第434話 雷
【 楓・牡丹 組 埠頭(夜) 】
『ーー雷帝の裁きよ、ブリッツ・ヴィルベルヴィント!!』
『ーー雷神の裁きだ、ブリッツ・ゼレ・シュタルカー・ヴィント』
ーー両者の奥義がしのぎを削る。互いの中心で電撃がけたたましい音を上げさく裂する。見方によっては花火のような美しさに感じてしまうかもしれないが、当事者たちにはそんな呑気な事は言っていられない。特にブルドガングにとっては。
彼女は全力で奥義を放っているがウコンバサラはそうではない。余力を十分に残した舐めきった力の奥義。それでもブルドガングの奥義は次第に押し込まれ、飲み込まれ、消えていく。そして残ったウコンバサラの奥義がブルドガングへと襲いかかる。
だがそれはブルドガングの予想通り。彼女としては悔しくて堪らないのだが自分のブリッツ・ヴィルベルヴィントでは勝てない事はわかっていた。迫る雷の嵐だがブルドガングは防御しようとしない。必要ないからだ。なぜなら防御の役目は他にいる。
ーーバチチチチチチィ
ーー鼓膜が破れそうなぐらいの大きな音を上げながら電撃が四散する。グローリエ1基が展開させる半透明の盾がブルドガングを守護する。
『この程度の力では破れぬか。雌、なかなかの魔力だ。』
ーーやや後方へ顔を傾け、視線を通す先に楓がいる。
「それはどうも。」
ーーブルドガングとウコンバサラがやり合っている間に楓は後ろへ回り込み挟み撃ちを狙っていた。だがウコンバサラはそれを読み、何も焦る事無く楓の攻撃を捌こうとする。
『貴様如きにここまで速度が出せるとは思っていなかったぞ。だが悲しいかな、その程度の速度では雷神にとって止まっているようにしか感じぬ。』
ーーウコンバサラが聖斧を振り上げ、楓ごと叩き斬ろうとした時、楓の背後から何かが現れる事に気付く。剣状に変化したグローリエだ。それが刃を突き立てそのまま突き殺そうとせんばかりに向かって来る。
『チイッ…!!』
ーー完全に虚をつかれたウコンバサラは楓への攻撃を止め、グローリエの対応へと回る。初太刀は防いだウコンバサラ、そのままグローリエを破壊しようと聖斧を持つ手に力を込めるが、
「こっちの攻撃、忘れてんじゃないかしら?」
ーー楓がすかさずグローリエのフォローへ回る。ゼーゲンと《爆破の種》による身体能力大幅向上された楓の攻撃をいくらなんでも無視出来ないウコンバサラはグローリエへの攻撃を止めざるを得ない。楓の剣とグローリエの剣、両方を捌きながら隙を伺う。当然攻撃能力に大きな差がある両者、数度切り返すだけで楓の命を狩りとる事などウコンバサラにとっては容易い。それに呑気に相手をしていれば次はブルドガングまで加わる。即殺だ。そう思い、聖斧を握る力を強めようとした時、
『グアッ…!?』
ーー別角度からグローリエによる粒子砲が一閃炸裂する。不意を突かれた事によりまともに喰らったウコンバサラ。楓たちの攻撃が初めて通った瞬間だった。
「ウフフ、神様は数の計算も出来ないのかしら?ブルドガングを回復していた子が空いてるでしょ。」
ーー小馬鹿にしたような口調で楓が煽る。完全に楓のペース。全て計算通り。ウコンバサラは顔を赤くして怒りを露わにする。
『図に乗るなクソ雌がァ!!!』
ーーウコンバサラの放つオーラがより強大なものに変わる。禍々しい程に凶悪なオーラを纏い、そこに雷の束が集結する。
『唸れ神の雷ーーブリッツ・ゼレ・ドンナー・シュラーク!!!』
ーー四方八方から雷の雨が降り注ぐ。逃げ場などどこにもない。これを受けきる以外に他はない。楓は瞬時にグローリエを動かし、それぞれに2基ずつシールドを張らせる。楓とブルドガングの防御に4基全てを惜しげも無く使う。楓の直感がそうさせたのだろう。現に楓の魔力を最大限に使ってどうにかウコンバサラの奥義を堪えている。
『ほう、俺の”現段階”で放てる最大の奥義を堪えるか。フッ、俺の技の性質を瞬時に見極めた事は褒めてやる。だが…もう貴様に魔力はあまり残っていないだろう?貴様の戦闘能力、頭脳、潜在能力、それらの高さは認めてやる。それでも貴様には経験や戦闘感といったものが足りない。そして”神具”の扱い方に関してもな。大方、手に入れたばかりで今回がその試運転といった所だろう。』
ーーウコンバサラが先程とは打って変わって上機嫌になりながら楓に言葉をかける。もう勝った気になっているのだろう。
『ブリッツ・ゼレ・ドンナー・シュラークを耐えたとして、もう一撃は耐えられまい。諦めろ。』
ーー口元を緩ませながら上機嫌にしゃべるウコンバサラ。だが楓は変わる事無い勝ち気な表情でウコンバサラを煽る。
「ペラペラとよくしゃべるなんて随分とご機嫌じゃない。まさかもう勝ったつもりでいるのかしら。」
ーー楓が挑戦的な目つきで薄ら笑いを浮かべる。それが気に入らないのだろう、ウコンバサラはまた怒りの形相に変わっていく。
『…馬鹿女が。今の現状すら理解できないとはな。』
「それはあなたでしょ。」
『もういい、しゃべるな。』
「ウフフ、イ♪ヤ♪」
ーー顔を真っ赤にさせたウコンバサラが二撃目のタメに入る。まだ一撃目のブリッツ・ゼレ・ドンナー・シュラークが発動しているにも関わらず次のタメに入るという事はその奥義を放つには条件があるのだろう。当然楓はそれを見逃さない。
(ブルドガング、わかる?)
ーー楓はブルドガングの心に語りかける。
(わかるわよ。)
ーーブルドガングは楓に答える。
(アイツの言う通り私に力はあんまり残ってないわ。次の攻撃が最後。総攻撃をかけるわ。)
(オッケー!!)
(で、あなたは”現段階”の最大奥義をまだ使ってないのよね?)
ーー楓の問いかけにブルドガングが一瞬黙り込む。
(…相変わらず怖いぐらい鋭いわね。確かにまだアタシの最大奥義は使ってない。この前カエデがゼーゲン手に入れた後に”忘れていた”奥義を思い出したから。でも、この奥義はタメが必要だからアイツが時間と隙をくれないと使えないし、何よりアテられない。)
(なら話は早いわね。私が隙と時間を作る。)
(…いいの?今からやっても30秒はかかるわよ?)
(ウフフ、余裕でしょ。)
ーー2人が顔を見合わせる。
(オッケー。そんじゃ今からタメるわ。恐らくあと5秒でこの電撃は終わる。そしたら…頼むわよ。)
(任せなさい。それと、どんな技か知らないけど、トドメを刺す時は必ずアイツの心臓を貫きなさい。技をアテて終わりにしない事。わかったわね?)
(うん?なんかわかんないけどわかった。行くわよ!!)
ーーそれを合図にブルドガングの周りに雷が集まり始める。身体に纏う金色のオーラもかってないほどの輝きを見せる。
ーーブルドガングの予想通りそれから5秒後、ウコンバサラのブリッツ・ゼレ・ドンナー・シュラークの効果が終わり、一瞬の静寂が戻る。だが間髪入れずにウコンバサラが二撃目を放とうとした瞬間、楓による持てる力を全て使った総攻撃が開始する。
「これで終わりよ。アレス・シュトラーレン。」
ーー楓の号令によりグローリエたちが展開させていた魔法陣から粒子砲を発動させる。各々から発動された粒子砲たちが一つの塊となりウコンバサラへと向かって行く。
『これすらも扱えるとはな。だが…温い。』
ーーウコンバサラが手にする聖斧を盾にしてグローリエのフルバーストを防ぐ。余裕はあるが防がない事にはダメージを負う為ウコンバサラが動く事はできない。
『貴様の魔力が枯渇寸前でなければ俺へのダメージは通っただろう。残念だったな。』
「ウフフ、何か勘違いしてるんじゃないかしら?この子たちの攻撃が通らない事など最初からわかっているわ。私の役目はあなたを倒す事じゃない。」
『何…?』
ーーこの戦いの講評をしよう。
ウコンバサラの強さが際立っていたが、終始楓の思い描いていたような展開になっていた。実力差は説明するまでもなくウコンバサラの圧勝だ。それでもここまでの戦いになれたのには楓の戦略によるものだ。
そして何よりウコンバサラが楓とブルドガングの事を甘く見すぎていた事だ。自分が優れている存在だと。楓とブルドガングを雌だと。蔑み侮っていた。その驕りが最後の最後までウコンバサラからは消えなかった。楓だけを見ている場合ではなかったはずだ。
ーーそれでは見届けよう。戦いの結末を。
『アンタ…アタシたちをナメすぎなのよ。』
ーー背後から聞こえる声にウコンバサラは戦慄する。
ーーウコンバサラの全細胞が危険を感じ、生命の危機を訴える。
ーーだが、もうどうにもならない。反応が一歩遅れている。最速の剣を得意とするブルドガングに対して一歩遅れている。
ーーウコンバサラが初めて焦りながら背後を向く。
ーー聖剣に、持てる全ての電撃を纏わせ、高々と聖剣を振り上げているブルドガングが立っている。
『雷光よ、黄泉の扉を開けろーーブリッツ・デア・シュナイデアングリフ』
ーー天空から、振り上げた聖剣に雷が落ちる。通常の雷なんかとは比べ物にならない電撃が轟音を上げて降り注ぐ。その雷を更に聖剣に纏わせ、渾身の力を込めてウコンバサラへと振り下ろした。
『グアアァァァァ!?』
『これがアンタが散々馬鹿にしたメスの一撃よ。』
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