第385話 お泊まりデート

「睡蓮の花がとても綺麗ですね。」


「前から思ってたけど水辺に咲くなんてなんか不思議な花だよね。」


「ふふふ、そうですね。幻想的な雰囲気が出ております。」



俺と牡丹は約束した一泊旅行に来ている。牡丹に計画を立てさせていたので俺はどこに行くのか全然わからないがとりあえず今は長野県にあるフラワーパークに来ている。

今でこそこんなに呑気に花を見ているが出がけの時が大変だった。どいつもこいつもハイライト失くしてやがるし、楓さんとみくにノルマのキスをしなきゃいけないしで行く前からグッタリしちまったよ。



「タロウさん、ひまわり畑です。これだけの数のひまわりが咲き誇っている姿は壮観ですね。とても美しいです。」



……まぁ、牡丹が幸せそうにしてるから別にいいけどさ。

……格好も可愛いし。白のワンピースに麦わら帽子。俺の好みのどストライク。

堪んねえなコレ。風が吹いて麦わら帽子を手で抑える時に牡丹の腋チラも拝めるし。


ーー変態。



「楽しめてる?」


「はい、とても幸せです。」


「なら良かった。」


「タロウさんはどうですか?私が行きたい場所へ連れて来て頂いておりますが、タロウさんは楽しめていないのではないでしょうか?」


「そんな事ないよ。牡丹に出会ってから花に興味出たしさ。凄く楽しめてる。」



…まぁ、主に牡丹の花の観察だけど。


ーー変態。



「そう仰って頂けるのでしたら嬉しい事この上無いです。この後の予定も全部私が決めてしまっていますが本当に宜しいのですか?」


「もちろん。そもそも牡丹と一緒ならどこ行っても楽しいし。」



ーーまた余計な事言ってやがる。



「ふふふ、私も同じ気持ちです。」


「うん。それじゃ昼メシ食おうか。腹減っちゃった。」





********************





「タロウさん!!早く!!早く行きましょう!!」


「焦らなくても城は逃げないよ。」



牡丹がめっちゃ興奮してる。可愛い。押し倒したい。

フラワーパークを後にした俺と牡丹は松本城へとやって来た。まあ牡丹が興奮するのも分からなくは無い。正直俺も興奮している。


ーーアンタらはお城大好きだもんね。てかそんな事より2人して指輪つけてるのがイラっとくるよね。マンション出てすぐに牡丹ちゃんから着けるように強要されて装着してたもんね。



「タロウさん!見て下さい!素晴らしいお堀です!」


「ふむ。水源が豊富な松本ならではの造りだな。」



ーー素人からしたら掘りの凄さがわからない。



「タロウさん!黒門です!」


「ふむ。素晴らしいな。」



ーーどこの門も同じと違うのだろうか。



「タロウさん!おもてなし隊の方々がおられます!!」


「ふむ。当時の世界にいるような感覚だな。」



ーーただのコスプレイヤーなだけじゃないだろうか。



「タロウさん!いよいよ天守ですね!」


「ふむ。悪くないな。」



ーーもう勝手にして。




********************



ーーこうして慎太郎と牡丹はフラワーパークと松本城をおもいっきり楽しんだ。その姿はどう見ても夫婦にしか見えない。どこぞの自称正妻などとは格が違う。妻としての風格が牡丹には備わっていた。

そんな楽しい慎太郎の時間はここで終わりを迎える。彼は失念していた。いつぞやに牡丹と約束していた事を。



「さってと。暗くなって来たしそろそろ宿に行きますか。えっと、今回の旅行は全部牡丹に任せちゃってるわけだけど予約ってしてあるの?」


「いえ。どこに泊まるかは決めてありますが予約はしておりません。どのように予約をすればいいのかわからなかったもので。ですが予約をしなくても泊まれるはずです。候補が3軒程ありますので。」



予約の仕方がわからない…?そんなもん電話するかネットで予約すればいいだけじゃないのか…?



