第459話 卓球対決決着
ーー全ての流れが慎太郎へ向くかと思われたが、牡丹による強烈なリターンにより勝敗はわからなくなった。
ーー牡丹の行動は皆の想定外だったのだろう、楓たちは驚いて言葉が出ない。自分たちが1ミリも対応出来なかった変化球、それを遥かに超えるようなカーブドライブを初見で弾き返した事もそうだが牡丹が慎太郎に楯突くのも信じられなかった。八百長とまでは言わないが牡丹はなんだかんだで慎太郎に手心を加えると思っていた。それが超本気の状態になるとはあまりにも想定外過ぎた。
ーーそれは美波も同じであった。何より慎太郎のカーブドライブを拾えるどころか完璧に捉えてリターンを決めるなど想像もしていなかった。これが島村牡丹なのか、と、美波は嬉しくも頼もしくもあり、より一層闘志がみなぎるのだった。
「これで2対1です。」
ーー牡丹が美波とは違いドヤる事なく淡々と述べる。
「牡丹ちゃんっ!!」
ーーぶりっ子がぶりっ子しながら手を挙げて牡丹にハイタッチを求める。それを理解し牡丹もハイタッチに応じる。チームワークは抜群だ。
「タロウさん、あなたに楯突くような真似をしてしまい申し訳ございません。ですが、手を抜いて戦う事などあなたに対する不敬極まり無い事だと思い、私の全力をもって戦わせて頂く事としました。もしも御怒りでしたら試合後にどのような処罰も受ける覚悟は出来ております。どうかこの一時だけは御許し下さい。」
ーー牡丹が慎太郎に頭を下げる。だが慎太郎はそんな事を怒る筈はない。口元を緩ませ、楽しそうな顔を浮かべ始める。
「頭上げなよ。そんな事で怒るわけないだろ。つーか手を抜いてる方が怒るから。そんな事より俺は牡丹の強さにワクワクしてるよ。堪らねえ…堪らねえぜ!!!」
ーーこの運動馬鹿は相手が強ければ強いほど燃えるからね。剣道以外は。
「ふふふ。タロウさんならそう仰ると思っておりました。」
「牡丹、手なんか抜くなよ?全力を超えてでも向かって来い。」
「わかりました。私の出来る事以上の力をもってあなたのお相手をさせて頂きます。」
ーー慎太郎と牡丹が微笑み合う。そんな微笑ましい光景だが嫉妬に狂うみっともない雌どもが殺気のこもった目で睨んでいた。
「私たちのサーブだねっ。どうする?牡丹ちゃんがやる?」
ーー美波が小声で牡丹に話しかける。
「サーブは美波さんにお任せ致します。私は後衛として美波さんが取れないボールを拾う事に徹します。」
「わかった。後ろは頼んだよっ。」
ーー作戦を立て終わった2人はポジションへと着く。美波は息を軽く吸った後、ボールを軽く振り上げサーブを放つ。変化球だ。キレのある変化球ではあるが慎太郎にとっては特にどうといったものでもない。強烈とまでは言わないが厳しいリターンを浴びせて来る慎太郎。それでも美波はそれを返す。だが慎太郎はそれを読んでいた。飛んで来るであろうコースの先に慎太郎がカーブドライブの構えを取り力をタメている。美波はそれに気づく。気づくが対応策が浮かばない。
ーー慎太郎によるカーブドライブが放たれる。美波は即座に手を出すがラケットに当てられない。無情にもラケットの先3cmをすり抜けていく。美波は慎太郎にポイントを取られたと思った…が、
ーースパァーーン
「ぐっ…!?」
ーー牡丹が慎太郎と全く同じ構えで来たボールをカーブドライブで返す。油断していた慎太郎は対応が遅れ牡丹のドライブを返せない。スコアは2対2の五分へと戻した。
「牡丹ちゃんっ!!さっすがぁ!!」
「ふふふ。」
ーー2人が再度ハイタッチを交わす。
「でもすごいねっ!!牡丹ちゃん、もしかして経験者?」
「いえ、体育の授業でしかやったことはありません。」
「それなのにあんなドライブ打てるの…?」
「タロウさんがやっていたようにやっただけです。タロウさんの動きは全て頭の中に記憶しております。その通りにやれば自然と出来たというだけです。目を閉じれば浮かんで来ます。タロウさんの凛々しいお姿…男性のお姿でも女性のお姿でも何も変わりません。」
「あはは…」
ーー安定のヤンデレクイーンっぷりである。
「フッ…ここまでやるとはな…牡丹は俺の想像を遥かに超えているようだ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ俺もそろそろ本気を出させてもらう。女の子相手に本気になるのは大人気ないとは思ったが、今の俺の筋力とかじゃそうも言ってられないからな。悪いけどマジでいかせてもらうぜ。」
