第56話



「サラ。この回路図を見てどう思う」

「.....本物を見ないことには確かなことは言えませんが、ここの魔法石は問題無く取り外せると思います」

「あとこの回路を引っこ抜いてこっちに繋げてみるか?」

「それをするならこの回路もできませんか?」

「.....無理だな。逆に魔法石の力が強くなりすぎて音の負荷がかかりすぎる」

「んーーーー」




 セドリックの部屋。

 ここで2人は珍しく意見を交わしながら仕事に没頭していた。

 先日、宮廷魔道具技師長であるジェルマが携えてきた仕事だ。

『壊れたピアノを直して欲しい』との事。

 ただ、そのピアノがかなり古い物で過度に触れると壊れてしまうらしい。

 そして、そのピアノを動かす回路作りが複雑な上、使われた魔法石も現在残存しない貴重な物。

 よって今後の研究材料として魔法石を傷一つ無く取り出せという圧力のかかった依頼まで追加されている。



「無理だ」

「はは」



 セドリックは、いつも座っているソファに体を沈めた。

 むすっとした表情を浮かべながらも、その手には事前に貰った設計図を離さない。

 その姿をみて、サラディアナはずっと燻ってた考えをセドリックに吐露する。




「でも意外でした。めんどくさそうな依頼だったのにあっさり引き受けて」

「馬鹿かお前。貴重な魔法石、触れれる機会なんぞ滅多にねーぞ。まあジェルマもオレが引き受けるのを分かった上で持ってきてるよ」



 チッと舌打ちをするセドリック。

 なんとも彼らしい理由にサラディアナはクスリと笑った。




「ピアノに使われている魔法石って確か第一世代の物ですよね」

「そうだ。今流通している魔法石は第二世代と言われている。そしてこのピアノに付与されているのは第一世代。希少的で数百年前既に取り尽くされてしまった。第二世代が十数年で使えなくなるのに比べて、第一世代は魔法石一つで百年は軽々保つと言われている。」

「百年」

「使えなくなった第一世代なら探せばあるだろうが、未だに動いている物となるとそれはかなり貴重だ」



 珍しく饒舌に語るセドリックからもその凄さがわかる。

 小さな魔法石から膨大な力がある事を身をもって知る瞬間は胸が高鳴る事の一つだ。

 そういえば、と以前王都に入ったばかりの時に出会った少女のオルゴールを思い出す。

 あのオルゴールも五百年くらい前の物だった。

 動かなくなって仕方がないほどの年季が入ってはいたが、石の力を再生させれば再び動いた。

 つまり、本体は殆ど壊れていないという事だ。

 石の力もさる事ながら、石に負けない強度の本体を作り出した人達の技術は計り知れない。



「楽器から第一世代の魔法石が発見される事が多いですよね」

「楽器は本体そのものが長く保つように作られるからかな。当時から魔法石が貴重な物だったからそれに合わせて楽器や宗教関係、王族品などに優先的に使用したと言われている。」

「なるほど」



 セドリックの説明に納得をする。





「持続時間は無いものの軽量で簡単に使える第二世代の魔法石が見つかってからは、主流が変わったから」

「でもいつか第二世代も無くなってしまうんですかねー」

「....そうだな」



 魔法石の消滅問題。

 これは今まで何度も取り上げられてきた世界の課題だ。

 人は貪欲で、楽な方楽な方への魔法を使い続けてきた。

 そのおかげで、生活の質は高まる一方で、いまある魔法石も数が減ってきているという話だ。

 どうにかしないと数百年後には魔法石が無くなるという研究結果もある。



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