第7章 Fireworks 第1話
中学生たちが夏を満喫した翌日、毬子と信宏の姿が藤花亭にあった。プラスネクタイを締めた男性がひとり。
挨拶をして、男性は毬子に名刺を渡す。「山内和弘」と書いてある。「株式会社フォボス」とも。
毬子は、しばらく一所懸命描いてたカラーイラストを出す。
「持ち帰らせていただけますか? 上司にも見てもらって相談しますので」
「はい」
毬子は神妙だ。
「7階建てのビルの屋上に設置します。描き慣れない構図でお願いできますか?」
「それはまたどうしてです?」
「イラストを描いてる者にも珍しいくらい斬新な構図の方が人目を引くという意見なんです」
「作業場は確保できるんですか?」
などなど、質問含めた会話が飛び交った。
信宏など、口を挟む機会がない。
藤井夫妻や常連客は、心得ていて注文されたとき以外口を挟まない。
最後には全員ビールを注文した。
更に隅田川の花火前夜、毬子は崎谷と再び藤花亭に集った。先にお互い、ミックスとウーロン茶で腹を満たしてから本題に入る。
いろいろスクリーントーンも貼ってあるモノクロ絵である。
「パースの取り方習ったことあるんですか?」
「専門書は昔読んだんで、それ引っ張りだして」
「トーン貼り過ぎな気もするけど、良いですよ」
「ありがとうございます」
「構図は何処ですか?」
「うちの窓から見える風景をそのまま描いたんですお恥ずかしい……」
「木もあって建物もあるからひと目で何が得意かわかっていいですね」
「木って意外と難しいんですよね」
「ビルなら線をまっすぐ引けばいいですけどね」
「葉っぱもいろんなつき方があるし、冬は葉がないから華に欠ける上になんていうのかな、表情つけにくいというのか……」
「なるほど。上司にも話してみます。佐藤先生にはこの絵を描いていること話しましたか?」
「確か……話してないような気がします……」
この梅雨から夏にかけてはいろいろなことがあったから、希薄な記憶もあるのだ。
「じゃあコピー見せますね。あと、次は人物を描いていただけますか? いろいろ順番逆ですけど」
普通人物を先に見るのに……と照れたように崎谷は言う。頭を掻いた。
「あ、コピーで良ければ……弟の独立する会社の看板に……広告用のテスト絵なんですが」
先日までモノクロイラストと同時進行で描いてた、看板製作会社に渡したイラストのコピーを出した。
右下隅にひとの顔のどアップと指を開いた手、左隅に効果付きでバスケットボール。顔が漫画の絵と少し違う。彫りが深く描かれている。
「お、素敵ですね。構図が良いです。色もきれいだ……」
やった、と毬子は思った。
「ただ、あらためて、バストアップ1枚全身1枚、描いていただけますか? 男性と女性1枚ずつあるともっと良いんですが」
「はい、了承しました」
という毬子の声を聞いて崎谷はビールを注文した。
1か月もかからないかな。
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