「イイですよっ!!」
「望むところです。」
ーー慎太郎が着ているジャージの上着を脱ぎタンクトップになる。女サイズのを昨日買ったので状態は万全。ぴっちりしたサイズだから小ぶりな胸が強調されてややセクシー。それを楓はガン見していた。
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ーー慎太郎対美波、牡丹ペアの戦いは終盤へと差し掛かる。スコアは9対9。両チームともにマッチポイントだ。3人ともに息が上がっている。激しい攻防により体力は底をつきかけているのだ。そしてサーブは美波、牡丹組。慎太郎が美波のサーブを返せるかどうかが勝負の分かれ目となる。
「はあ…はあ…そろそろ決着の時が来たようだな…」
ーー慎太郎が疲労の滲み出ている顔で口を開く。だが疲れこそ出ているが慎太郎はとても楽しそうな笑みを浮かべている。
「はあっ…はあっ…ふふっ…そうですねっ…」
ーー美波が慎太郎に答える。同じく美波も疲労が見えるが楽しそうな笑みを浮かべている。
「はあ…はあ…ふふふ…終わりが来てしまうのが残念です…」
ーー牡丹も同様だ。疲労はあるが楽しそうな顔を見せている。
「こんな楽しい卓球は初めてだったよ。さて…ケリ、つけようか。」
ーー空気が引き締まる。勝負の終わりが来たようだ。
ーー美波が目を瞑り、想いを込めるようにボールを握る。大きく1回深呼吸をした後、目を見開き、決意を込めたサーブを放つ。最後も変化球。それも今日一番のキレを持つ最高のサーブだ。
ーーだが慎太郎は美波の最高のサーブを強烈なリターンで返す。このリターンも今日一番のキレがある。慎太郎の集中力もここへ来て更に高まっている。
ーー美波はそんな慎太郎のリターンを返す。ギリギリのところで返す。軽い変化までかけて。
ーー揺れながら動くボール。それが迫って来るが慎太郎は読んでいた。美波なら返してくると。だからこそタメていた。全力のドライブを決める為に。
ーー慎太郎渾身のドライブが美波たちに迫る。美波は返せない。逆を突かれた事によって反応は出来ても身体が動かない。シングルなら負けていた。だが、これはシングル対ダブルスの変則マッチ。美波には相棒がいる。
ーー牡丹は待っていた。慎太郎のそれを待っていた。必ず最後はドライブで決めて来ると。だからこそ力をタメ、その一球だけを待っていた。
ーー牡丹のドライブ返しが炸裂する。
ーー返される事を一応は想定して備えていた慎太郎だが回り込んだ逆を牡丹に突かれている。それでも慎太郎は必死に喰らいつく。だがリーチが足りない。男の慎太郎ならボールに届いた。あと数センチ、慎太郎に背があれば勝敗は違っていた。
ーー慎太郎が負けた瞬間である。
「牡丹ちゃんっ!!」
「美波さん!!」
ーー2人が抱き合う。
ーーそれを見る慎太郎の顔は晴れやかだった。
「ナイスプレイ、牡丹、美波。」
ーー慎太郎が両手を差し出し握手を求める。美波と牡丹は笑顔で慎太郎の手を取る。
「ナイスプレイですっ!」
「ありがとうございました。」
「やられたよ。まさか最後にあんな強烈なドライブが返って来るとはな。見事だったよ牡丹。」
「ふふふ、あなたに褒められて私は幸せです。」
「美波も流石だったよ。最後のプレイで美波が死角になって牡丹の位置を見せないようにしてただろ?アレが無ければ多分返せてたからな。」
「ふふっ、最後の最後までずっととっておいたんですっ!」
ーーうん、とっても爽やかな光景だね。後ろで卓球練習してる浅ましい4人組さえ見なければ。
「また機会があったらやろうぜ。今度は負けないからな。」
「ふふふ、次も負けません。」
「ぜひヤリましょうっ!」
ーー慎太郎は満足してるけどさ、この2人も腹の中は慎太郎に何でも言う事聞かせられるチケット手に入れたから何をしてもらおうかもう考えてるからね?頭の中それしか考えてないよ?
「じゃ、再試合始めようか。俺が負けたから変化球封印だけど。」
「大丈夫ですっ!どんな条件でも負けませんっ!!」
「その通りです。蹴散らしましょう。」
ーーこうして再試合が始まったが結局美波、牡丹組を破る事は出来ず、ただ単に副賞として『慎太郎に何でも言う事聞いてもらえる券』を与えるだけに終わってしまった。
ーーそして試合が終わった時にはもう午後1時。青森2日目は結局弘前城にしか行けない慎太郎であった。
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