2章

第28話ライバルはクラスメイト!

「生徒会役員になります」

 夏休み最後の日。

 取り敢えず、仲を進展させたい。

 夏休みが終われば少しばかり山野さんとは距離ができるのは間違いなし。

 だからこそ、姉さんのアドバイス通り同じことをすることで距離を近くに保つことにした。

 

「そっか。私から誘う手間が省けたね。なんだかんだで、後輩で、仲の良い子を誘っておけば気楽かな~って感じで誘おうと思ってたから」


「という訳で、生徒会役員になろうと思っているのでよろしくお願いします」


「ほほう。それは私の右腕になって頑張るという宣言かね?」

 気取った紳士のような口調。

 それでいて、どこか嬉し気な雰囲気を感じる。


「そんなとこです」


「そっか。それはそれは嬉しいね。で、実際のとこはなんで入ろうと思ったの?」

 

「山野さんといっし、いえ、良いところの大学の指定校推薦を貰うには勉強以外にも何か必要だって言われたからですね。せっかく、そこそこいい成績を収めているのでちょっとでも可能性があるのなら良いかなと」

 一緒に居たいと口から出かけた。

 しかし、それを押し戻し、それなりに見繕った理由を言う。


「ま、大体、そんな理由だよね。でも、それでも嬉しいかな~って。ほら、私と間宮君の仲じゃん? こう、一緒に色々と出来るのなら、楽しいし気持ち的に楽だから」


「もちろん、入ろうとしたのは山野さんと言う心強い顔見知りが居るからです。たぶん、山野さんが生徒会役員じゃ無ければ入ろうとだなんて思わなかったに違いありません」

 こればかりは本当だ。

 きっと山野さんが居なければ、生徒会になんて見向きもしていなかっただろう。

 

「お世辞でもそう言って貰えると嬉しいね。じゃあ、多分だけど2学期になったらすぐに生徒会について興味がある人用の説明会がある予定だから参加するんだよ?」


「はい。実はその辺りはスーパーでたまたま出会ったけい先輩に色々と教えて貰ったので大丈夫です」


「下調べ十分。やる気に溢れてるね」

 そんな感じで生徒会役員になると宣言をした。

 ちなみに選挙で他の立候補者たちと戦うのでは? と思われがちだが、けい先輩に色々と聞いた所、立候補者はほぼ居ないらしい。

 大体、毎年のように先生から生徒に頼み込む形で決まっていると言っていた。

 なので、生徒会役員になれないと言うのはほぼほぼあり得ないので安心である。


 

 それからは何事もなく時間だけが過ぎて行き、気が付けば夏休み最後の日は何事もなく終わってしまった。






 そして、迎えた二学期。

 始業式を終えて、普通に授業が始まった。

 授業も終わり帰りのホームルームで先生がとある事を伝えてくる。


「今日の放課後。視聴覚室で生徒会選挙についての説明会がある。生徒会に興味のある奴は参加、もしくは参加できないのであれば先生に一言くれ。じゃ、ホームルームは終わりな」

 ホームルームが終わって迎えた放課後。

 先生の言う通りに俺は視聴覚室に行くべく友達に挨拶を済ませる。


「悪い幸喜。俺は視聴覚室に行ってくるから先に帰ってくれ」

 友達である幸喜は今日は部活がないらしい。

 そういう訳で、一緒に帰る予定だったのだが、生徒会役員になるための説明会に参加したいので、一緒に帰れなくなったので断りを入れる。


「お、生徒会に入るつもりなのか? ま、お前は帰宅部だもんな。そりゃあ、暇を持て余してっからな」


「おいおい、悪口か?」


「んじゃ、頑張れよ。って、毎年、立候補者が現れなくて先生たちから声を掛けてるらしいし、立候補すれば当確だろうけどな」

 ちょっとからかわれながらも、応援を受けた俺は視聴覚室へ向かうのであった。



 視聴覚室に着くと、けい先輩が黒板に字を書いていた。


「まだ始まらないから座って待ってると良いわよ。取り敢えず、今年は1人立候補者が現れて良かったわ。去年は説明会の時は立候補者はゼロだったもの……」

 ちょっとした話を投げかけられた俺は視聴覚室に置いてある椅子に座った。

 数分が経つと、説明会の場所である視聴覚室に数人の人が集まる。


 ……どうやら、今年は立候補者が例年通り居ないのではなく、それなりにいるらしい。


 二年生の生徒会役員に立候補する者たち向けへの説明会は別のところで行われているので、紛れもなくここに居るのは一年生と説明会を取り仕切る側であろうけい先輩と生徒会顧問の先生だけだ。


