第483話 綿谷みく VS 中之島涼子 2
【 楓・みく 組 2日目 PM 10:00 市街地D地区 】
ーー綿谷みくと中之島涼子がガチの殴り合いを始めている。始めてから数分が経過するが互いに決定打はまだ無い。格闘試合ならラウンドとラウンドの間にインターバルがあるが、ここにはそんなものはない。どちらかが力尽きるまでひたすらに戦いは続けられる。
「らあッッーー!!」
ーーみくが虚をつく右上段回し蹴りを放つ。ゼーゲンによる身体能力の大幅上昇による回し蹴り。もはやそれは人間が繰り出せる速度を遥かに超えている。当然ながら威力も。常人ならその蹴りを受けるだけで肉体がバラバラになるであろう。それはもう文字通り怪物といってもいいぐらいの存在だ。そんな銃火器に勝るとも劣らない回し蹴りが中之島へと迫る。
ーーだがそのみくの回し蹴りを涼しい顔で中之島は腕で受ける。ズドンという重量感のある音が響き、中之島の身体を揺らすがダメージには繋がっていない。
「体を崩してもいない相手にそんな大技当たるわけないだろう。素人には当たるだろうけどなッッーー!!」
ーー中之島がみくの蹴りを受けたまま即座にしゃがみ込んで足払いをかける。片足を上げたままの体制では回避する事が出来ず、みくは倒される。だが寸前、空いている両の手を器用に使い、アクロバティックのように華麗に舞って後退する。地べたに伏す事態を辛くもみくは逃れた。
「あっぶなっ…!!もう少しで転がるトコやった…!!大技は狙ったらあかんなこれ。」
ーーみくが額から滲み出た汗を指で軽く拭う。軽く息を吸い込み、また空手の構えとり攻撃に備える。
「まだまだだね、綿谷みく。筋がイイのは認めるけど、まだまだ実戦経験が足りなすぎ。行儀のイイスポーツなんてやってるようじゃアンタ…死ぬよ?」
「ご忠告あんがと。でもウチは死なへん。ウチの命はウチのモンやない。タロチャンのモンや。許可無く勝手に死ぬ事なんて出来へんわ。」
「たろちゃん?ああ…アンタらのリーダーの田辺慎太郎の事か。噂に聞く限りじゃ随分と甘い男らしいじゃないか。」
「甘いんやなくて優しいんや!!甘いのはマスクだけやで!!」
「忠告してやろう。あまり過度に田辺を信用する事はしない方がいいぞ。」
「はぁ?」
ーーみくが可愛い顔を歪めながら不快感を露わにする。
「芹澤たちならわからなくもないが、お前はあくまで奴隷だろう?今回のイベントではクラン預かりのプレイヤーも生き残り条件とされてはいるが基本的にそのような事はあまりない。奴隷の役目はあくまでもクランメンバーの慰みモノか駒に過ぎない。お前も所詮は田辺たちの駒なのだよ。」
「そんなわけないやろ。タロチャンや楓チャンたちがそんな風に思っとるわけがない。」
「否定したい気持ちはわかる。だが私はそんなクランを数多く見てきた。プレイヤーとして、リッターとして、数多のプレイヤーたちを見てきたが、奴隷の末路は例外無く悲惨なものであった。考えてみろ、仮に田辺がお前の言う通りの男だったとしよう。そしてお前と芹澤が同時に命の危機に瀕していた時、果たしてどちらを優先して助かると思う?」
ーー中之島の言葉がみくの胸に刺さる。なんともいえない嫌な気持ちがみくの心を支配し、言葉が出ない。
「それは……」
ーー決して慎太郎を信用していない訳ではない。みくは心から慎太郎を慕い、愛している。それに嘘偽りなどはカケラも無い。だが、中之島の言う仮の状況を想像した時に嫌な答えを出してしまった。それは自分の今の身分、立場、実力、などなどを考慮した結果として想像してしまった。
「それにな、俗に言う”優しい”連中はそもそも奴隷など持たない。最後まで勝ち上がりし”ヴェヒター”の面々も奴隷を巧みに使い勝ち上がったのさ。先鋒の駒としてな。」
「……。」
「まあ、ツヴァイだけは奴隷を一度も持たずにクリアしたらしいがそれはまた別の話だ。奴隷を残してクリアしたモノなど誰1人いないというのが問題なのだ。」
ーー中之島は決して嘘を言ってはいない。過去の歴史を紐解いてみても俺'sヒストリーにおける支配下プレイヤーの扱いは酷いものであった。それは現在でも同じ。慎太郎だけが特別なのである。そして楓たちとみくを天秤にかけた時、それがどうなるかはまさにわからない。その状況に置かれた時にのみわかる答えなのである。
「そんな事はどうでもいい事か。別に私が当事者ではないんだし。それに、アンタはここで終わり。私に負けてアンタらの夢は潰える。考えるだけ無駄な話だったわね。」
「……ウチは負けへん!!負けられへん!!」
余計な事考えんな!!そないな事考えたってしゃあないやん!!今は目の前の敵に集中や!!
それに……別にそういう風に扱われたってええやん。それでタロチャンたちが生き残れるんならウチは本望や。
ーーそう思い、なんとか自分の心と折り合いをつけようとするみく。だが明らかな動揺は隠せない。先程までの集中力がみくからは感じられない。
ーーそれを自分より格上の相手との死闘の中で行なってしまうのは愚としか言えない。
「お前、集中しろよ。」
「ーーッッ!?しまっーー!?」
ーー中之島が簡単にみくの懐へと入り、隙だらけの腹へとミドルキックが振り抜かれる。
「ーーがあッッ!?」
ーー防御が間に合わないみくはモロにそれを受け、凄まじい勢いで建物へと吹き飛ばされる。二軒、三軒と突き破り、やっとみくの身体が衝撃から解放される。瓦礫に埋もれるみくの身体は動く事なく沈黙した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます