第18話二人の勘違い?
姉さんと一緒に帰省し、実家で3日過ごした。
久しぶりの実家は非常に楽。
洗濯はしなくても良いし、料理もしなくて良いし、掃除もしなくて良いのだから。
そして、姉さんの車でアパートに帰って来た俺はと言うと、お土産として地元の銘菓では無くて、ありふれた菓子を渡すべく山野さんが住んで居る部屋のインターホンのボタンを押した。
すでに実家から帰ってきているのは確認済みだ。
「今、出ます」
その声が聞こえてからほんの数秒後、玄関が開く。
開いた先から出てきたのは何の変哲もない山野さんである。
少し会わない間に何かが変わっているのでは? と思っていたが、何一つ変わりない。
「お久しぶりです。実家に帰ったんですけど、これ、ちょっとしたお土産です」
手渡したのは本当にちょっとしたお土産。
具体的には姉さんと車で寄ったパーキングエリアで買った地域限定のチューインキャンディだ。
変に箱菓子のお土産なんて渡すよりか、こっちのほうが良いに決まってる。
これなら相手もお返しをしようだのなんて思わないし、気を使わせないはずだ。
「ありがとう。それにしても、1週間ぶりくらい? ちょうど、私が帰って来る前くらいに間宮君は実家に帰っちゃったし」
「言われてみれば、1週間ぶりですね。何か、変わったことはありました?」
「全然ないよ。実家でだらだらと過ごして、帰ってきてもだらだらと過ごしてた。そう言う間宮君は実家ではどうだった?」
友達と遊びに行くという事が無ければ、所詮はだらだらと過ごすだけだ。
「家事とかをしなくて楽でした。後、家族でバーベキューをしましたね」
「良いなー。バーベキュー。どこでしたの?」
「川ですね。ちょっと、釣りもして鮎(あゆ)を釣りましたよ。塩焼きにしたんですが、中々に美味しかったです」
鮎を川で釣り、塩焼きにして食べたことを話した。
俺の話すことを楽しそうに聞いてくれる。
「近くに川があればおかずが取り放題?」
「そう、うまくは行きませんって」
それから少しの間、世間話をした。
ちょっと世間話をして分かったが、やはり山野さんとは気が合う。
夏休み、どこかへと遊びに行けなくとも、部屋で一緒で過ごすことで距離は縮めて行きたいものだ。
次の日。
気温が暑くなり始めた頃、俺の部屋へ山野さんがやって来た。
「お邪魔するね」
「どうぞ」
二人で過ごす時間。
だけど、今日はどこかが違う。
過ごし初めて少し経つと、山野さんに落ち着きがないというか、慌てているというか、取り敢えずどこか変な感じを覚える。
「どうしたんですか?」
「え、うん。何がどうしたの?」
「いえ、なんか今日はいつもと違うなと思いまして」
「そ、そんなわけないじゃん」
とは言うものの、結局、この日は山野さんはどこか上の空な気がした。
こんな日もあるだろうと思いながら、なんてことないと考えてた。
しかし、なんてことなく無かった。
「今日は来ないのか?」
いつもの時間になっても、山野さんが部屋へ来ない。
……たまには来るのが遅い時だってあるだろう。
そう思ってから、3時間が経つ。
さすがになにかあったのでは? と思い山野さんに電話を掛ける。
『あ、間宮君』
『今日はどうしたんですか?』
『ごめんね。今日は一人で過ごしたい気分だから』
『それなら良いんですけど……』
『うん、それじゃあ』
たったこれだけで会話は終わった。
あからさまに様子がおかしい。
俺が気が付いてないだけで、何か致命的なことを山野さんにやらかしてしまったのだろうか?
色々と考えてみるも、山野さんの様子がおかしくなった理由が分からない。
「ダメだ。分からない」
気が付けば外は赤く染まっていた。
……買い出しに行こう。
少し前にジャージを譲った際に取り付けた『5回分の買い出し』も消化しており、今日は俺が買い出しに出る日。
山野さんに何を買ってくれば良いのかと電話をすると『今日はいいや』で済まされてしまう。
「何がいけなかったんだろうな」
山野さんに『今日はいいや』と言われて、俺もすっかりと買い出しに行く気が削がれてしまい、家にある物だけで済ますことにした。
なんだかんだで、いざという時のためのカップ麺である。
ずるずると夕食にカップ麺をすすった後。
悩み事だけで時間を潰すのは勿体ないので、部屋の掃除をしながら考え続ける。
様子のおかしい山野さん。
果たして、一体どうしたのかと。
「っと。そう言えば、姉さんに返すのを忘れてた」
棚の上に置いてあった一枚の女性が持つに相応しい一枚のハンカチ。
これは姉さんが部屋に落として行ったもので、取り敢えず棚の上にと置いたまま、返すのを忘れてしまった代物だ。
ちょっと高そうなハンカチなので、どうすれば良いか姉さんに電話を掛ける。
『はい、お姉ちゃんですよ。哲郎、どうかしましたか?』
『今、時間は大丈夫?』
『大丈夫ですよ。要件を言ってください』
『姉さんが忘れて行ったハンカチがあるんだけど……』
『無くしたと思ったら、哲郎の部屋にあったんですね。ただ、取りに行くのも面倒なので預かっておいてください。まあ、その柄で良いのなら哲郎が使っても良いですけどね』
『いいや。さすがに男でこの柄はいまいちだし預かっておく。要件はこれだけだ。時間を取らせて悪かったな』
『いえいえ。それじゃあ、電話を切りますね』
『ああ、じゃあまた今度』
『はい。今度は秋辺りに連休があるのでまた様子を見に行きますね』
プツリと電話は切れる。
姉さんのハンカチは今度返すまで預かっておくことになった。
棚の上においておけば埃をかぶるだけだし、洗濯してから仕舞っておくか。
「さてと、片付けの続きだ」
それから、部屋の物を片付ける。
棚を開けて中身を整理していると、友達がおふざけで『これは俺達からの気持ちだ。一人暮らしで女の子を連れ込み放題。いくら、あっても足りないだろ?』と言いながら俺の部屋に置いて行ったあれな物があって苦笑いを浮かべてしまう。
「ったく。一人暮らしだからって要らぬお世話だろ」
友達がおふざけで置いて行ったあれな物が役に立つ日はあるのだろうか?……とか思いながら棚に仕舞いなおした。
それから数分後。普段から綺麗にしているという事もあり、すぐに終わってしまう。
「っく。することが無くなったら、また山野さんの事が気になって来た」
明日には元通りになって居るはずだ。
そう思う事で、気にしすぎないように過ごす。
しかし、次の日。
『ごめんね。今日も気分じゃ無いからそっちに行かないよ』
と電話が来た。
昨日、俺から来ないんですか? と確認の電話をしたからだろう。
今日も来ないのか……と残念に思いながら来てくれない理由を考える。
「山野さんとは確実に仲の良いと言えるくらいだったのに、一体どうしてなんだ?」
より一層と真剣に山野さんが来てくれない理由と、どこか上の空な様子を考える。
必死に理由を考えていると、
「あ、もしかして……」
昨日の片づけをしていた時の事を思い出す。
棚の中にしまわれていた、男友達が悪ふざけで置いて行ったあれな物の事を。
「……あり得る」
本当に最近は友達でなければ、何なんだというくらいに山野さんと仲が良かった。
友達くらいに仲が良かった彼女はつい出来心で何気なく俺の部屋にある棚に何が入っているのかを見てしまった。
棚の中身を見ても許してくれるだろうと思って、棚の中に入っていた友達が置いて行ったあれな物を目撃した。
まあ、友達と言えど異性同士という事もあり俺の部屋へお邪魔するという事はそう言う危険性もあるのだと理解。
そして、俺から距離を置くことにした……。
「俺はどうすれば良いんだ?」
あれな物は友達が置いて行ったと弁解すべきなのは分かる。
だが、それでも信じて貰えるわけが無い。
それでも、気が付けば俺は山野さんに電話を掛けていた。
『山野さん。ちょっと、聞いて貰っても良いですか?』
『うん……。何?』
『その、えーっと棚にある物を見ましたか?』
『あっ。えっと、うん』
『あれは俺のじゃないですからね?』
『それは一目で分かるよ。で、それでどうしたの? やっぱり、これからは私は行かない方が『あれは友達が置いて行ったものです』
山野さんが話しかけているというのに遮って話してしまう。
『やっぱり……。あれの持ち主は良く部屋に来るの?』
ん? なんだろう。何かがすれ違っている気がする。
でも、まあ真摯に答えるしかない。
『たまにです』
『へー……。で、忘れて行ったその人とはどういう関係?』
『悪友です。あれも俺への嫌がらせです』
信用を取り戻さなければいけない。
取り敢えず、しっかりと聞かれたことに答えを返してく。
『悪友なんだ。でも、本当は?』
『本当に悪友ですって』
『……好きなの?』
好き? まあ、友達として好きだと言えば好きだ。
と言うか、この質問に何の意図があるんだろうか?
『友達としては好きですね。でも、ただの友達ですよ。割とうざく絡んで来るんであれですけど』
『そっか。そうだったんだ。じゃあ、まだ平気なのかな?』
どこか安心した声でそう言われた。
……これは、あいつがあれな物を置いて行ったと信じて貰えたのか?
そう思いながら、その後ちょっと話し、電話を終えるのだ。
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