第29話しつこい山野さん

 生徒会選挙で、副生徒会長という座をかけ、クラスメイトのみっちゃんと争う事になった。

 勝ち目はない。

 だが、負けたくない。そこで、足掻くためにみっちゃんの事を良く知る姉であるけい先輩に助けて貰う事に決めた。


『という訳で、色々と手助けしてあげる。今みたいに電話越しだと話しづらいから、面と向かって話せると有難いのだけれども……』


「あ、はい。分かりました。どこで話しますか?」


『放課後の教室で良いんじゃないかしら? 明日は時間の方は大丈夫?』


「大丈夫です」

 明日の放課後、けい先輩と話すことになった。

 これで、みっちゃんの弱点やらちょっとした勝ちにつながるヒントを得られれば良いんだけどな……とか考えながら使っていた携帯電話を持ち主に返す。


「携帯電話、ありがとうございました」


「ううん、気にしないで良いよ。その感じ、ちょっとは手助けして貰える事になったって感じかな?」


「そうですね。なんか、みっちゃんの頭が悪いので、生徒会に入る以前に勉強しろ的な理由で味方してくれるらしいです」


「なるほど。それは良かったよ。ところで、今日は帰りにスーパーに寄るけど何か買ってくるものはあるかな?」

 なんだかんだで、スーパーへの道のりは長い。

 そこで、俺と山野さんはお互いに欲しいものを相手に言いあう事で、スーパーへ行く時間を互いに節約している。

 しかしながら、今となっては山野さんと一緒に買い物をするのが楽しいからこそこう言うのだ。


「俺も一緒に行きますよ」


「そっか」

 二人で肩を並べてスーパーへと向かう。

 色々と買い物をして住んでいるアパートへと帰って来た。

 暑さは和らぎ始めてはいるが、今日はそこそこ暑いので俺はエアコンを入れるつもりだ。

 でも、山野さんはエアコンを入れないで良いと思っているかもしれない。

 そんな相手を招き、強引に一緒に過ごさせることでエアコン代を折半させると言うのは気が引けるので来るかどうかをきちんと聞く。


「今日もエアコンを入れますけど来ますか? さすがにエアコンを入れる必要はないと思っている人を強引に一緒にお邪魔させて折半させるのもあれなので、入れる必要はないと思ってるのなら断って良いですからね?」


「ううん。断らないよ。私も暑いからエアコンを入れる必要はあると思ってるし」


「じゃあ、今日も一緒の部屋で過ごしましょうか……」

 暑さが和らいできたとはいえ、まだ一緒の部屋で過ごすのは続く。

 そのことにちょっとした嬉しさを覚えながらも休日と同様に夕方から夜にかけての時間を一緒の部屋で過ごすのであった。

 気温が下がり、山野さんが部屋へと帰ろうとする間際の事だ。


「間宮君。生徒会選挙を頑張ってね!」

 激励を受けるのであった。


 そんな激励を受けた次の日の放課後。

 けい先輩の助力を仰ぐためにけい先輩が所属する教室へと向かった。

 すると、すでに人気は無く教室に居たのはけい先輩だけだ。


「ふふ、来たわね。じゃあ、話しを始めましょうか」


「あ、はい。お願いします」

 人気のない教室でけい先輩と話を始める。

 

「正直に言うわ。みっちゃんの弱点は勉強が出来ない事くらいしか無いわ。でもね、その弱点は生徒会選挙では弱点になり得ない」


「……」

 弱点がない。

 つまりはみっちゃんの弱点を突けなければ、俺が強くなるしかないという事だ。

 早速、不安な思いが大きくなり始めた時だ。


「だからね。私が力を貸してあげる」


「どういうことですか?」


「簡単なことよ。ちょっと、言うのは失礼かもしれないけれども、哲郎君はそこまでこの学校の生徒に知られても居ないし、人気も無い。で、はたまた、喋るのもみっちゃんより上手くもない」


「っつ」

 思った以上に自分の魅力がない事にダメージを受ける。

 ちょっと、苦笑いしている俺を見てちょっと申し訳なさそうなけい先輩は一気に本題を切り出した。


「応援演説を私がすれば良いのよ」


「なるほど」

 一瞬にして理解した。

 俺は弱さを俺の成長で補うのではない。

 他の強い人から力を貸して貰う事で、結果的に俺を勝たせる。

 要するに、手っ取り早く強い装備を身に着けることで強くなるという事だ。


「そう、生徒会選挙は立候補者の演説と立候補者を推薦する人の応援演説を行い。全校生徒は投票を行う。哲郎君は友達に応援演説を頼もうとしていたでしょうけど、その友達の代わりに私が応援演説を行えば状況は有利に傾く可能性が高いと思わない?」


「はい。その通りです。でも、俺なんかのために本当に応援演説を引き受けてくれるんですか?」


「ええ。良いわよ。みっちゃんに勉強をさせないと不味いもの」


「そんなに不味いんですか?」

 みっちゃんの成績は悪い。

 だが、そこまで勉強をさせようとする理由が分からなかった俺は頭を傾げる。


「あの子、周りとの関係を大事にし過ぎるのよ。だから、高校生になって以来、友達付き合いを優先するあまり勉強ができなくなった。さすがにこのままだと本当のおバカちゃんになってしまいそうなのよ……」