「そっか。んじゃナビに入れるから場所教えてもらえるかな?」


「心配ご無用です。場所は把握しておりますので私が案内をさせて頂きます。先ずは次の信号を右折して下さい。」


「ほいほい。」



ーー牡丹に指示されるまま運転する慎太郎。やがて訪れるのは少しアダルトな雰囲気が漂うオトナの宿泊施設街。所謂ラブホゾーンだ。慎太郎は焦る。道を間違えてこんなとんでもない所に来てしまった、牡丹にドン引きされる、そう思っていた。



「あー…ごめん…変な所に来ちゃったね…道間違えちゃったよ…すぐ出るから…」



ーー慎太郎が牡丹に謝罪する。



「いえ、間違えておりません。」


「えっ!?」



ーー牡丹の言葉に驚いた慎太郎は咄嗟にブレーキをかけて停車する。



「ごめん、聞き間違えたみたいだけど今何て言ったかもう一回教えてもらえる?」


「タロウさんは道を間違えておりません。私の案内通りに移動して頂きましたので問題はありません。」


「えっ!?だってここラブホ街だよ!?」


「はい。」



ーーしれっと答える牡丹を見て慎太郎は頭が痛くなりそうだった。



「…あのね、牡丹。ここってさ、なかなか凝った造りのホテルに見えるし、女の子から見ればロマンティックな雰囲気のあるホテルだとは思うよ?でもね、ここって普通の宿泊施設じゃないんだよ。カップルがその…まあ…泊まったり休憩したりする為のものなんだよ…だからーー」

「ーー知っております。」


「えっ?」


「ここはラブホテルだと仰いたい訳ですよね?それならば私は知っております。」



ーー慎太郎は吐き気も感じ始めていた。



「いやいやいやいや、だったら尚更なんでここに来てるの!?ダメだよね!?」


「私はここに泊まるつもりです。」


「は!?ダメだって!?俺の話聞いてる!?」


「駄目だと仰るのですか?」


「当たり前だよね!?」


「ですがタロウさんは私と約束を致しました。『なんでもする。アレはダメ、これはダメとは言わない。』そう仰いましたよね?」



何言ってんのこの花は!?そんな事言うわ……言った。言ったよ。リリと会う為に夜中に抜け出して帰って来たら牡丹がヤンデレ化してた時に宥める為に言った。いやいや、でもこれはダメだろ。女子高生ラブホに連れ込んだらアウトだろ。ポリスメンに見つかったらどうすんの。逮捕じゃん。楓さんに弁護してもらわないとじゃん。いや、コレがバレたら楓さん弁護してくんなそう。それにノートゥングにバレたら殺される。これは阻止しなきゃあかんわ。



「いや、言ったけどコレはダメだって!?」


「つまりタロウさんは私に嘘を吐いたと?」


「…いや、それは…」


「ここに泊まらせては頂けないのですか?」



ーーあかん。ヤンデレモードになる。そう思った慎太郎は防御の体勢をとろうとするが牡丹はヤンデレモードにならない。それどころか俯いてしまっている。心配になった慎太郎は牡丹に声をかける。



「牡丹…?どうしたの…?」


「…なんでもありません。」


「なんでもなくないだろ。どうした?具合悪い?」


「…具合など悪くありません。」


「じゃあどうした?言ってよ。」


「…楽しみにしていたのです。」


「え?」


「…タロウさんとこのようなホテルに泊まる事を夢見ていたのです。だからこそ勇気を出してみたんです。でも…馬鹿みたいでした…」



ーー鼻をすするような音がし始まるので慎太郎は焦る。牡丹が泣いているのがわかってとにかく焦る。



「え、ちょっと待って!!泣かないで!?」


「…泣いてなどおりません。」



ーー嗚咽を漏らし始める牡丹。もうこうなったら話は簡単だ。



「わかった!!泊まる!!そこのホテルに泊まるから!!だから泣かないで!?」


「…宜しいのですか?」


「うん!!」


「…嬉しいです。」



ーーまた泣かれちゃ敵わない慎太郎は牡丹を抱き締め頭を撫でる。


ーーでも肝心の牡丹は泣いてなどいなかった。


タロウさん申し訳ございません。楓さんに伺った技を使わせて頂きました。

今回私は勇気を出してみます。はしたない女だと思われるかもしれませんが、好機は無駄にしたくはありません。許して下さい。


ーー計算高さまで身に付けた牡丹を相手に慎太郎は耐えられる事が出来るのだろうか。

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