第11話自炊するのが面倒な日もある

 日も暮れて、気温も下がった頃合い。

 山野さんは自分の部屋へ帰り、一人になった時だ。


「よし」

 冷蔵庫を開き、とある食材を取り出した。

 その名も卵。

 みっちゃんの姉であり、生徒会長であるけい先輩は家庭的である。

 そんな彼女が教えてくれたのは、『卵』という食材は安くて、料理の仕方次第で飽きずに使い続けることができる、万能食材だという事だ。


「卵を一つ。カニカマを適量。ねぎを適量。中華だし。醤油」

 今日、俺が作ろうとしているのはチャーハン。

 フライパンを熱して、油をフライパンになじませる。

 そして、ほぐしたカニカマとねぎを入れて軽く炒めてから、卵を入れ、完全に固まり切る前にご飯を投入、パラパラになるようお玉を使い、綺麗に混ぜ合わせ調味料で味を調える。

 工程はこれだけだったのだが、


「……おぉぉぅ」

 何とも言えない声が漏れだしてしまう出来栄えだった。

 ご飯はベタベタでパラパラした状態からは程遠く、卵はちょっと焦げ付いた部分が見受けられる。

 簡単に出来栄えを評価するとしたら、


「失敗だな。でも、食べるしかない」

 作ったのだから仕方がない。

 失敗したチャーハンを写真撮影してから食す。幸いなことに味付けだけは成功しており、パラパラ感が無くベタベタで卵が焦げているだけで食べれなくはなかった。


 という失敗談を山野さんに連絡して見た。

 すると返事はすぐに帰ってきて、煽られた。


『私も卵焼きを作ったよ?』

 上手く出来ている卵焼きの写真と一緒に送られてきたメッセージ。

 どうやら、今日は山野さんは成功したらしい。

 綺麗にできている卵焼きを見て、器用なんだなと思いながら悔しいので


『おっちょこちょいなのに?』

 と煽ってしまう。

 すぐさまに山野さんから返事は来る。


『あれはたまたまだからね。まったく、お姉さんを煽らないの!』


『そう言われると煽ってみたくなります』


『どうなっても知らないよ?』

 これ以上、煽ったらどうなるのか気になるも嫌われたら元も子もない。

 適当に返信をして、携帯を閉じた。


 それから、何事もなく迎えた次の日。

 学校に行き、クラスに着くや否や、みっちゃんが近寄ってきた。


「やあやあ。哲君」


「おはよう。みっちゃん」


「おはよー。んで、昨日のあれは何かね?」

 そりゃあ、手を繋いで逃げる姿なんて見ようものなら、こんな風に問いただされて当然だ。

 しかしながら、騒がれるのも癪なので、山野さんとあらかじめ決めて置いた言い訳を使う。


「あれはわざとだ。手を繋いだら、みっちゃんとけい先輩がどんな風な反応をするか試してみたってわけだ」


「言い訳としてはちょっと苦しくない?」

 

「言い訳じゃ無いからな」


「そっか。二人がどうなるか楽しみだよ。じゃあね~」

 周囲に男どもが集まってきたという事もあり、変に噂が流れないようにも、みっちゃんは話を切り上げて俺の元から去った。

 グイグイと来るが本当に相手が困りそうになったら引くと言う、なんとも良い性格をしている。


 みっちゃんが去った後、始業のチャイムが流れ、ホームルームが始まった。

 その際に担任の先生からとある事が告げられる。


「えー、期末試験が近くなりました。今回から平均点マイナス15点からが補習対象者になります。平均点が70点だったら、55点以下の人は補習という感じに会議で決まりました」

 この発言でクラスは阿鼻叫喚。

 補習を受けたくないという者達が、どうすれば良いんだよと嘆きに嘆く。

 それもそのはず、自称進学校なわが校の補習は気合が入っており、追試に合格するまで延々と補習が続くからだ。

 しかも、追試は問題が優しく成るどころか、難しくなるらしい。


「哲。俺はどうしたら良いんだよ……。前回は何とか補習を回避したが、平均点から15点引かれた点数だと何科目か絶対に補習になっちまう……」

 友達である幸喜が補習に成りたくないと話しかけてきた。

 自称進学校と言えど、勉強が嫌いな奴は嫌いだ。

 俺に話しかけてきた意図は何となく、分かっている。


「勉強を教えろってか?」


「ああ、頼む。お前、この前のテストで総合10位だったろ?」

 手のひらを合わせて拝むように頼まれた。

 幸喜はサッカー部に入っており、練習も熱心。 

 そんな彼は補習で練習時間を奪われたくないからこそ、俺に頼んで来たのだろう。


「まあ、仕方がない。教えるが、限界はあるからな。俺だって、点数を落としたくないからな」


「悪いな。なんか、奢るぜ」


「じゃあ、今日からだな。確か、今日から試験前だから部活動禁止期間だろ? 場所は声を出せるように自習室で良いか?」

 やる気がある奴にになら、幾らだって手を貸したいので仕切る。


「おう、わりいな」

 放課後に幸喜に勉強を教える事になった。

 宣言通り、放課後自習室として冷房が効いている教室に行く。

 今回から、補習の対象範囲が広くなったことが影響しており席は満席。

 自習室として開放されていない、他の教室は放課後という事もあり冷房は付いていないので暑い。


「仕方ない。俺の部屋で勉強するか」


「わりいな」

 場所は俺の部屋へ。

 山野さんと出会わせないためにもきちんと今日は友達が来ますと連絡をする。


『おっけー。気を付けるね』

 との事で一安心。気兼ねなく、幸喜を部屋に招き入れる。

 ちなみに、これで3度目だ。


「邪魔するぜ」


「適当に腰掛けて良いからな。今、お茶を用意するから」


「あんがとな」

 今日は遊びに来たのではないという事もあり、真面目である。

 前来た時は、ガサ入れだとか言って、エロ本が無いか部屋を漁られたからな。


「じゃあ、始めるか」

 こうして、部屋で勉強を始めるのであった。


 2時間後。

 集中力が切れ始めているのを見越して、俺は休憩を言い出した。


「ふー。全然、分かんねえとこが多すぎてやべえよ」


「頑張れ、まだ時間はあるしな」


「おうよ。にしても、男の一人暮らし。女の子とか連れ込み放題で羨ましいぜ」

 連れ込み出来るような女の子が居るとでも? と以前は言っていたに違いない。

 今は山野さんが出入りしているから言えないけど。


「でも、実家暮らしの方が羨ましいんだが? 洗濯から掃除まで一人でやると案外時間が掛かるんだよ」


「それでも、一人で居られる方が気楽だろ。しかも、俺みたいな友達を連れ込んでも文句は言われねえとか最高じゃねえか。んで、みっちゃんが言ってた一緒に歩いてた女の子とはどうなんだ?」


「まだ、その話をするか。言わない。言わないからな」

 とまあ、適当に休憩を挟んだりして勉強をした。

 


 そして、夜が更け始めた頃。


「こんな時間までわりいな。そろそろ帰るぜ。本当に悪かった。お前のおかげで一人じゃ分からなそうなところは理解できた。後は自分で何とかする」


「頑張れよ。って、俺もだけどな。帰り道は大丈夫か?」


「おうよ。ここには三回来てるし、もう駅までの道は覚えてるっつの。じゃあな」

 勉強会はお開き。

 幸喜はそそくさと帰って行った。

 一人から二人、ちょっと静かになった部屋。

 気合いを入れて勉強したこともあり、面倒くささが体を支配している。

 ご飯も炊いてないし、今日は自炊をするのは辞めて買ってあるカップ麺でも食べようかなと棚を漁るも、買い置きが無い。

 


「仕方ない。コンビニでも行くか」

 スーパーは意外と閉店するのが早く、20時30分に閉まる。

 今が、20時5分。徒歩で20分掛かるため、着くころにはもう閉店間際で買い物する時間などない。

 なので、近場のコンビニへと足を運ぶべく玄関を出た。


「あ、間宮君だ」

 山野さんと出会う。


「どこに行くんですか?」

 やましい事があるのか、目をちょっと逸らす山野さん。

 もしかして……。


「コンビニに行くつもりなんですか? 鍵穴の交換でお金が無いから自炊して節約するってあれだけ息巻いてたのに」


「はい……。そうです。間宮君が友達と勉強するっていうから、私も頑張らないとってこの時間まで勉強してたんだよ。で、疲れて自炊はいいやと思いまして。でも、大丈夫、250円までと決めてるからね」


「まあ、250円までと限度を決めてるなら良いんですけど……」

 気が付けば自然と歩き出し、コンビニついた俺達。

 俺は適当にカップ麺とおにぎりを手に取る。大体これで350円である。

 山野さんは250円までと決めていると言っていたので、手に取っているものを見ると、


「そのデザートは置きましょうか」

 おにぎり二つとちょっとしたデザートを手に持っていた。

 絶対に250円は超えている。


「……でも、勉強したから甘いものが欲しいよ?」


「良いんですか? 友達と遊びに行くとき、遠慮させちゃいますけど」


「間宮君のけち。勉強して疲れた頭には糖分が無いとダメなんだよ?」


「山野さんが節約してるかきちんと見張って貰う意味があるとか言って、一緒に節約を頑張ろうって言ったから注意するんですよ? ほら、置いて来てください」

 俺に諭され、渋々と元の棚へとデザートを戻し、代わりに甘いものが相当に食べたかったのか、お菓子売り場で小さなチョコを手に取る。


「……はあ。なんで、鍵を落としたんだろ」

 そうぼやきながらレジに並ぶ。

 ちなみに合計270円と予算はオーバーでしている。


 会計を終えてコンビニの外へ出た。

 帰り道、山野さんは甘いものが相当に食べたかったのか、チョコの包み紙を剥がし口に放り込む。


「くぅー、生き返った気分だよ」

 甘さに打ちひしがれてご満悦。

 そして、俺にデザートを買うのを止められてちょっと不機嫌気味だったのが治った。


「いやー、ありがとう。間宮君がデザートを買うのを止めてくれて無駄なお金を使わずに済んだよ」

 ご機嫌な様子でお礼を言われる。

 デザートを買うのを阻止した甲斐があるというものだ。

 これからも、山野さんが節約してるかしっかりと見張ろうと思いながら、アパートへと帰るのであった。




 


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