第380話 クラスマッチ

成城リトルシニアの試合を観に行った翌日から私は更に熱を上げた。タロウさんは私に期待してくれている。絶対にその想いに応えなくてはいけない。何より私のシーンに巻き込んでしまっているのにシーン失敗なんて出来るわけが無い。必ずこのシーンをクリアする。私はそう誓った。


月曜の放課後練から私はシンカーの習得に励んだ。なかなか変化がしなくて悩んでいたらタロウさんがーー

ーーあー、もうこの話のくだりはいいや。流石に長くなって来たから短縮するね。


ーーこうしてなんやかんやでシンカーをマスターした楓ちゃん。チームの士気も上がり最高の雰囲気でクラスマッチ当日を迎える。


ーー出場は各学年AからJまでの全30クラスからなる30チーム。2年と3年のA組はシードにより1回戦は免除となる。

クラスマッチは2日間行われ、初日に1〜3回戦、2日目に準決勝、決勝が開催される。


ーー楓ちゃんたち2Aは緒戦である2回戦から登場。エースの楓、主砲の未央、そして慎太郎の特訓に耐えたメンバーたちの打線が繋がり18-0の完勝。楓ちゃんに至っては変化球を封印、球速も抑えての状態で完封。2Aは最高のスタートを切る。


ーー3回戦、本来の歴史で敗れた1Aとの対戦となる。野球部数名が在籍する1Aとの試合は接戦が予想されると思ったが蓋を開ければ9-0の圧勝。楓ちゃんがコースをつく丁寧な投球により相手打線は繋がらず残塁の山を築かせ2試合連続の完封勝ち。最高の状態で初日を終わらせられた。


ーー翌日、クラスマッチ最終日。

3Fとの準決勝に臨む楓ちゃんたち。雛鳥学園野球部レギュラー3人を擁する3Fは手強かった。結果としては3-2の薄氷の勝利。未央のソロホームラン3本による得点と打たれながらも粘り強いピッチングによる楓の執念の勝利であった。

だが変化球は未使用。これは慎太郎がどんなにピンチでも絶対に投げさせなかった。全ては決勝の為。3Aの為。楓の為。その為の変化球だ。



ーーそして…勝負の決勝戦が幕を開ける。





ーー




ーー





「未央以外全員野球未経験の素人チームがよくここまで上がって来れた。みんなの努力のおかげだよ。キツイ練習にもついて来てくれてありがとう。」



ーー円陣を組んでいるメンバー。その中で慎太郎が皆に感謝を述べる。



「田辺先生、私はとても今回の件を感謝しております。私はクラスでもあまり目立たない存在でした。ですが、今回の野球を通じて私は何か変われたような気がします。」



ーーチームメイトの1人である片倉がそう話す。



「私も同じ思いです。全ては田辺先生のお陰でございます。本当に感謝をしております。私のような者が花山院様と芹澤様と一緒に笑い合える、このような日が来るとは思ってもおりませんでした。」



ーーチームメイトの1人である久世がそう話す。



「久世さん、もう私たちは友達…ううん、親友だよ!!ここにいるみんなは親友だよ!!がんばろう!!梨花っち!!」


「ーー!?は、はい!!」



ウフフ、クラスのみんなと仲良くなれるなんて思わなかったわ。物凄く私の過去は変わった。これも全部タロウさんのおかげ。本当にありがとうございます。



「あと一つ。あと一つ勝ってみんなで笑おう。お前たちなら絶対勝てる。さあ!!行こうぜ!!」



ーー慎太郎の号令に皆が応える。

それに9人全員が呼応し、決勝の舞台へと上る。




ーー



ーー




「楓、大丈夫?疲れ溜まってない?」



投球練習を終えた私に未央が近寄って来る。



「大丈夫よ。確かに連投で肩が重いけど最後だから。歯を食いしばってでも投げるわ。」



昨日もタロウさんにいっぱいマッサージしてもらったしね。現代に戻ってもまたマッサージしてくれるかな?


ーーやめた方がいいんじゃない?楓ちゃんのアレはどう見ても喘ぎ声にしか聞こえないから牡丹ちゃんがハイライト無くして惨劇起こしかねないよ?



「わかった。最初の三条先輩を抑えられるかどうかが肝だよ。行くよ、楓!」


「ええ!」



ーー楓への激励が終わり、位置に戻る未央。

バッターボックスには三条累が入る。



「お疲れ様です、三条先輩。」


「お疲れ様、未央ちゃん。正直驚いたよ。未央ちゃんしか野球部員がいない2Aが決勝まで来るなんて思ってなかった。」


「あははー。上手いこと勝ち上がってこれました。手加減して下さいねー。」


「ふふ、どうかな?ピッチャーがあの芹澤さんだからね。マグレで勝ち上がって来たはずがない。正直凄くワクワクしてる。私は絶対手を抜かない。それは相手に失礼だし、未央ちゃんにも芹澤さんにも、他の2Aの子たちにも失礼。全力でやらせてもらう。手加減無しだよ?」


「そういう先輩だから私は大好きです。手加減してもらえないのはツライけど。」


「ふふ、ありがとう。」



ーー三条累がバットを構え楓を見る。その目は非常に鋭く、打者として本気で楓と戦おうとする目だ。

楓もそれを悟る。今まで対峙して来た打者たちとはスケールの違う三条のオーラに身震いしそうであった。

だが楓は臆する事は無い。彼女もまた、本気で野球を楽しんでいる。



「プレイ!!」



ーー主審の合図により、楓のシーン攻略を賭けた決勝戦が始まる。

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