第10章 Welcome Party 第1話

 告白されるのすごい久しぶりだなあ……。

 帰宅した毬子はしみじみ、先ほどの崎谷との会合を反芻していた。

 でも崎谷さんのことほとんど知らないんだよなあ……。

 とりあえず、崎谷さんには、その場では、

「崎谷さんのことをほとんど知らないんで、少し待ってくださいますか?」

 と回答をした。

 藤花亭の大将も女将も常連客も、心得ていて冷やかさない。

 崎谷は、こういう時の常套句「最初はお友達から」を言ったが、漫画家の担当編集者とその漫画家のアシスタントでは、それは難しいだろう。

 

 崎谷さんて由美の元同僚だよね。妙に仲いいの。というか、義弟の三村さんとトリオだったというよね。

 由美に聞いてみるかなあ。

 よし、まずはアポだ。木曜日はりんだのアシスタントたちと飲むから使えない。

『はい』

「あたし。あんたにちょっと聞きたいことがあるから、飲めないかな?」

『急ぐ?』

「ちょっとね」

『今度の火曜日が開いてるよ』

「場所はおてんば屋にしようか藤花亭にしようか……」

『内緒にしたい話なの?』

「それもわからない」

『なに、誰かに告白でもされた?』

 なんなんだこの女のこのカンの良さは。

「おてんば屋にしよう。6時」

『おけ』

「じゃあ火曜日よろしく。予約しとく」

 と言って電話は切れる。


「予約の七瀬です」

 と、午後6時ジャストにおてんば屋の入り口で、若い店員に言うと、

「こちらへどうぞ」

 と個室へ案内してくれた。

 15分ほど待つと、

「七瀬で予約入ってると思うんですが……」

 という声が聞こえ、由美が案内されて個室に入ってくる。

「暑いねー」

「うん」

「髪刈り上げようかと思っちゃう。ひっつめると頭痛くってさ」

 という由美は黒いショートボブの髪をひっ詰めていた。

「伸ばしたら?」

「今更ねエ……」という会話を交わしながら、毬子はグレープフルーツサワー、由美はウーロンハイといくつか料理を注文した。

 注文が住んで、店員が個室を出ていく。

「で」

 と由美が切り出す。

「あんたからここに呼び出すなんて何かあったの? エータローの話なら続報はないよ今のところ」

「……崎谷さんに告白された。お付き合いしていただけませんかって」

「あー、そゆわけね。あれ……?」

「それで、あんたが崎谷さんと仲良かったはずだから、どんなひとか聞こうと思って」

「なるほど……」

 と言って由美は少し考えて、発言し始めた。

「仲間としてはいいやつよ。でもあいつ、離婚話出てなかったかな……子供もいるよ」

「え? そうなの?」

「うん。男の子ひとり。小学校あがったかな? どっちが引き取るのかまでは聞いてないけど」

 露骨に、えらい話を聞いてしまった、という表情を毬子が浮かべたので、

「そういやあいつとどのくらい飲んでないんだっけな……漫画も忙しい部署だからね……」

 と歯切れの悪い解答に終始した。

「しかし、いくら仲いいとはいえ、妻子持ちを推せないなあ。あんたのが大事。まあでもあんたも祐介居ること言ってないんでしょ?」

「まあそうだけど、りんだがしゃべる可能性もあるし」

 不倫してる奴がよく言うよ、しかもあたしの義弟と……と思った毬子は、

「三村さんとはどうなの」

 と続けて聞いてみる。

「全く変化なし。アスカちゃんと祐介が見てたって言った時は動揺してたけど、すぐ中学生がどこ歩いてんだって茶化してた」

「そう……」

 そこに友情はあるんだろうか?

 ふとあることに気づいて、毬子は質問を変える。

「崎谷さんていくつだっけ?」

「あたしたちより4つ上。一浪してるから入社は3年違いかな」

 三村さんは二浪してたっけ……と、毬子は余計なことも頭に浮かべた。三村は由美とは同期なのだ。

「結婚って、なんなんだろうね」

「うん……」

 ここまで喋り合ったところで、料理が来始めた。唐揚げにかぶりついて幸せそうな表情を浮かべる毬子。

 この女、この表情でひとを落とすんだよな。人たらしっての?

 その日はあまり盛り上がらずに午後8時半でお開きとなった。

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