第64話
頬を染めて無言になったサラディアナに、クララはクスリと笑った。
クララにとってサラディアナは妹のような存在だ。
それはきっとクララだけではなく、ニコルやティトも同じ思いだろう。
その容姿や口調から男性陣には下心を持って見られ、それをみた女性陣からはやっかみを受ける事が多い。
クララとしてはそんな気これっぽっちもないのだが。
そういった環境だったクララは、恋だの愛に夢を持つのを辞めたのだ。
だがどうだろう。
ここにいるサラディアナは一途に幼馴染を想っている。
それがまたお伽話のようなときめきすらも感じさせて、とてもイジらしく、好感が持てる。
サラディアナの想いびと────キエル・ハワード。
この名を知らぬものはこの城にはいない。
物腰が柔らかく丁寧な紳士だ。
国内屈指の魔力量と技術を持っていて、魔道士になってすぐに頭角を現し今では宮廷魔導技師副師長である。
クララにとしてはあの嘘くさい笑顔が気に食わないのだが、ここにいるサラディアナはそんな彼が好きで好きで堪らないのだ。
そしてキエルの方もまた、サラディアナを大切に思っている事が窺える。
男性が女性に装飾品を渡す事は良くある。
そして、渡す装飾品や宝石によってその意味合いが異なるのだ。
ブレスレットは腕につける装飾品。
握手をする際、必ず視界に映り込む部分。
そして手錠を連想させる部分。
そこに贈り物をするという事はつまり相手含め周りへの牽制だ。
「彼女の手を取るのは自分である」「どこにも行かせたくない」
そして、送る相手の色の宝石をつける事も相手の想いを現している。
その色が相手の色に近ければ近いほど、想いが強い証拠だ。
女性達はあえて自分の色の宝石を身につけない。
逆に言えば身につけている女性は意中の人がいることになる。
最近王都に来たサラディアナは兎も角、4年目になるキエルがその事を知らない筈はないのだ。
「そのブレスレットは労い会につけていくの?」
「そうですね!そうします。購入したドレスの色にも合いそうですし」
頬を赤らめて嬉しそうに頷くサラディアナ。
多分それも想定したデザインなのだろう。
「じゃぁ、明日のヘアメイクは任せてぇ。ハワード殿がびっくりするくらい可愛くしてあげるわぁ」
「お!じゃぁ私も頼もうかな」
「一つ聞くけれど、貴方はドレスをきるの?スーツを着るの?」
わいわいと3人でパーティーの事を話す中、仕事から帰ってきたニコルの「ハワード殿が女性物の装飾品を購入した事件」が宮廷内で水面下ながら大きな衝撃を与えていると知ったのはまた別の話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます