第384話 楓のシーンリザルト
「リザルト部屋…という事は…」
「シーンクリアですね。やりましたね楓さん。」
タロウさんが私に拳を突き出してくる。私は笑顔でそれに応え、コツンと拳を合わせた。
「タロウさん、本当にありがとうございました。あのチームの誰が欠けていても優勝出来なかったのは確かです。それを導いてくれたのはタロウさん、あなたです。あなたがいなかったらシーンクリアは出来なかった。あなたがいてくれて良かった。」
「…楓さんの力になれたんなら良かったですよ。」
私たちは見つめ合う。
互いに近づき、身体を寄せ合う。
そして顔を近づけーー
ーーパァン!!
突然の大きな音にビクッとする。心臓がバクバクと音を立てる中音の方向く。すると、
『さァ、リザルトを始めますヨ。』
…良いところだったのに。そういえば色々あって忘れていたけどツヴァイって女なのよね。それにタロウさんを知っているっぽかった。一体何者なのかしら。
「お前っていつも驚かすよね?それやめた方がいいよ?」
タロウさんが少し苛立った感じでツヴァイに言う。タロウさんも私とあのままキスをしたかったのかしら。このシーンでタロウさんとの仲は凄く進展したわよね。これなら明日からの牡丹ちゃんとのお泊りで浮気したりしないわよね…?
『…イチャイチャしているアンタらが悪いんでしょ。』
「えっ?」
「えっ?」
今…普通に喋ったわよね…?小声だから聞き取れなかったけど変声期じゃなかったわよ…?やっぱり女の声。
「え、お前今普通に喋った?」
タロウさんがツヴァイに尋ねる。
『はイ?何の事でしょウカ?』
いつもの機械のような声でツヴァイがとぼけたように言う。
「あれ…?なんかお前が女の声で喋ったような気がしたんだけど…?」
『勘違いではありませンカ?』
「え…?そうかな…?いや、勘違いか…さっきまで女子に囲まれてたから耳鳴り的なアレだったのかな…?」
『きっとそうデスヨ。』
そんな訳ないでしょ。私だってしっかり聞いてたんだから。タロウさんはすぐ騙されるのよね。でも今は追求しない方がいい。ツヴァイの力が未知数な以上、ここで逆鱗に触れて殺されでもしたら困る。
「ま、いーか。んじゃリザルトやろうぜ。」
『かしこまりましタ。ですガ、特にこれといってリザルトをする事はありまセン。』
「無いのかよ。でもま、実際問題シーンについてのリザルトってやる事ないよね。」
『はイ。ですのでこれにてリザルトを終了致しまス。御機嫌よウ。』
視界が暗くなりリザルトが強制的に終了させられる。相変わらずの身勝手っぷりね。でも私としても早くここから立ち去りたい。この得体の知れない女といる時間は極力減らしたいもの。
強くならないと。彼をこの女から守れるように。
「軽率すぎるんじゃないかしら?」
ーー楓と慎太郎がいた空間からサーシャが現れる。
『…しょうがないでしょ。』
「田辺慎太郎は鈍いから気がつかなかったでしょうけど芹澤はきっと気づいたわよ。」
『別に楓ちゃんにバレても平気だよ。”会った事無い”んだから。』
「ま、私は別にいいけど。田辺慎太郎にあなたの正体がバレて泣いても私には擦り寄って来ないでね。」
『う…。わかったよ。わかりましたよ!今度からは考えて行動しますよ!』
「やれやれね。」
ーーサーシャが肩をすくめ少し呆れた顔をする。
『それで…何かわかった?』
ーーのほほんとした空気から一変し、ツヴァイがその可憐な顔を強張らせ鋭い目でサーシャへ問う。
「残念だけどわからなかったわ。完全に痕跡を消しているわね。」
『チッ…!タロウが短期間にあれだけの力を手に入れてるんだから間違いなく”ヴェヒター”か”リッターオルデン”の誰かのはずなのに…!!』
