第432話 楓の狙い

【 楓・牡丹 組 埠頭(夜) 】



ーーブルドガングを守るように周囲を旋回する2基のグローリエ。相対するウコンバサラは鋭い目つきでグローリエを警戒する。


ーー剣と盾の形状で攻守のバランスをとっているグローリエ。それだけならまだなんとかなるかもしれないが、ブルドガングの治療にあたっているもう1基のグローリエ、これが厄介だ。2基とやりあっている時に砲状に変形して撃って来ないとはいいきれない。それによってウコンバサラは迂闊な手には転じる事が出来ない。さてどうしたものかと思っているとブルドガングが口を開く。



『アンタたち…カエデのところに戻りなさい…』



ーーブルドガングが聖剣を杖代わりにしてどうにか立ち上がる。グローリエによる回復で多少は持ち直したがまだ出血が止まっただけに過ぎない。当然動けば直ぐに傷口が開く。回復を止める事は正解ではない。



『あんなやつ相手にアンタたちの力を借りたなんてあっちゃ剣帝の名折れよ。アタシが1人で勝つ…!!』



ーーブルドガングの身体から剣気が放たれる。だが明らかにそれは弱々しい。意地で気張ってはいるがとてもウコンバサラに勝てるような力をもはやブルドガングは持っていない。万全であっても劣勢なのに重傷を負ったブルドガングに勝ち目などはなからありはしないのだ。そんな愚かとしかいえない行動をとるブルドガングを嗜めるような声が聞こえる。



「いい加減にしなさい。」



ーーブルドガングが背後を振り向くと楓が少し怒ったような目つきでブルドガングを見ている。



『か、カエデ…!?そっちは終わったの!?』


「終わったわよ。あんなの相手にならないし。気絶させてグローリエに見張らせているわ。殺したらそっちの青髪が消えちゃうからね。」


『そう…それじゃアタシもさっさとケリつけるわ。』


「あなたじゃアレには勝てないわ。」



ーーブルドガングはショックを受けた。楓に対してハッキリとそう言われた事は心に重く響いた。最近のブルドガングの戦績から自分の力に自信を失いかけていた彼女は楓の言葉がとても痛かった。でもそれを認める事は出来ない。受け入れる事は出来ない。ブルドガングは楓の言葉を強く拒絶する。



『何言ってんのよ!?アタシがあんなのに負けるわけないわ!!』



ーーその様子を見た楓は失望したような目をブルドガングに向ける。



「…あなた、前にもこんな事あったわよね。明らかに格上の相手に対して意地になって1人で突っかかっていった。あの時、みんながいなかったらあなたはどうなっていたのかしらね。」


『それは…』



ーーブルドガングが俯く。楓の言葉に反論出来ない。


「別に私はあなたの力を信じていないわけじゃない。私はあなたなら誰にも負けないと思ってる。美波ちゃんのノートゥングにだって、タロウさんのバルムンクにだって。」


『カエデ…』


「でも、それはあくまで”まっとうな状態”の話よ。だからあなたはクラウソラスに勝てなかった。」


『どういう意味…?』


「あなたの生い立ちや生物学的な分類はわからないけど、極めて近いのは私たち人間。でもアレやクラウソラスは違うわ。」


『カエデの言ってる意味がわからないんだけど…?』


「あの男が散々喚いていたじゃない。”神”だって。」



ーーそれを聞きブルドガングの目が見開く。



『ま、まさか…そんなわけないじゃない…そんな存在すら怪しいものがいるわけないわよ。』


「私も神の存在は信じていないわ。だけど確実に言える事は、あの青髪は明らかに私たちよりも上位の生命体よ。」



ーー楓が真剣な表情で話しているのでブルドガングもそれが冗談ではないと悟る。

2人が話している間にウコンバサラが割って入る。



『その雌は少し賢いようだな。だが”神”に対する敬いが足りない。平伏せ。』


「ウフフ、拒否するわ。私を平伏せさせる事が出来る男性はこの世に1人しかいないの。例え神であってもね。」



ーーその台詞に苛立ったウコンバサラが鋭い目つきで楓を睨む。後方からも嫉妬に狂ったヤンデレが鋭い目つきで楓を睨む。



「さてと、実験の仕上げといきましょうか。」



ーーブルドガングは楓の雰囲気に違和感を感じる。今までの台詞から生命体として格上の相手と戦うのにその余裕はなんなのだろうと感じていた。考えられる事はクラウソラスを呼んで全員でやってしまうぐらいしかない。なのでブルドガングは楓に聞くしかなかった。



『仕上げって…なに…?』



ーー楓がニッコリとブルドガングに微笑み。口を開く。



「あなたのパワーアップよ。アレが神かどうか知らないけど、神だっていうならその地位も力も奪っちゃいなさい。」





********************




「へー、ソコ気付いちゃうか。流石楓ちゃん。」



ーー灯台屋上から楓たちを見下ろし、葵とカルディナは観察をする。



「楓ちゃん、賢いとは思ってたけどここまで賢いとはねー。普通そんな事思いつかないでしょ。」



ーー葵はご機嫌な様子で楓を褒め称える。しかし、それとは対照的にカルディナは非常に冷たい目で楓を見ている。



「ん?どしたのカルディナ?」


「…そうね、賢いのよねあの子。気付かなくていい事まで気付いちゃうのよね。」


「何怒ってんの?楓ちゃんが”神”の所持者になるのが気に入らないわけ?別にいいじゃん強くなるなら。剣帝…ううん、雷帝か。雷帝から雷神にクラスチェンジなんてカッコいいし。何より戦神ウコンバサラなんて三流神じゃん。」


「葵、貴女はわかっていないわね。ウコンバサラが持つ力は雷なのよ。ブルドガングが持つ力も雷。それを奪い取ればどうなると思う?」


「…足し算になる?」


「それで済めばいいけどね。足し算でも掛け算でもない。何乗にも上乗せされた力になるはずよ。恐らくはフラガラッハ、ブリューナク、クラウソラスに匹敵する存在になるかもしれないのよ。」


「…それはヤバくない?楓ちゃん3段階まで解放してんだけど。」


「だから危険なのよ。あの子…他にも何か気付き始めてるかもしれないわね。」




ーーそれぞれの思惑が交錯する中、牡丹sideでの戦いが佳境を迎えようとしている。

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