第14話始まる夏休み。
「じゃあ、始めよっか。結構、油とか飛ぶけど大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ」
その言葉を聞いた山野さんはたこ焼き器のスイッチを押す。
すると、赤いランプが点灯した。
たこ焼き器に生地を流し込む。真ん丸の部分にだけでなく、溢れさせるように全体に入れ、キャベツ、ねぎ、紅ショウガ、天かすを入れる。
「昨日、たくさん作ったからね。腕の見せ甲斐があるよ」
「昨日も食べて、飽きないんですか?」
「さすがに毎日食べてるわけじゃ無いし、飽きないよ。それに、今日は色々と中に入れる具を持ってきたからね」
そう、山野さんはタコの代わりに入れる具材を幾つか持ってきている。
餅、ウインナー、チーズ、等々だ。
「たこ焼きの中身を変えるのも美味しそうですよね」
「そうそう。昨日はやらなかったから、今日はやろうと思って色々と用意したんだよ。ま、タコが高いからどうにか少なく出来ないか~という理由もあるけどね」
最近はタコの価格が高騰している。
実はマグロ並みの価格にまで値段が高くなっているらしい。
そんなことを考えながら、山野さんと一緒に好きな具材、タコや、餅、ウインナー、チーズを生地に入れた。
「よし、じゃあ後は生地が固まり始めるまで待つ」
山野さん主導の元、たこ焼きは着々と出来ていく。
そして、完成間際の時だ。
「間宮君はカリカリとふわふわどっちが良い?」
「どちらかと言えば、カリカリです」
「OK。じゃあ、油を多めにっと」
出来上がりつつあるたこ焼きにはけで油を多めに塗る。
そうすると、パチパチという音と共に香ばしい香りが広がり始めた。
「よし、最後の仕上げだね」
お皿にたこ焼きを乗せ、上からソース、鰹節、青のり、マヨネーズをかけた。
「美味しそうですね。食べても良いですか?」
「どうぞ、どうぞ」
出来上がったたこ焼きを口に入れる。
外はカリッと、中はとろとろ。たこ焼きならではの食感が口いっぱいに広がった。
「美味しいです」
「それは良かったよ。私もいただきます……」
俺が美味しいと言ってからたこ焼きに手を付け始めた山野さん。
出来たてで熱いのか、ハフハフと口を動かしているのを見ると、ほんわかとした気持ちに包まれる。
それから、今度は俺がたこ焼きを作ってみたり、中身を豪勢にタコ、餅、チーズ、ウインナー、と強引に無理矢理入れたりして楽しんだ。
あっという間に時間は過ぎ去り、後片付けをしている最中だ。
「そう言えば、間宮君。夏休みってどこかに行くの?」
そろそろ、夏休みという事もあり夏休みの話題が出た。
「友達と遊びに行く予定はありますよ。ちょっと、羽目を外して海にでも行こうって話が出てます。山野さんは?」
「私は友達と遊園地と花火大会とお祭りに行く予定を立ててるよ。ま、今年の夏からもう受験を意識して頑張らないと行けないんだけど、やっぱ遊びたいよね」
高校2年の夏。
受験を嫌でも意識せざるを得ない季節だ。
大学受験をしようとするのなら、この時期から本腰を入れないと手遅れになる。
「山野さんも指定校推薦以外の受験は意識してるんですか?」
「一応してるよ。指定校推薦が取れなかった時の事を考えてね」
指定校推薦を取るためにも、試験の成績、生徒会活動等、常日頃から頑張っているので取れる事を祈るばかりだ。
「あとは……実家とかには帰らないんですか?」
「お盆にちょっとだけ帰るよ。でも、ほとんどこっちで過ごすかな」
「俺もそんな感じです。せっかくの夏休み、友達から遠く離れた実家で過ごすのなんてもったいない、絶対にダメだ。って親が言うので」
「うちも大体そんな感じだよ。さてと、後片付けも終わった事だし、そろそろ私は自分の部屋に帰るね」
山野さんはたこ焼き器を手に自分の部屋へと帰って行くのであった。
残された俺はと言うと、
「大体の予定は掴んだ。絶対にチャンスはある。どこかへ、遊びに誘わないとな」
夏の予定を知ることに成功。
頑張ると決めたのだ。チャンスを生かさずしてどうする。
「でもなあ……」
問題はお金だ。
山野さんは遊園地、花火大会、お祭りに行くと言っていた。
おそらく、それで手一杯。他のとこへ遊びに行くためのお金を工面するのは難しいだろう。
俺の方は新作ゲームをプレイするために貯金し始めたお金がある。
それに手を付ければ、なんとか友達、そして山野さんとも遊びに行けるお金はあるんだけどな。
「どうにかして、山野さんとどこかに遊びに行きたい……」
俺は夏休みにどこかへと遊びに誘うべく色々と考え始めるのであった。
そして、遊びに誘う案が思い浮かばないまま夏休みに入ってしまった。
「間宮君。おはよー」
太陽の日差しにより熱くなり始めた頃合いになると、山野さんが冷房代を節約するために俺の部屋へとやって来た。
結局のところ、夏休みにどこか遊びに誘ういい案は思い浮かばない。
