第10話


「サラディアナです。本日からよろしくお願いします。」

「ニアルです。よろしくお願いします。」

「ケニー。よろしくお願いします。」



 早朝、さっぱりした気分で目覚めたサラディアナはしっかりと身支度をして仕事場である魔導研究科の一室に来ていた。

 背筋を伸ばして挨拶をするために一礼すると、後ろで一つにくくった赤銀色の髪がさらりと落ちた。



「おー新人さんね。よろしく!」



 目の前にいる女性はジェルマ・ズワークと名乗った。

 魔導企画科課長であり魔導具技師長でもあるらしい。

 優しく微笑むジェルマは凛とした女性で、薄茶色の髪を肩上まで伸ばしている。右目近くに一房長く、瞳と同じ苗色が美しい。




「わー新人さんだ」

「今年は3人か」

「少しは仕事量が減ると良いけど」

「いや無理だろ」



 ジェルマの後ろ(技師長補佐の人たち)からコソコソ声が聞こえる。

 その声を聞いてジェルマは頭をガシガシと豪快にかいた。



「あー....まぁとにかく。新人は今が吸収どきだ。先輩達に聞きながら頑張りなさい」

「「「はい」」」

「さて、じゃあ君達の配属先を伝えます」



 ジェルマはバサリと紙を出すとピッと三枚にそれを破った。

 サラディアナは半目になる。



「ほい。ここに名前を書いて」

「.......」


 3人は言われたとおりに名前を書く。

 それを見届けたジェルマはその紙を集めて中へ放り投げた。


「リンク!!」


 ジェルマの叫び声とともに紙が一斉に散らばっていく。

 これは古い時代からあるまじないだ。

 呪文が「運命リンク」だと聞こえは良いがただの運試し。くじ引き。そのようなものである。



「まさか今ので配属先を決めたのですか?」


 先程ケニーと名乗った女性が唖然とした顔でジェルマに問うた。

 問われたジェルマはニカッと人が良さそうな笑顔を浮かべると自信満々に頷く。



「私はこの決め方で間違った事はない」



 なんの自信だ。

 そこにいた誰もがそう思った。



「班の目付役が来る前に魔導研究科について教えるわね」


 そう言ってジェルマは大まかだが必要な事を話しはじめた。


 魔導具技師の殆どは魔導研究科に属するという。

 そして、魔導研究科には大きく分けて4つの活動拠点が存在し「軍用班」「日用班」「文化班」「研究班」がある。

「軍用班」は防衛部門の持ち物の管理を行う。魔力増強アイテムなどは壊れやすいのでその修理が多いらしい。

「日用班」は、洗濯機や電気、コンロなど日常で使われる物の管理を行う。日用品ばかりなのでここに来る依頼がもっとも多い。

 そのため、技師の人数も多めらしい。

「文化班」は楽器類や物など文化物や保護用品を取り扱う。日用班に被る部分もあるが、楽器類は特に繊細な管理が必要なので一つの物の修理にかかる時間が長いという。

「研究班」は発明家達と合同で魔法道具の研究や発明や行なう。

 サラディアナにとって、1番行きたい場所は勿論「軍用班」だ。そこに入れればキエルとの理想の関係になれる。



 サラディアナはぐっと下唇を噛み締めた。





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