第5章 Disclosure 第1話

 りんだの結婚式から一夜明けた。

「うーん、昨夜飲んだだけじゃなくて、最近藤花亭行き過ぎだな……」

 毬子は下着姿で体重計に乗っていた。

 かなり増えている。

 身長170センチの標準体重は60キロ前後だ。


 まあ、絵の上達と体重減量は両立しないと考えた方が良いでしょう。寝食忘れて描けば別かもしれないが。

 太り過ぎないように気を付けなくてはね。


 一日どれか一食、春雨にするかね。

 スーパー行って買い物だ。


「まーりちゃん」

「絢子さん」

 16時、スーパーの青果売り場にてさっそく、藤花亭の女将に会った。

「カラオケの日程決まったんよ」

「いつですか?」

 言うと絢子は7月の第2日曜日を答えた。それにプラスして、

「さっき八木さん誘ったけえね」

 何故絢子さんが頬を染める、と突っ込みたかったが、このカラオケは、藤井家4人七瀬家2人を基本に友達を呼ぶのは自由だ。香苗が中高校生だった頃は、香苗の親友の麻弥が頻繁に参加してたし、他にも一哉やみゆきがよく混ざっているので、そんなものだろう。由美や、毬子の弟・信宏、隆宏のきょうだいも混ぜたことがある(隆宏は6人きょうだいの末っ子だ。ちなみに毬子の妹・律子は毎度断っている)。藤花亭の常連の親父がいることもあって、プレスリー爺さんがそんなあだ名をつけられたのも、このカラオケ大会が原因だ。根本美容室の瑞絵や瑞絵たちの母親の琴子が居ることもあった。

「由美ちゃん呼んでよ。麻弥ちゃんは今年からハローの社員じゃけえ、多分呼べん」

 絢子の言葉は標準語と広島弁がミックスされたりする。上京して26年の割に広島弁が残っている方だ。

「あーそうですねえ。わかりました」

「ほじゃねー」

 と言って絢子は先を歩いていく。


 買い物はローカロリーなものが多かった。まあ、祐介にも無駄にならんでしょ。たんぱく質は必要だけど。だから鶏肉は買ってある。

 RRRRR

「はい」

『姉ちゃん?』

「信宏か、そろそろ電話しようと思ってたのよ。仕事辞めて絵に全力投球してる」

 弟だ。信宏に対する気持ちをそのまま述べた。

『あー、じゃ本当に話詰めようよ』

「あんたに合わせる」

『じゃあ金曜日に藤花亭で』

 金曜の藤花亭ってうるさくないか? と思わなくもないが、弟はお好み焼きが好物だから仕方ない。

「了解」

 と言って電話を切る。


 その日は一日花をデッサンしていた。

 夜、由美をカラオケに誘おうかな、と思い、家電から家電に電話をしてみる。

 出ない。携帯にもかけたけど出ない。

 仕事かな、お風呂かな?

 まあいい、また明日電話してみよう。


「今日はそろそろ……」

 明日香は机の前でのびをして、参考書を机の上の本立てにしまう。


 翌朝。七瀬家は、親子揃って7時半に起きた。

 8時過ぎ。

「そろそろ時間だよ」

「髪型決まんねえ」 

 とぼやく祐介に呆れながらも強くは言わない。

 二度寝しようかなと思ったそばから、あ、由美に電話しようと思う。

 今朝も家電で。短縮ダイヤルになっている。

 RRRRR

『はい』

 あ、男のひとだ……なんか聞き覚えがある声……

「あーっ!」

 受話器を落とした。

 今の……義弟だ。

 三村芳樹さん。

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