ーー激しい怒りによりツヴァイから凄まじいまでの剣気が溢れ出る。そのあまりにも強大で恐ろしい剣圧はナディールの器を破り、空間を消滅させてしまいそうな程である。
「一番疑わしいのはアインスだけど確証は無いのよね。」
『…アインスは違うと思う。』
「どうして?」
『勘。なんか女の匂いがするんだよね。』
「やっぱりあなたと島村は仲良くやれそうよ。」
『冗談で言ってるわけじゃないよ。本当に女の匂いがするの。』
「だったらある程度は絞れるわね。女限定で実力者なら”ヴェヒター”のフンフ、リッターのカルディナ、エテノア、玲奈。」
『フンフはアインスと繋がってるから可能性結構ありそう。エテノアと玲奈はフンフのリッターだからこれも怪しい。カルディナはフィーアのリッターだからほぼ無い。』
「それと私とリリと葵も容疑者ね。」
「いやいやいや。私たちは無いでしょ。」
ーー闇の中から葵とリリが姿を現す。
「私たちが内緒でたーくん鍛える意味も無いしありえないよ。ね、リリちゃん。」
「そーだねー。」
『サーシャ、冗談でもそんな事言わないで。私はみんなを信じてる。内緒でそんな密会みたいなマネをするはずがない。』
「そうよね。ごめんなさい。」
「お、素直!んじゃお詫びとしてサーシャになんか奢ってもらおっかなー。」
「仕方ないわね。良いわよ。」
「えっ!?本当に奢ってくれんの!?」
「お詫びとしてね。」
『へぇ、珍しい。』
「サーシャが奢ってくれる事なんて2度とないかもしれないから出来るだけ高いトコにしなきゃ!!リリちゃんは何食べたい?」
「う〜ん、リリちゃんはあんまりお腹空いてないから何でもいいよ。」
「えっ!?あのリリちゃんがお腹空いてないの!?」
『いろんな意味で天変地異が起きる前触れみたいね。』
「どうしたの、リリ?具合でも悪い?」
「……ううん、何でもないよ。朝ごはん食べすぎちゃって胸焼けしてるだけ〜。」
「なーんだ…私はリリちゃん病気にでもなったのかと思ったよー…今日のリリちゃん変だからさー。」
「フフッ、ごめんねみんな〜!」
ーーこの時リリは白状してしまおうと喉元まで言葉が出かかっていた。だが言えなかった。何故かはわからない。ただ、魂が拒絶をしたようななんとも表現のし難い感覚がリリを襲っていた。
ツヴァイを裏切っている罪悪感はある。罪悪感はあるが、自分の内から溢れ出る田辺慎太郎に対する気持ちがそれを邪魔していた。
『葵、今日のリリが変だからってどういう事?』
「ん?あー、なんとあのリリちゃんがトイレから出て手を洗う時にハンカチを使ってたんだよー!」
「それは確かに変ね。」
『そうね。』
「あれ?もしかしてリリちゃんバカにされてる?」
「しかもなんか可愛いハンカチだったんだよー。たこ焼きがワンポイント刺繍してあるやつでさー。」
『へぇ、どんなやつ?』
「これだよ〜。」
ーーリリがハンカチをツヴァイに見せる。
『ふーん…なんかいいね。自分で買ったの?』
「そうだよ〜。」
『どこで買ったの?』
「どこだったかな〜?忘れちゃった〜。」
「随分と聞くじゃない。そのハンカチ気に入ったの?」
『…ちょっとね。』
「それならもしまた売ってたらリリちゃんに買っておいてもらえばいいじゃん。」
「オッケー!買っておくね!」
『うん、よろしくね。』
「それじゃ食事に行きましょう。そこで怪しい連中を一人一人精査するわよ。」
「了解!」
「は〜い!」
ーーどんなに強固なものでもほんのわずかなヒビが入るだけで簡単に壊れる。
それは目に見えないものでも同じだ。
そのわずかな綻びが絆を壊す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます