エターニティにて

 私は女神メル・アイヴィー。


 神の国、エターニティで、創造の神ヘーパイストス様の作品管理をするのを仕事としていた女神。


 ヘーパイストス様の作品は、『どのような攻撃も防ぐ盾アイギス』、『最高神ゼウス様の武器雷霆』、『疫病の効果を与える女神アルテミス様の銀の矢』など、傑作が多く、恐ろしい威力を秘めたものばかりのため、その管理は重要な仕事なのだ。


 まだまだ新米女神の私ではあったけれど、与えられた役割の重さに、プレッシャーを感じながらも、またやりがいも感じていた。


 しかし、同期の女神達は、恋愛を叶えるお仕事、人間に啓示を与えるお仕事などをしている子が多く、そういった子達は、私の仕事についてよくこう言うのだ。


 「地味ね、可哀そう。でもいつかきっと仕事が変わる時も来るわよ」


 何だか慰められた感じ。ちょっと不本意。


 そもそも、神の仕事は、神の特性に応じて与えられるため、基本、変わることなどない。

 変わるとすれば、人間に関わりすぎたり、他の神と戦ったりで、神としての資質を疑われた時くらい、すなわち、あってはならないことが起きた時くらいだ。

 

 それに私は、自分のこの仕事を誇りに思っていた。


 何といっても、世界を何度か消滅させ、再生させる、神ですら耐えられないような武器がいくつも私の管理下にあるのだ!


 己の力を超える考えは、神としてはイケないことなのだけれど、ヘーパイストス様の作品については、以前から興味深々でもあったので、この仕事が決まった時には嬉しかった。


 ひょっとすると、私のこの嗜好が資質として評価され、この仕事に結びついたのかもしれないけれど、それならそれでもいいのだ。



 でも、なんだか、慰めてくれた彼女達には申し訳ない。

 きっと、ただ、私を元気づけたかっただけなのだとは思うから。

 だから、私はそう言われたときにこう返すのだ。


「今のお仕事とっても楽しいの、最高だよ!」



 私のお仕事は、倉庫の作品チェック。


 作品達は、所有者がいるもので預けられているものは、許可無く本人以外への貸し出し厳禁であるが、所有者がいないものは、全神に貸し出し可能になっている。


 持ち出しや貸し出しされた以外のモノは、作品倉庫に無くてはならない。

 だから、定期的に、倉庫の中で、作品リストと実際の作品を照らし合わせて一つ一つ存在を確認する。


 一見地味な作業に思えるかもしれないけれど、否や!



 こ、この作品が、世界を何度も滅ぼしたというあのお話の武器……


 かたーい、さすが伝説のアキレウス盾!


 このベッド、もしかして、奥様のアプロディーテー様が捕らわれたアレ……



 倉庫を守護する神の特権として、合法的に実際の事実と照らし合わせて確認できてしまったりするのだよ、諸君!


 しかも、どの作品も私の神の力如きでは壊せないから、ちょっとだけーとお触りし放題、試し放題!


 あ、メンテナンスしてる担当神はこわーい方が別にいるから、気づかれないようにこっそりなんだけど。


 でもでも、一応これも仕事の一部だから。

 偽物だったりするといけないし、ねっ。


 凄い武器防具って本当に、汚れ、傷もなかなかつかないから、本当に凄いの。




 そう、こんな感じで好き勝手したことを私は後悔することになる。


 ある時、倉庫のチェックをしていると、不思議な箱があったのだ。


「『パンドーラ―の箱』? 何だっけこれ」


 調べてみると、その昔、人間にプレゼントとして与えられた代物らしい。

 プレゼントしたものが、どうして戻ってきているのか?


 「世界を創り変える箱」と書いてある。


 不思議なことに、何もそれ以上の情報が得られなかった。

 神の記録にも残されていない。


 私は俄然気になってしまったのだ、箱の中身が。

 どうしても見たくなってしまった。


「内容のチェックも、し、仕事だよね」


 そして開けてしまったのだ……。


 その瞬間のことは覚えている。

 眩いばかりの光が箱からあふれ、私を包んだ。


 私はびっくりして箱のフタを閉じようとしたが、光の奔流は私の女神としての力よりも強く、上手くいかなかった。


 でも、あきらめるわけにはいかない、もしかしたら、ヘーパイストス様に迷惑がかかってしまうかもしれないのだ!


 さらに力を込める……、


 とまらない……



 だんだん意識が薄れてきた……




 鳴り響く警報が、だんだん小さく聞こえる。

 


 私の記憶はそこまでだった。

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