「そう言う事だったんですね」

 みっちゃんが周りとの関係を大事にし過ぎているのには、俺も心当たりがある。

 そこまで親密でないクラスメイトな俺にさえ、山野さんとの事でお節介を焼かれているのだから。


「まあ、そういう訳で生徒会になんて入れたくないの。だから、私は哲郎君の味方をするという訳よ。さてと、色々と今後の予定について練りましょうか……」

 こうして、けい先輩と一緒に生徒会選挙をどのようにして戦うのかを詳しく煮詰めていくのであった。

 


 そして、生徒会選挙をどのようにして戦うのかをあらかた決め終わる。

 助けて貰うという事もあり、さも当然かのようにこう言った。


「お礼をさせてください」


「ふふ。気にしなくて良いのよ?」


「いえいえ、さすがにここまでして貰ってると言うのに何もしないなんて出来ませんって。あ、もちろん、俺のできる限りの事でお願いします」

 そう言うと、ちょっと困った顔で少しの間、悩んだのちけい先輩はとある事を口にする。


「お礼は取っておくことにしたわ。ほら、何か困ったときに助けて頂戴?」

 遠回しにお礼を断られた。

 まあ、無理にお礼をして相手を委縮させてしまうのも良くない。


「分かりました。お礼は何か困ったときに助ける。って事で」


「それで良いのよ。さてと、ある程度、お話もまとまった事だし、帰りましょうか」

 住んで居る部屋へ帰るべく、足を動かし始めた。

 けい先輩は俺と同じく高校があるこの街に住んで居る。

 ゆえに、帰り道はある程度かぶっており、謀らずして一緒にある事になった。


「そう言えば、気になったのだけれども哲郎君はどこら辺に住んで居るのかしら?」


「え、まあ。その辺ですよ」

 山野さんと同じアパートでお隣さんだなんて言えるわけもないと思っていた。

 でも、変に騒ぎ立てて悪い噂を流すような人ではないの確実。

 つまりは別にバレてもそこまで問題は無さそうだという事である。


「家を教える事に少しばかり忌避感を覚えるのは当たり前ね。気を悪くしたのなら申し訳ないわ」


「気にしないでください」

 ……といった感じで適当にだらだらと話ながら帰り道を歩く。

 当然、別の家に住んで居るので、途中で帰り道が異なる。

 帰り道が別れる寸前。

 今一度、今回の生徒会選挙に関してのお礼を言って別れることにした。


「生徒会選挙に関して色々とお願いします。それではまた今度」


「ええ、任せておきなさい。じゃあ、失礼するわね? 最後に一つ気になる事があるの。ちょっと良いかしら?」


「あ、はい」

 返事を返すと俺に近づくけい先輩。

 近くにやって来たけい先輩はと言うと胸もとに手を伸ばしてくる。

 そして、きゅっと制服のネクタイを締めあげてきた。


「ネクタイを緩め過ぎよ? 生徒会に入るつもりならシャキッとしておきなさい。じゃあ、本当に失礼するわ」

 ネクタイを正すとけい先輩は満足気に俺の前から去って行った。

 

「さてと、俺も帰るか」

 一度止めた足を再びアパートへと動かし始めた時だ。

 後ろからポンと肩を叩かれる。


「間宮君。今、けい先輩と近づいてたけど何してたのかな?」

 急に山野さんが話しかけて来た。


「いつの間に、後ろに居たんですか?」


「そんなことよりも、間宮君。けい先輩との距離が近い時になにしてたの?」


「別になんもして無いです。ただ、ネクタイを締めて貰っただけです。ほら、生徒会に入るのならもっときちんとネクタイを締めなさいって感じで」 


「そっか。それなら良いんだけど。あれだからね。うん、あれだよ?」

 なにがあれだから、あれなんだ? 

 一瞬、考え込むも何となく答えが分かった。

 ネクタイを締めて貰った時にけい先輩と俺は不自然なくらい近かった。

 山野さんには俺が迫って不埒な事をしようとしていたと見えたのだろう。

 けい先輩と親しい山野さん。なので、けい先輩に変なことをしようものなら許さないという事だ。


「分かってますって。山野さんの大事な先輩であるけい先輩に手を出そうだなんて微塵も思ってません」


「間宮君がすぐに女の子を毒牙にかけようとしないのは、よーく、本当によ~く知ってるけどさあ……」

 ちょっと不機嫌? 

 そんな山野さんと一緒に住んで居るアパートへと向けて歩く。


「間宮君。本当にけい先輩に手を出したらだめだからね?」

 歩いている際、ちょっと不機嫌そうな山野さんが、けい先輩に手を出すなと口を酸っぱくして言って来る。


「本当に分かってますから」


「……本当に?」

 珍しくしつこい。

 まあ、先輩の事を思っての事だから仕方がない。

 そう思いながら、山野さんと一緒にアパートへと帰るのであった。

 



 


 

 

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