どこへ行ったとしても、お金が掛かってしまい計画は頓挫してしまう。
だらだらと部屋で過ごすだけで、何も変わらないまま夏休みを終わらせて良いわけが無い。
「これから、パソコンで映画を見るんですけど、一緒にどうですか?」
何も変わらないまま終わらせないためにも、遊びに行くのは出来ないかもしれない。
でも、部屋で出来る限りの事はしなければ。
そう思いながら、俺は一緒にパソコンで映画を見ようと誘う。
「良いよ。見よっか」
肩を並べてパソコンで映画を見て、関係を変えるべく距離を縮めようと頑張るのであった。
その甲斐もあってなのだろうか、部屋での山野さんが少しずつ変わり始めている。
しかし、どうも微妙な感じがしてならない。
「間宮君。ちょっとお昼寝するね。おやすみ……」
クッションを枕にお昼寝をし始める山野さん。
無防備になりつつあるし、距離は縮まって来ている。
距離は明らかに縮まって来ているのは分かるのだが、その縮まり方が友達の延長線上なのかそうでないのかが良く分からないのだ。
「一体、俺はどうすれば良いんだ?」
クッションを枕に無防備に寝て居る山野さんを見ながら、俺は考えた。
どうするのが正解なのかと。
静かな吐息を立てて寝て居る山野さんを眺めながら考えていると、
「んー。良く寝た」
ヴヴヴと携帯のバイブが鳴り、その振動で目を覚ます山野さん。
「おはよう。山野さん」
「やっぱり、少しだけ寝るだけでも随分と変わるもんだね。さてと、受験のためにも勉強しないとね……」
腕を伸ばしたり、肩を回したりして体のコリをほぐしている。
……よし、関係を変えたいのならもっと手を伸ばせ。
「肩が凝ってそうですね。良ければ、揉みますよ?」
「そう? じゃあ、せっかくだからお願いしようかな」
今までは、体に触れるのは極力避けていたが、それを緩めることにした。
もはや、多少のボディタッチで文句は言われないに決まっている。
現に今だって、普通に肩を揉ませてくれると言うのだから。
「じゃ、失礼します」
山野さんの後ろに立ち、俺は肩に手を乗せる。
親指に力を入れて、つぼ? らしきところをぐっと押し込む。
「もうちょい右かな?」
指示に合わせ指をずらしていく。
「そこが一番いい感じだよ。あと、親指だけじゃ無くてて全体で揉んで貰いたいかも」
親指でグッと押す方法から手全体を使って、肩を揉む。
そして、服越しだが、手のひらに走る異物感。
もしかして、この異物感って……か、肩紐では?
山野さんが身に纏っているブラの肩紐では? と思うとぞくりとした気分で鳥肌が立ってしまう。
生まれてこの方、女の子のブラなど触れたことが無い。
ましてや、着用済みのブラに直ではないとはいえ、布越しに触れていると考えるとちょっと興奮してしまう。
パンツは見た事があるが、ブラは見たことが無い。
果たして、上下お揃いなのか? それとも、別々のなのかとかでドンドン頭がいっぱいになってしまう。
「特にこれと言って、凝るようなことはして無いのに凝るから困ってるんだよね。さてと、そろそろ大丈夫だよ。あ、そうだ。せっかくだし、間宮君の肩を私が揉んであげるね」
「え、あ、はい」
今度は俺が肩を揉まれ始めた。
「よいしょっと。どう? 気持ちいい?」
「え、あ。その、最高です」
口ではそうは言うものの、肩紐の事で頭が一杯。
一体、どんな色をしていたのだろうか?
「間宮君。今度の日曜日にあるお祭りなんだけど、友達と行く予定だったんだけど、残念なことにドタキャンされちゃったんだよ」
「それは残念でしたね」
「夏休み前に告白されて恋人が出来て、その恋人と行くってさ……。でも、お祭りに行くつもりだったから、なんとか、節約して電車賃とか屋台で食べる用のお金も工面したのに……」
頑張ってお金を用意したというのにお祭りに行かないとなれば腑に落ちなくて当然である。
俺の肩を揉む力を強めているので、本当に残念に思っているのだろう。
「まあ、新しいパソコンを買うのに回せるから良かったと言えば、良かったんだけどさー。なんか腑に落ちなくてやっぱり行こうと思うんだよ。という訳で、どうかな?」
「あ、はい」
相変わらず、肩紐の事が頭から離れずにテキトーに返事をしてしまった。
って、あれ? 今なんて言われた?
『という訳で、どうかな?』だと?
曖昧な感じだが、この場合の『という訳で、どうかな?』ってもしかして……。
「ありがと。いやー、やっぱり夏と言えばお祭り、間宮君のおかげで今年もお祭りを楽しめそうだよ。ほら、一人で行くのって寂しいからね」
俺は今度の日曜日に山野さんとお祭りに行くことになったらしい。
金銭的な問題で遊びに誘えないと思っていたが、遊びに行くのをキャンセルしてくれた山野さんの友達のおかげで、無事に遊びに行ける事となるのであった。
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