 それから数分後。

 説明会の開始時間になったので、けい先輩が口を開く。


「お待たせしました。現生徒会長の筑波(つくば) 恵子(けいこ)です。時間になりましたので、これから生徒会についての説明会を始めます。今年はたくさんの方が説明会に来てくれているようでなりよりです……。それでは、生徒会の活動内容から……」

 具体的な生徒会についての活動内容、任期、と色々が語られる。

 そして、あらかたの説明が終わるとけい先輩は先生にバトンタッチ。

 バトンを受け取った生徒会顧問の先生は話を始めた。


「筑波(つくば)さんの説明がうまかったので私からは何もありません。今年はこちら側から生徒に声を掛けなくて良さそうで一安心。さてと、ここに集まった人で生徒会に入るって言うつもりがある人はどのくらい居ますか? 良ければ、手を挙げて下さい」

 話を始めた先生は物腰が柔らかく、可愛くて教師の中で人気のある音楽の先生。

 確か、けい先輩から聞いた話だと吹奏楽部の顧問だが、もう一人の吹奏楽部の顧問の先生が有能過ぎて仕事が無い。

 という訳で、割かし暇なので生徒会の顧問を毎年のようにやっているとの事だ。


 そんな先生に言われた通り、立候補するつもりがある人は手を上げて下さいと言われたので手を上げる。


「なるほど。大体わかりました。それでは、立候補したいと思っている人は明日もここに集まってください。もちろん、今、手を挙げた人以外でも立候補したいって言う人は必ず来てください。じゃあ、今日はこのくらいにして置きましょうか。締めちゃって、筑波(つくば)さん」

 けい先輩に場を任せる。

 それから、けい先輩はつつがなく説明会を終わらせた。

 皆が皆、荷物を持って去ろうとしている中、後ろから話しかけてくる誰か。


「哲君が生徒会に興味があったなんて意外~。んで、目的はやっぱりあれなのかな~?」

 ニコニコと後ろから話しかけて来たのはクラスメイトであるみっちゃん。

 この場に居るという事は生徒会に興味があるという事で、先ほどの先生が大体の立候補者を知るために手を上げさせていた際にも手を上げていた。


「何のことだ?」

 みっちゃんは山野さんとの事を知っている。

 俺の目的がそういう事だと言うのは良く分かっているのだ。


「惚けても無駄だっての。あ、ごめんね。先に謝っとく。さすがに私も生徒会役員の座は譲れないし」


「どういうことだ?」


「それは明日になれば分かるんじゃないかな?」

 したり顔で意味ありげな発言を残して去って行くみっちゃん。

 この時は気にも留めていなかったのだが、迎えた次の日で意味を理解した。



 次の日。

 視聴覚室で生徒会役員の立候補者が集まる中、生徒会顧問である音楽の先生が話を仕切る。


「これで全員ね? じゃあ、始めましょうか……」

 視聴覚室に集まった生徒会役員に立候補するつもりのある生徒はわずか5人。


「生徒会役員に立候補するのはここに居る4人。生徒会役員になれるのは3人。でも、同じ役職に何人も立候補した場合、空席が生まれる。そこで、談合をしましょうか」

 一年生が保有する生徒会役員の枠は3つ。

 副生徒会長、生徒会書記、生徒会会計。以前は庶務なんてのもあったらしいが、人手的に足りるという事で撤廃されている。

 これらの枠をすべて埋めたい。

 同じ役職に何人もの立候補者が立候補してしまえば、それは叶わない。

 なので、あらかじめ誰がどの役職に立候補するのかを談合で決めたいという事だ。


 色々と話し合いの末、ここに居る誰がどの役職に立候補するのかは決まった。


 まず、副生徒会長。

 間宮 哲郎こと俺とクラスメイトのみっちゃんだ。


 次に、生徒会書記。

 サッカー部の次期エースと名高く、男女ともに顔が知れている人気者。

 八坂(やさか) 勇将(ゆうしょう)。

 男の俺が羨むくらいのイケメンである。


 そして、生徒会会計。

 絵のコンクールで何度も入賞を果たし、何度も集会で表彰される芸術家。

 神楽(かぐら) 玲菜(れいな)

 男の俺がドキッとするくらいに可愛いが、山野さんの方が個人的に可愛い。


 この二人と争った所で勝てるだろうか? という感じでクラスメイトであるみっちゃんが立候補する副生徒会長に俺も被せる形で立候補するに至ったわけだ。


「ほらね? 昨日、私が言ったことがわかった?」

 誰が立候補するのかを生徒たちだけで決め終わった後に出来たちょっとした間に、話しかけて来たのは周りをよく見ていたみっちゃん。

 なる程、こうなる事を予見していたからこそ『あ、ごめんね。先に謝っとく。さすがに私も生徒会役員の座は譲れないし』なんて俺に言ってきたという訳だ。


「分かってたんだな」


「まあねー。でも、あれだ。あの二人が立候補するという事で逃げる人が2人もいたなんて思わなかったけど」

 昨日の説明会の時はもう2人一年生は居た。

 立候補する者を大体知りたいという理由で手を挙げさせられた際に、強敵なあの二人も手を挙げていたのを覚えている。

 要するに当確間違いなしなあの二人が立候補するなら、負けるから辞めようという訳だ。


「……」

 みっちゃんとの一騎打ち。

 あの二人には劣るが、みっちゃんもそれなりに人気がある。

 クラスではもちろん、部活のバトミントン部でもムードメーカーだ。

 一方俺は帰宅部でうだつが上がらない。

 山野さんとけい先輩以外だと、クラスメイトしか名前を知ってくれていないような凡人。

 勝負はもうついているようなものだ。


 けい先輩が去年は生徒会選挙に立候補する人が現れなくて大変だったと言っていたので、てっきり今年もそうなると高を括っていたが甘かったらしい。

 甘い考えだったと痛感しながらも、どうにかみっちゃんに勝てないか?

 誰がどの役職に立候補するのかを決め終わったので、再開した先生の選挙についての説明を聞きながら考えるのであった。



 そして、生徒会選挙についての説明が終わったので家へと帰宅しようと歩いていた所、お隣さんが後ろから声を掛けて来た。


「あ、間宮君」


「山野さんも今、帰りですか?」


「そうだよ。一年生と同じく、二年生も第二視聴覚室で生徒会選挙に立候補する人を決めてたからね。去年と同じメンバーしか立候補する人は現れなかったからスムーズに終わったけどね」

 一年生で生徒会になった者は二年生でも大体やる。

 そういう訳で、新たに立候補する人はその強敵を打ち破って当選しなければいけないのだ。

 二年生から生徒会役員に立候補する人は現れにくいに決まってる。


「スムーズに終わったのに何で今、帰宅中なんですか?」


「ちょっと話してただけだね。今年度も同じメンツで生徒会かあ~、一年生はどんな子が来るんだろうか? って感じでさ。で、間宮君は?」


「山野さんも見た事があると思うんですけど、クラスメイトのみっちゃんと争う事になりました。他の役職の立候補者は誰もが有力過ぎて勝てそうに無かったので」


「……そうなんだ。てっきり、今年も立候補者が中々現れなくて困った事になるのかなと思ってたのに。って、あれ? これは間宮君が生徒会役員になれない可能性があるって感じなの?」

 山野さんも去年、立候補者が現れなくて困った事になっていた実情を知っていた。

 だからこそ、去年と同様に俺が難なく生徒会役員になれると思っていたので、なれない可能性があると分かりちょっと複雑そうな顔に。


「あ、はい。そう言う感じです。でも、勝てるように頑張りますよ?」


「時には頑張りだけじゃ無理。……んー、間宮君が勝つためにはどうすれば良いんだろ。間宮君はあの子に比べて知名度も無いからね。一騎打ちだと確実に負けるんじゃない? となると、あれだね。取り敢えず、相手の弱みを握ろっか。ちょっと待っててね」

 携帯を取り出す。

 そして、誰かに電話を掛ける。


「あ、けい先輩。今、時間大丈夫? けい先輩の妹の弱点が知りたいんだけど……」

 なる程、みっちゃんの姉から弱点を聞き出すのか。

 俺がいくら頑張っても短期間であのサッカー部のエースであったり、絵の天才であったりと同じようにはなれない。

 なら、相手の弱点を知りそこを攻める。

 実に合理的な考えだと考えていると、山野さんから携帯電話を渡された。


「けい先輩が話したいって」


「ただいま代わりました。間宮です」

 携帯を受け取って、代わった事をけい先輩に話す。


『みっちゃんの弱点が知りたいのよね? 良いわよ。教えてあげる』


「はい。でも、妹の味方じゃ無いんですか?」


『ええ味方じゃ無いわ。だって、あの子馬鹿なの……。あの子の母から勉強させろって頼まれてしまうほどにね。生徒会をやる前に勉強しろという訳よ。つまりは、私はみっちゃんの味方じゃなくて、あなたの味方という事になるわ』

 あー、そう言えばみっちゃんって結構成績が悪かったな。

 生徒会に入る位なら勉強しろというスタンスなのだろう。


「お言葉に甘えさせてください」


『ええ、良いわ。みっちゃんに勝たせてあげる!』

 透き通ったはっきりとした声でそう言われるのであった。


 





 

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