第57話


「魔法石がどんな経緯で魔力を持つのか、それが未だに解明されていないのが問題だな」

「魔法石以外の物質の代用も検討する必要がありますね」



 今まで王政会議や世界会合など色々な場でその都度提案され、研究もされ続けているが、今のところこれといった発見には至っていないのが現状だった。

 セドリックはチラリと既に力を失った石を見やる。

 部屋の端の方でゴロゴロと転がったままのそれは、光をなくしてどこにでもある石のようでどこかもの悲しい。



「せめて、魔力を失った魔法石が魔力を取り戻すことが出来たら話は違うんだけどな」

「.....」



 セドリックの呟きにサラディアナは反応出来ないまま同じように石の方へ目を向けた。

 自分はセドリックの言う『魔法石の再生』が行える。

 0となった石の力を蘇らせて、同じ性能で使用できる。

 自分の力を公表したらこの世界の役に立つのだろうか、とサラディアナはふと思った。

 しかし、そのあとすぐに首を横に振りその考えを打ち消す。

 キエルも師匠もサラディアナの力を隠すことを提案した。

 それならば、信頼に値する二人がそう望むなら、サラディアナはそれ以外の行動は取らないのだ。




「よし、いくか」

「え!?」



 思いの外近くから聞こえるセドリックの声と同時に掴まれた手首の感触でサラディアナは思考の海から引き上げられる。

 目をパチクリと瞬かせるが、外套を深々と被り既に外出の支度を終えたセドリックがこちらを見てニヤリと笑った。



「いくって、...どこに」



 サラディアナは冷や汗をかきながら伺うように声をかける。



「決まってんだろ。幸福のピアノの所だ。」



 パチン────

 セドリックの指先から光が放たれ二人を包む。

 ぐらりと視界が反転して思わず目を瞑った。

 そして、次に目を開いた時は日差しが降り注ぐ教会の中だった。

 ステンドグラスが特徴的でここがどこの教会だと言うのもわかる。

 サラディアナはワナワナと肩を震わせセドリックに詰め寄った。



「あなた...まさか!転移したの!?」

「部屋から教会までまで歩くわけねぇだろうが」

「教会内は魔法禁止です!常識でしょう!?」



『教会内は魔法禁止』

 これはこの世界で生きている人間なら誰でも知っている事だ。

 殆どの場合魔法制御の結界が貼られている筈だがセドリックには効かない事は、同じく魔法制御が掛かっている王宮内ですら堂々と魔法を使う事を垣間見れば嫌でも理解する。

 あとはセドリックのモラルの問題なのだが、彼にはそのモラルは無いらしい。



 サラディアナははぁっと溜息をついた後、懺悔するように手を組み祈った。



「お前、神を信じるのか?」

「ええ。少なくともこの世に生を受けられた事に感謝をしています」



 もっと言えば「キエルと出会わせてくれたこと」だが、それはあえていうことでは無い。

 セドリックは「ふうん」と素っ気ない相槌を打っただけだった。

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