第489話 芹澤楓 VS 霧島茜 6

【 楓・みく 組 2日目 PM 10:20 市街地D地区 】




ーーグローリエを引き連れて楓が動く。



ーー楓から溢れる異様な気に茜は気づく。



ーー今までの経験からなのか妙に嫌な気配を茜は感じ取った。



ーーその顔からは初めて笑みが消え、目つきが少しだけ鋭いものに変わる。




「…なんか嫌な雰囲気出てるね。覚悟が決まったのかな。」



ーー楓は先ほどまでとは違う茜の視線を感じるが特に気にも留めない。楓の頭にあるのは茜の予測を上回る事だけ。それだけに全神経を集中させていた。




「うん。いいね。凄くイイよ。”これからの戦いに必要な感覚はソレだよ”。たどり着けたんだね芹澤さんは。」



ーー興奮こそしている茜ではあるが先ほどまでのように”愉しさ”を表情には出さない。



「それじゃ……始めよっか!!!」




ーー茜の言葉を号令のように2人が地を蹴る。



ーー互いのゼーゲンが交わり、紅き火花が散る。



ーーそれを契機とし、茜が得意の突きの連射を放つ。



ーーこれは先ほどまでブルドガングが受けていた速度と同じもの。とても今の楓が捌けるものではない。



ーーだが、楓の速度を補うモノはグローリエ。2基のグローリエが剣型へと変貌し、楓と共に茜の突撃を捌きどうにか戦局を維持している。



ーー茜は楓とグローリエ2基を相手にしながらもまだまだ余裕がある。その余裕により1基行方不明なグローリエを顎だけ振るように視界を巡らせ確認する。



ーーグローリエは楓と茜を撮影しているかのように上空を旋回しながら漂っている。現段階では楓の狙いはわからない。だが大まかな予測としては粒子砲でどこからか狙ってくるのであろうと茜は考えた。



ーーそしてそのグローリエで私の隙を作り、雷神による決死の一撃で私を沈めるのであろうと考えた。



ーーそこに至った瞬間茜は少し楓に失望した。その程度の考えなら今までいくらでも対峙して来た相手は持っていた。楓ならもっと自分を追い詰めるような手を持ってくると思っていた。



「……それも仕方ないか。私が震えるような相手、リリのような強者と出会えるなんてあるわけないもんね。それじゃ、”当初の予定通り”終わらせようか。」



ーー茜が突きの速力を速める。ブルドガングを相手にしていた時よりも速くなる突撃。それにより楓の顔に焦りが生まれる。



「ぐッーー!?」



ーー対照的に茜の顔は冷めたような興味が無くなったような顔になる。そして”刻を飛ばす”為の布石も打つ。



ーーこのままでは不味いと思ったのか楓が総攻撃をかけるかの如く前へ出る。烈火の如く激しい攻撃。



ーーだが茜はそれを読んでいた。そして敢えて隙を作った。



ーー楓はそれにかかる。茜が体制を僅かに崩し、刹那ともいえる隙が生まれた。



ーー待機させていたグローリエから一筋の光が茜へ落ちる。



ーータイミングはまさにドンピシャ。少しの無駄も無い完璧な一撃。茜への直撃は免れない。どれだけダメージを負ったかはわからないが無事ではいられない。少なくとも楓とブルドガングを相手にやり切れるはずは無い。あとはブルドガングの『ゼレ』を喰らわすだけ。



