第463話 不安
「あまり調子に乗るなよ剣聖バルムンク。貴様は”他の英傑とは少し違う”らしいが所詮は2段階解放しかされていない身。真の力には程遠い。その程度で俺のスキルを防ぎきれるとは到底思えない。俺を侮った事を死ぬ程公開させてやる。」
ーーユウチェンの纏う金色のエフェクトが更に輝きを強めると、周囲にある物が動き始める。金属製のベンチや銅像、植木鉢や台車、果てにはレンガや石ころまでもが浮遊する。
「これが俺の時空系アルティメット、メインスキル《念動》だ。空間内にある物なら全て動かす事が出来る。」
超能力的な感じだな。確かにいろんな物がぶん投げられたら厄介だとは思うけどそんなに強力な能力か?葵の奴が使ってたスキルの超絶下位互換みたいな能力じゃね?時空系のハズレスキルって感じしかしないんだけど。
「それにこれだけじゃない。俺には”サイドスキル”がある。俺の《転移》の力をその身でとくと味わうがいい。」
話が終わると同時にユウチェンがその場から消えた。そして次の瞬間、ユウチェンはバルムンクの左側に姿を現わす。
ユウチェンはすでにゼーゲンを振りかぶっている。上段からゼーゲンを振り下ろし、無防備なバルムンクの頭を打ち抜こうとする。通常ならそのままゼーゲンが下され、頭を裂かれて血が噴き出る様が想像出来るが、バルムンクは手にする魔剣で軽く払いユウチェンの初太刀を捌く。
「ぐっ…!?」
バルムンクの剣が重いのか、捌かれたユウチェンの身体が大きくその場から弾かれる。ゼーゲンを離さない姿勢は素晴らしいが体は完全に崩され隙だらけだ。それをバルムンクが逃してくれる訳がない。
『終わりだ。』
バルムンクが魔剣を横に振る。払うような軽い剣だが、防御に回したゼーゲンを真っ二つにし、背中の薄皮一枚だけを残してユウチェンをも斬られる。
瞬殺
その一言しか感想はない。あっという間にバルムンクが戦いを終わらし魔剣を鞘へと収めた。
「あが…が…」
瀕死のユウチェンが虚ろな目をしながらもがいている。助からないのは明らかだ。もって数分だろう。てかバルムンクさん強すぎじゃね?こんな強かったっけ?こう言っちゃアレだけどノートゥングとブルドガングに比べたら数段劣ってるイメージがあったんだよね。いや、あれだよ?もちろん俺に”憑依”してんだから俺が弱々だってのは大前提だよ?楓さんと美波に俺が追いついてないからなのは重々承知してる。でもそれを差っ引いても差があると思ってたんだよ。だけど今のバルムンクを見る限りクラウソラスと遜色ないような気がすんだよね。それかバルムンクのが強いような気もする。”具現”だとめっちゃ強いのか?なんか色々と気になるトコあんだよね。発動させてないのに出て来るトコとかさ。いや、ノートゥングの奴も出てるけどバルムンクは”具現”しての戦闘モードで出て来てるでしょ?それに魔法陣ナシだよ?おかしくない?オーラも金じゃなくて紫だよ?挙げ句の果てにはあの剣だよ。何あれ?邪悪の塊じゃない?正義のセの字もないんだけど。俺の嫁が闇堕ちしてもうたんやけど。
ーーお前そのセリフ口に出すなよ。牡丹ちゃん絶対キレるからな。
これは本人に聞くわけにはいかないよなぁ。後でノートゥングにでも聞いてみるしかないかな。
なんて事を考えてるとバルムンクさんが死にかけのユウチェンに近づいていく。
『貴様等はこのエリアに何人いる?我らは何処へ向かえばいい?答えろ。』
「……クク。これが……剣聖の…チカラ…か……。俺程度では……勝負にすら…ならないとはな……。」
『御託はいい。我の質問に答えろ。』
なんかバルムンクさん激しくない?あんな性格だったっけ?もっと温厚だったような気すんだけど。
ーーノートゥングの姉なんだからこんなもんじゃない?
「……このエリアには…リッターオルデンが…2部隊…送られて…いる…全部で…10人…だ…。クク…ク…俺を倒したぐらいで…良い気に…なるな…。隊長格…の…強さは…貴様らでは絶対…勝てん…特に…俺たちの…リーダーである…セイエン…は…侯爵…フュルストの爵位を与えられし…強者だ…。」
『それがどうした?爵位で実力が決まる訳ではあるまい。』
「爵位を…貴様らが知っている…貴族の階級制度…だと思うな…オルガニより与えられし爵位は…”過去の俺'sヒストリー”での…戦功で決まる…大公…公爵…に次ぐ…3番目の階級である侯爵を授けられる程の…実力だ…精々…セイエンに出会わない事を祈るんだ…な…」
ーーユウチェンは事切れる。
コイツらの爵位ってのはドイツ語だろ。そんならそれをベースに考えるなら俺とコイツの階級は上から12番目。末端だ。そんでそのセイエンだかなんだかって奴は上から3番目の侯爵。確かリリはラントグラーフって呼ばれてたから方伯爵、上から5番目なはずだ。
……ダメじゃん!?リリより強い訳ソイツ!?死ぬじゃん!?俺ら皆殺しにされるよね!?
「ちょっとバルムンクさん。お疲れでスーパー強かったのは大感謝です。ありがとう。俺のパートナーは最高です。」
『ふむ、主にそう言われると誉れ高いな。』
「そんで感謝も適当になって申し訳んだけど早急にみんなと合流してゴールしよっか。ソイツの言う事がハッタリじゃなかったら万が一勝てるとしても全員集合しなきゃ絶対無理だし、他のメンバーで楓さん以外の子が出くわしたら絶対死ぬから。」
『ハッタリでは無いだろう。どうにも嫌な氣を感じる。その為この男に対し強い感情を出してしまった。』
それあかんやつですやん。バルムンクさんが余裕なくなるぐらい焦ってるって事ですやん。早く動かなあかんでほんまに。
ーーだからなんでエセ関西弁なの?
『我も妹の事が心配でな。強さは理解しているのだがなんせ我らは”枷”付きだ。真の力が無ければ遅れをとってしまう。それだとどうしても心配になるのだよ。』
「うん?妹?ごめん、なんか話噛み合ってなくない?言い方悪いけど今はバルムンクの妹さんの心配の話じゃないよ?」
『ああ、まだ主は知らんのだったな。ノートゥングは我の妹だ。』
「あ、そうなの?それならここにいる仲間の話だから噛み合ってたね。ごめんごめん。そっか、ノートゥングってバルムンクの妹なんだ。えっ!?なんだって!?ノートゥングってバルムンクの妹なの!?」
『左様。』
「えっ!?冗談じゃなくて言ってんの!?」
『うむ。』
「いや…顔と声は似てるとは思ってたけど…ええぇぇっ…マジかよ…いや、突っ込みは色々あるけど今はそんな時間ないや。とりあえずはこの話は後にしよう。牡丹回収してみんなと合流急ごうぜ。」
『そうだな。極力戦いは避けよう。今の我等では分が悪い。だが他の連中にこの話を教えられんのは良く無い。伝えられれば目立たぬようにしろと指示が出来るのだが…』
「一応みんなの状況知ったり、この話をみんなに教える術があるんだよ。」
『ほう、流石だなシンタロウ。』
「説明は後からする。まずは牡丹回収だ。行くぜ。」
ーー今までとは明らかにランクの高いイベント。このイベントを慎太郎たちは生き残る事が出来るのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます