コラム2 授乳時代

 乳史区分は乳史学者たちにおいても意見が分かれているところだが、この物語では〈五分割説ごぶんかつせつ〉を採用したい。

 すなわち、乳球における全乳史を、授乳時代、育乳時代、断乳時代、搾乳時代、離乳時代の五つに分けることとする。


 乳源社会の黎明期から現在に至るまで、一貫して巨乳時代が続いていると主張する乳史学者も一定数存在するものの、それは巨論である。

 たしかに巨乳嗜好は、乳離れしつつある〈ポストティッツ〉の現代においてもフェティシズムの一大勢力であるし、断乳時代においてさえ、ヒンニュー教会が密かに巨乳者たちを保護していたことを示めす乳史文献も確かに存在する。


 しかし乳史全域を見渡すと、我々の乳への嗜好態度が、一定区間ごとに爆乳的な変遷を辿っていたことに気が付くであろう。

 乳源前八十八盛紀から八盛紀までの授乳時代は、味覚と嗅覚の時代であった。

 乳源は狩猟搾乳生活のなかで、良い乳と悪い乳を嗅ぎ分け、その鮮度を舌で判別し、良い乳だけを飲用するために進化したのだ。


 もちろんこの時代にも視覚的な価値尺度は存在した。より大きな乳房を持つ個体が、より多くの生殖相手を確保できたし、特別に大きな乳房を持つ個体は、その地域での政治的支配力を有した。

 だが、のちの育乳時代と比べると、その形状や、張り、艶、弾力性、運動能力などに渡る詳細な美的基準は存在せず、ただ大きさのみが求められる時代であったのだ。


 乳房が大きいということは、大量の乳子が含まれている状態を示している。

 最新の研乳では、乳子は自分たちの存在を守るため、周囲の乳子たちとコミュニケーションを行うための、メッセージ物質を撒き散らしていることが判明した。いわゆる巨乳フェロモンの存在が、最乳頭乳学によって証明されたのだ。

 そのため、乳房が大きければ大きいほど強力な威嚇装置となり、巨乳が近付くだけで貧乳たちが平伏してしまうという現象――乳房心理学でいうところの〈巨乳への服従原理〉――が起こる。


 π古から世界各地で巨乳族の乳脈ちちみゃくが権力を握り、貧乳族たちの支配を可能にしていたのには、こうした原理の存在があったのだ。



【参考文献】

『詳説 世π史G』(乳谷乳漏、乳山呑子、乳見照、谷川出版社)

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