第488話 芹澤楓 VS 霧島茜 5

【 楓・みく 組 2日目 PM 10:15 市街地D地区 】




『おらァァァァァ!!!』



ーー聖剣を両手で持ったブルドガングが力強い一撃を茜に振り下ろす。




ーーガキィィーン




ーー激しい金属の衝撃音とともにブルドガングが纏う雷が周囲に放電する。灯りの消えた街の中で唯一その場に灯る光。美しくも感じるが凶悪な刃という反面を併せ持つ雷光は、なんとも言い難い。




「うーん、特に策があるってわけじゃないのかな?それじゃ全然つまらないよ?」


『何でアンタを楽しませなきゃなんないのよッ!!!』



ーーブルドガングが聖剣を横に薙ぎ払う。だが茜にそれは通らない。少し上半身を寝かせただけで簡単に躱す。そのまま剣先から伸びた雷光が周囲の建物を吹き飛ばす。不思議な事に建物に火がつくことはない。延焼しないのには何か理由があるのだろうか。



「でも眼が死んでないのがイイね!!うん!!イイよ!!!」



ーー茜が満面の笑みを浮かべながらブルドガングへと突きかかる。疾風の如く乱れ突くその突撃はまるでガトリングガンのようだ。その連射性、蜂の巣にされそうな威力、ともに最速かつ最強。この速度を捌けるのはブルドガングしかいない。スピードに特化した力を持つブルドガングにしか茜の超速連撃は捌けない。




「わあ…!!!すごい!!!本当にすごいよ!!!私の突きを捌ける人間がいるなんて思いもしなかった!!!」


『はァ?何上から言ってんのよ!!!』


「あ…そっか。キミは英傑…ううん、もはや神だもんね。だからこそそれが可能なのか。うん。イイ。イイよ!!!」



ーー茜のテンションが上がるとそれに比例して剣速が更に上がる。だがブルドガングも負けていない。スピードに関してはまだブルドガングにも余裕がある。真の力の解放が無くても雷神ブルドガングがヒトに速度で負ける事は無い。それに動揺したのか茜の突きの内数発が意味のわからない方角へ向かう。それは今回だけでなく先程から度々見せていた茜の隙であった。


ーーここが好機と見たブルドガングは茜の突きの1つを敢えて左腕で受け貫かれる。


ーーそれに驚いた茜の動きがコンマ数秒遅れる。


ーーそれを逃すブルドガングではない。即座に茜のレイピアゼーゲンから腕を引き抜くと、自慢の速力で茜の背後へと回る。もともと一撃もらうつもりであったブルドガングだが、ひょっとすればこれでやれるかもしれないと思った。少しの確信と期待を込めて聖剣を茜の背中に振り落そうとした時であった。度々喰らう出処のわからない突撃がブルドガングの胴へ襲い掛かる。



『うあッッーー!?』



ーー7発飛んで来た内の3発がブルドガングへと突き刺さる。大きく吹き飛ばされるブルドガングだが、予め仕込んでいたグローリエにより穴開きとなる事態は避けられた。


ーー避けられはしたが予想外の展開が起こる。ブルドガングを守ったグローリエがその姿を薄くさせ、次第にこの場から完全に消えてしまったのだ。



『グローリエ!?どうして!?』



ーー驚きを隠せないブルドガングに茜が口を開く。



「芹澤さんの魔力が尽きかけてるんだね。だから今のグローリエは私から受けたダメージを補うだけの魔力を吸収出来なかったから消えた。これじゃもう終局かなッ!!!」


『ぐうッーー!?』



ーーブルドガングは茜の突撃を防ぐが、大きく力の減少したブルドガングでは耐えられなく吹き飛ばされ、楓の脇へと転がっていく。




『ッたあ…あのクソ女…マジで痛いんだけど…!!』



ーーブルドガングがイライラを爆発させながら起き上がる。見た目こそまだまだ元気といった具合だが貫かれた左腕からは血が滴り落ちている。明らかにブルドガングの力は衰えていた。もう切り札を放てるかどうかも怪しい。放てたとしてもそれが最後の一撃となるであろう。



ーーだがブルドガングは諦めていない。だって諦めるなんて事があるわけがない。最高の相棒がいるのに。信頼できる相棒がいるのに。



ーーそんな相棒へと目を向ける。




『……で?払った代償に見合うだけの成果はあんでしょうね?アタシの左腕、グローリエ1基、相当な代償よ。』



ーーブルドガングが楓に問う。



ーー楓は茜の動きをずっと見ていた。



ーー楓は茜の動きをずっと予測していた。



ーー持ち前の頭脳をフルに使って。



ーーそして、たどり着いた。





「ええ。それに見合うだけのモノはあるわ。あの女の力は”動きを未来へ送る”能力よ。」



ーーブルドガングが口元を緩ませ楓を見る。



『さっすがアタシのパートナー。でもイマイチわかんないんだけど何なのそれ?』



「霧島茜の不可解な空振りで気づいたのよ。アレは”未来に攻撃を送っている”んだって。ブルドガングの動きを予測して、そこにいるだろう予測の中で予め送っていた攻撃をブチ当てる。防御も同じよ。序盤でグローリエと霧島茜の立ち位置が入れ替わったわよね?アレもグローリエの動きを予測して未来に攻撃を送って動かしたのよ。」



『なるほど。でも、結局は何の解決にもなってないわよ。あの女は正確に未来を予測している。それを破れないからアタシらはこうなってんじゃない。』


「そうでもないわよ。」


『え?』


「霧島茜が未来へ送った攻撃はかなり空振りしている。およそ半分くらいしか当たらない。それに送れる未来にも制限がある。3秒先の未来にしか送れない。それなら私たちは4秒先の未来を予測し、攻撃をアテればいいだけでしょ。」



ーー楓がいつものように自信に満ち溢れた顔でブルドガングを見る。その視線にブルドガングは深くため息をついた。



『……簡単に言ってくれるわよね。』



「あなただから言うのよ。私の最高のパートナーなんだから。」




ーーブルドガングがもう一度楓を見る。



ーー深く、深く深呼吸をして立ち上がる。




『これがファイナルフェイズよ。』



「ええ。あなたは『ゼレ』を撃つ事だけに全てを。その道は私が作る。」




ーー楓が残る3基のグローリエを集結させゼーゲンを握り締める。




「行くわよ。このフェイズに全てをかける。」

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