ーーそれだけの絶妙さを楓は演出した。



ーーだが、霧島茜という強者を相手にそれは叶わない。



ーー粒子砲の直撃を受けたのは楓とともに茜を攻め立てていた剣型グローリエの内1基だった。



ーー粒子砲を放ったテトラポット型グローリエ、粒子砲を受けた剣型グローリエの2基は魔力が尽きその姿を薄めながら消えていく。



ーー”何の代償も払わず霧島茜に隙は生まれない”。



ーー茜が前へと出る。



ーー残った剣型グローリエが茜の前に立ちはだかるが茜はそれを薙ぎ払うだけで間合いから吹き飛ばす。



ーー残るは楓のみ。ブルドガングがどこかで待機しているが、深手を負い魔力を失いつつある雷神などもはや自身の敵では無い。それに楓を沈黙させれば”全て終わり”。



ーーそう思い、楓を無力化させようと楓の手元を狙いレイピアゼーゲンを振るう。



ーーここで初めて”予測が狂う”。



ーー茜のゼーゲンに何かが刺さる。深く深く刺さる。手元を狙ったはずなのに深く深く刺さっている。




「なぜ……?」




ーー刺さるのは楓の心臓寄りの右肩。完全に貫通し、血が噴き出て、茜のレイピアゼーゲンを根元まで咥え込んでいる。



ーー楓は茜が手元を狙ったと同時に前へと出て敢えてそれを喰らった。”代償を払う為に”。




「私が出せる全てを代償にしたわ。それぐらいやらないとあなたの先を視られない。」


「だとしてもここまでやらないでしょ?心臓までそんなに離れていないよ?イかれてる。」


「ウフフ、そうね。でも…勝てればそれでいい。」



ーー茜は寒気を感じる。背後に迫るナニカに。



ーー振り返ると、雷を刀身に纏ったブルドガングが上空から落ちて来る。そして付随するように空に立ち込める雷雲から電撃が聖剣に集まり出す。



「……あははっ、アレはちょっと想定外だね。」



ーー茜が楓を蹴り飛ばしレイピアゼーゲンを引き抜く。そして迫るブルドガングへ対抗しようとするがもう間に合わない。受けるしかない。




『耐えきれるかしら?『にゅうばぁじょん』のアタシのチカラを。』



ーーブルドガングが両手で聖剣を握る。





『雷光よ、黄泉の扉を開けろーーブリッツ・ゼレ・デア・シュナイデアングリフ』




ーー雷の束が轟音をあげて聖剣に降り注ぐ。黄色とも白とも緑ともとれるような色で発光した眩い光の電撃を茜へと叩き込む。ドーンという音を立てて周囲は土煙に包まれた。



ーー凄まじい電撃により所々に放電が起きる。建物の大半は壊れ、空爆が起きたような様相を呈し、地面すらも電気が走り異様な光景を作り出している。





『はあっ…!!はあっ…!!はあっ…!!!これが『ゼレ』のチカラ…!!!身体中のチカラが全て抜けてくようね…!!!』



ーー力を使い果たしたブルドガングは片膝をついてしまう。




『あー…ダメだわコレ…限界。』




ーーブルドガングの身体が”具現”状態を解除されるかのように薄くなっていく。完全に魔力が切れたのであろう。時間が残っていてもスキル強制解除のようだ。




ーー楓がフラフラになりながらも女の子座りで片手を地面につきながらブルドガングを見ている。勝利を確信し安堵の表情を見せるが楓ももう限界だ。魔力をほぼ使い果たし、顔色も良くない。



『カエデー…!!アタシもうーー』




ーーブルドガングが楓に声をかけている途中で言葉が詰まる。その表情には驚愕ともとれるものを残して。


















「うん、今のは凄かったね。ちょっと死んじゃうかと思ったよ。」











ーー楓も晴れ始めた土煙に目をやる。恐怖に染まる表情へと変わる。




「失敗の理由はね、2つあるよ。雷神が負傷し過ぎなせいで『ゼレ』の力を半分ぐらいしか使えていない事。それと、これが最大の理由だね。芹澤さんが最初から全力でやらなかった事。」




ーー土煙が晴れた先にいたのは霧島茜だった。何より恐怖を掻き立てるのが目立った外傷が無い事。雷による焦げと土煙による汚れはあっても傷んでるような雰囲気は特にない。追加でスキルを使った様子も無い。絶望的な強さを茜は見せていた。




『まだよ…!!!アタシはまだ…!!!』


「ううん、もう終わりだよ。」


『はーー!?』




ーー聖剣を杖のようにして必死に起き上がろうとするブルドガングがの姿が消える。




「魔力切れ。どんなに気持ちを奮っても魔力が無ければ英傑は終わり。さて。」




ーー茜がくるりと背後を振り返り楓の方を向く。




ーー楓はゼーゲンにもたれるようにしてどうにか起き上がろうとするが勝利の為の道は描けないでいた。焦りと恐怖が楓の心を支配する。




































ーーピコン




























【芹澤楓に生命の危機が訪れました】





















【よってサイドスキルを解放します】




















【あなたに与えられた1番目のサイドスキルは『一刀一閃』です】

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