第471話 Another 6

フロア…ううん、建物全体に結界が張られた。スキルは…うん、使えないね。『神具』は使えるだろうけど”特装”はダメだろう。魔法を封じられた感じはしないからそこは問題無い。



「ククク、どうです?お分かりになりますか?杏奈、キミたちの力は制限された。もう万に一つも勝ち目はありません。」



……このおっさんの名前なんだっけ?忘れちゃった。ま、いいや。おっさんが勝ち誇った顔で私を見ている。うん、気持ち悪い。私をどうこう出来ると思ってるって感じだね。



「まだやってもいないのに勝利を確信するなんて浅はかじゃないかな?」


「浅はかではありませんよ。普通にやっても俺とキミたちでは差がありすぎます。俺はブルクグラーフの爵位を持っているのですよ?あ、杏奈は爵位については知らないですよね。」


「知ってるよ。12の階級に分けられた俺'sヒストリー戦功者に与えられる”貴族”の分類。その中でブルクグラーフは下級貴族の最上位でしょ?」



私が下級貴族の所を強調して言ったせいかおっさんがイラっとしたような表情を見せる。この手の異常者はプライド高いのが鉄板だもんね。



「…そういう言い方は感心しませんね。俺はね、”ヴェヒター”のリッターではありません。そして、”選別ノ刻”中盤で死んだにも関わらずこの爵位を与えられた。これがどういう事かわかりますか?」


「さあ?」


「大物を倒したからですよ。俺はツヴァイが勝利した回での参加でした。その時に倒したんです。”3代目剣聖”の称号を与えられし、リリ・ジェラードをね。おっと、そんな事言われても知りませんよね。度々すみません。」


「知ってるよ。有名だもんね。へぇ、とてもリリ・ジェラードを倒せそうには見えないけど。」


「倒しましたよ。無傷でね。」



おっさんがドヤ顔で語っている。でもあのリリを倒せるなんて不可能じゃないかな?アインスから『騎士戦』のログ見せてもらったけどリリ・ジェラードの強さは群を抜いていた。剣だけの力ならサーシャ・オルデンブルクすら凌駕する程だ。そんな女をこのおっさんが倒せるとは到底思えない。



「どうやって?」


「ククク、時間稼ぎをしているのですか?まあいいでしょう。教えてあげます。今でこそツヴァイは絶大な力を持っていますが、”あの時”はそうではなかった。取るに足らないただの”子供”。それなのにリリやサーシャ、葵といった実力者は彼女を守って戦っていた。そんな甘い連中を倒すのは簡単です。ツヴァイを人質にすればいいんです!!」



おっさんがダンスを踊るように身体を動かしながら楽しそうに語る。



「弱いツヴァイを捕まえるのは簡単でした。顔を二、三発殴ってすぐに大人しくなりましたよ。でね、惜しかったんです。あと数秒早くツヴァイの元にたどり着いていれば人質にならなかったのに。遅れて来たのがリリなんです。あの時は最高だったなぁ。すぐにゼーゲンを手放してくれてあとは殴り放題の刺し放題でした。ほら、リリって杏奈に負けないぐらい美人でしょう?もう興奮しまくりでした。でもね、俺も油断してたんです。そろそろ犯して愉しもうとリリの服を剥こうとした時に鬼の形相で来たサーシャに首を刎ねられて死んでしまいました。うっかりツヴァイを離してしまってたんですよ。片手が塞がってればヤリにくいでしょ?それにロリコン属性は俺にはないから邪魔だったんです。それが仇になったなぁ…最初にリリを犯しておけばよかった。あー、勿体無い。」


「つまりが腐れ外道って事だね。実力ではなく卑怯なマネして勝って来ただけのクズ。それだけじゃん。」


「おや?杏奈でもそんな顔をするんですね?怒る顔も素敵ですが貴女には似合いませんよ?」



別に私はリリとかツヴァイと何の関係もないし、むしろ”最後に倒すべき相手”なんだからどうでもいいんだけど…ムカつく。この男はムカつく。女をナメてるコイツはムカつく。



「それに卑怯などと言って欲しくありませんね。知略と言って下さい。」


「……。」


「無視はいけないですよ。これから貴女の主人になる相手に向かって。」


「……。」


「どうです?貴女が大人しく俺に平伏すなら妻にしてあげますよ?痛い事もなるべくしません。殺したりは絶対しない。千切ったり毟ったりも。俺の子を産んで欲しいですからね。」


「お断り。私は性格悪い男は大っキライだから。」


「貴女に拒否権はありません。俺の子を孕ませてあげますよ。」



血管切れそうなぐらい頭が沸騰してるのわかる。こんなにムカついた事ってあったっけってぐらい。



「アンナさん。」


「幻夜は周り警戒してて。伏兵いるかもしれないし、何か仕掛けてあるかもしれないから。ま、私にそんな手通用しないしそんな時間も与えないけど。」


「わかりました。スキルを封じられた私ではあの男に歯が立ちません。すみませんが宜しくお願い致します。」


「了解。すぐ終わらせるから。リッターがみんな”結界”スキル使えるんなら美穂が危ない。凱亜は”アレ”があるから中級貴族以上が来なければ問題ないだろうけど。」


「そうですね。アンナさん、冷静に。」



幻夜はそう言って私から距離を取る。幻夜には言葉を出さなくても私の胸の内がわかっちゃうんだね。ありがとう、おかげで少し冷静になれた。




「俺の聞き間違いですかね。すぐに終わるとかなんとか言ってましたが。」



おっさんが半笑いで私を見ている。ナメ腐ってくれてるね。でも、それが私とアンタの差だってわかってるのかな。



「うん、言ったよ。それじゃ始めよっか。」



私はラウムから剣を取り出す。それを見たおっさんは笑いを堪えられなくなったのか手で口を抑える。



「ククク!杏奈!そんなロングソードで何をするんです!?せめてそちらの男に頼ったらどうですか!?」



また芝居掛かった口調と動きをしている。もう流石に飽きたよそれ。


私は剣を変換する。『神具グライヒハイト』へ。


黄金に輝くエフェクトを纏い、グライヒハイトが目覚める。その強大な力により周囲にある物が吹き飛び、地面が圧により陥没する。決して私の体重が重いわけではない。



「な…なんですか…それは…!?」



おっさんが初めて焦りとも戸惑いともとれる表情へと変化する。



「アンタにやられた女の人たちの恨み、私が晴らすよ。このグライヒハイトで。」

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