だね」

 昔ならホームセンターに出向いて色々と調達すると言うのが常識だった。

 しかし、今となってはネットショッピングと言うものが存在しており、家でもプチ家庭菜園をするための道具を簡単に注文が出来る世の中だ。

 某ショッピングサイトを開き、リーフレタスを育てるの必要な道具を選ぶ。


「……間宮君。これ、元が取れるのかな?」

 金額的に5、6回は収穫しなければ普通に赤字。

 ……プランターや土が思った以上に高くついており、育ててもそこまで節約にならないどころか、失敗したら大損という壁に突き当たった。

 しかし、土は肥料を足し、プランターは壊れさえしなければ、何度だって再利用できるので長期的に見れば得をするのは間違いがない。


「今は時期が時期だからリーフレタスを選んだけど来年の夏になればトマトだったり、きゅうりだったりを育てられると考えれば……やる価値はあると思います」


「うん、間宮君の言う通りだね。確かに失敗したら損だけど、やってみよっか」

 やることに決めたので、ショッピングサイトの注文をボタンを押した。



 そして、次の日の夕方。

 プランター、土、種が届いた。


「山野さん。荷物が届いたんでプランターに種を撒きましょう」


「そうだね。一日でも早く育って欲しいしね」

 ネットを頼りにプランターの底に水はけを良くするための石を詰めて、その上に土を入れて行く。

 それからゆっくりと二人で作業をして行くこと一時間。

 種を撒き終えて、後は毎日の水やりや間引きを行えば収穫が期待できる。


「意外と楽しいね。これなら、失敗したら……とか全然関係なしに満足だね」

 山野さんの言う通り、土を敷いたり、種を撒いたり、色々とするだけで楽しいのだ。この楽しさを得れただけでも、価値があった。

 だが、土を敷いたり、種を撒いたり、して楽しいと言うのはあくまで建前で、本音は別の所にある。


 山野さんと一緒に色々とするのが楽しい。


 この一言に尽きる。

 きっと、1人で家庭菜園を始めたら、ただただ面倒くさいだけに違いない。

 今は2人だけど、1人だけに……そうならないためにも動け。


「プールに行く日はいつにしましょうか?」

 遊びに行く場所は決めたが、遊びに行く日は決めていなかったので相談を投げかけたのだが、


「その話をする前に後片付けをしちゃおっか」

 その一言で随分と自分が先へ先へと焦っていることに気が付く。

 焦ってミスをしたらそれでおしまいだ。

 ゆっくりとでも良いから、確実な一歩を踏め。


「そう言えば、プランターはどっちのベランダで育てるんですか?」

 初期費用が大きくなり過ぎて失敗した時の事を危惧した結果、プランターは一つだけにしましょうと俺は言った。

 しかし、それには裏がある。

 仮に俺の部屋にだけプランターを置いた場合、様子を見に山野さんはやって来てくれるかもしれない。逆に山野さんの部屋にだけプランターを置けば、俺が様子を見たいと言って山野さんに接触を図れる。

 こういったちょっとした考えでプランターは取り敢えず、一つだけにして置きませんか? と俺から提案したのだ。


「個人的には間宮君の部屋のベランダが良いかな。ほら、私の方がこっちの部屋にお邪魔する回数は多いでしょ? その時に様子も見れるし」


「……」

 思惑通りにはいかないようだ。

 あくまで、俺の部屋に来たついでにプランターを確認するだけ、プランターを確認することが目的で俺の部屋へと来てくれなさそうだ。

 ちょっと黙ってから、思惑通りにしたい俺は雑な事を言う


「山野さんの部屋の方が日当たりが良いですし、俺的には山野さんの部屋のベランダが良いんじゃないかと」


「日当たりは変わらなくない? あ、分かった。毎日の水やりが面倒くさいし、二人で一つのプランターで育ててるわけで、枯らしたら文句を言われる。その責任から逃げようとしてるんでしょ?」


「いや、まあ。そうです」

 勝手に誤解してくれたので乗った。

 だが、それがいい方向へと転んでいく。


「しょうがないなあ。じゃあ、私の部屋で良いよ。でも、あれだよ? 水やりは毎日、私と間宮君で交互にする。一緒に育てるんだからさ。良いよね?」


「良いんですか? それだと、俺は少なからず2日に1回は山野さんの部屋にお邪魔しないといけませんけど」


「良いよ」

 こうして、俺は山野さんの部屋へ2日に1回はお邪魔出来る権利を得た。

 ……このチャンスを無駄にしない。

 縁をずっと維持し続ければ、いつかきっと関係は俺の望むものへと変わっていくはずだ。


「分かりました。2日に1回は水やりに行きます」


「うんうん。じゃ、片付けたらプールに行く日について決めよっか」

 その一言で本格的にプチ家庭菜園の立ち上げの後始末を始めるのであった。



 片付けは意外とあっさり終わり、遊びに行く日を決めるべく二人で相談する。


「間宮君はいつに行きたいの?」


「えっと、山野さんが行く日付を決めて貰えると嬉しいんですけど」

 まだ日程は決まっていないとみっちゃんに漏らした時だ。

 曰く、女の子が人前で肌を晒すときには準備が必要。

 その準備はちょっとしたダイエットであったり、肌のお手入れだったりだそうだ。この事を無視して、強引に『すぐに行きましょう』だなんて言えば、絶対に機嫌が悪くなるし、もしかしたらプールに行くこと自体を断られる可能性さえあるそうだ。

 そこで、相手に選ばせてあげるのが一番だとアドバイスを受けて実践したのだが、


「間宮君。せっかく、二人で遊びに行くんだから二人で決めようよ……」

 腑に落ちなさそうに指摘された。


「すみません。友達が肌を晒すようなとこへ遊びに行くなら、絶対に女の子に選ばせてあげるべきって言われたので」


「理由は?」


「体のたるみだったり、お肌のお手入れだったりとかだそうです」


「なるほどね。確かにそれは一理ある。つまり、間宮君は私の事を気遣って日付を決めてくれると良いんですけどなんて言ったわけだね。ごめんね、てっきり、間宮君が私と遊びに行くのがそこまで楽しみじゃないんだって勝手に勘違いしちゃったよ」


「確かに言われてみれば相手にだけ決めさせるってのもおかしな話ですし。俺がどうして山野さんに日付を決めて貰いたかった真意も言っちゃいました。なので、二人で決めましょうか」


「おっけー。じゃ、私的にはあと4日、いや5日は準備期間が欲しいかな。ちょっと、お肉がたるんでるし」

 自分のにの腕をぷにぷにとつまみながら言ってきた。

 みっちゃんの言う通り、女の子が肌を晒すときはやはり準備は大事なようだ。


「分かりました。じゃあ、敬老の日なんてどうですか?」


「そうしよっか。でも、祝日かあ……人が多いかも」


「変えますか?」


「ううん。別に大丈夫」

 こうして、プールに行く日が決まった。

 部屋で水着姿を見せてもらったが、それでもプールが楽しみで仕方がない。

 

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