第378話 休日練習

「おし!!行くぞライトー!!」



ーーチキィーン



タロウさんがノックを行う。みんなの士気も高く、日曜日でも全員が集まり練習に励んでいる。

野球の練習を始めてから6日目。それなりにみんなのレベルも上がり、動きが野球のソレになって来た。元々運動神経の高い子たちだからコツさえ掴めばそれなりの実力になっても不思議ではない。お嬢様というと病弱や運動が苦手なイメージがあるかもしれないが実はそうではない。私たちは小さい頃からあらゆる習い事を強制されて来ているので運動は相当やっている。私も剣道以外に薙刀、弓道、合気道という武道から、バスケットボール、テニスという球技までやらされた。他に文化系の習い事もさせられたけどね。何より雛鳥学園の入学試験に体力テストもあるからここの生徒に運動音痴は基本的にいないのだ。

ポジションや打順も昨日決まった。タロウさんと未央で決めたらしいけど素人の私たちには戦術的なものはわからない。オーダーは次のようになっている。




1. センター 箕作 早苗


2. セカンド 片倉 志保


3. サード 久世 梨花


4. キャッチャー 花山院 未央


5. ファースト 小早川 奏


6. ショート 佐竹 瞳子


7. ライト 芝小路 愛


8. レフト 西大路 あかり


9. ピッチャー 芹澤 楓




私はピッチングに専念をするという事で9番らしい。正直打つのはそんなに不得意ではない。打撃練習の時も素人目で見て未央に次いで快音を響かせていたと思し、本来の歴史では私は3番を打っていた。タロウさんと未央には考えがあって私を9番にしているんだろう。私は私の出来る事に集中して、戦術的な事は2人に任せよう。



「おーし!最後の仕上げだよー!楓!チェンジアップ10球!!」


「わかった。」



未央に促され私はチェンジアップを投げる。この数日間で実戦で使えるぐらいのモノにはなった。ストレートと同じモーションでも投げられるようになったし、制球も問題ない。私は着実に成長している自分に野球の楽しさを感じていた。



「ナイスボール!!イイね!!これなら明日からシンカー練習に移行してもいいんじゃないかな?」


「本当?ウフフ、それは楽しみだわ。」



クラスマッチは今週の木曜と金曜。まだ3日ある。絶対にシンカーをマスターしてみせるわ。



「おーし!!集合!!」



タロウさんの号令に全員が返事をしすぐさま集合する。



「今日の練習はこれで終わろう。みんなそれぞれ予定があったり、午後から部活だったりなのに集まってくれてありがとう。土日でみんなの実力はさらに上がったと思う。クラスマッチまで残り数日だけど頑張ろう。」


「はい!!」



チームワークも良くなって来たわ。身分の差なんてほとんど感じさせないぐらいの関係になれたんじゃないだろうか。なんか嬉しいな。



「片付けは俺がやっておくからみんなはそれぞれ次の予定に備えてね。お疲れ様。」



タロウさんはいつも片付けを1人で請け負っている。みんなは疲れているし、予定があったりするのに俺のワガママに付き合ってもらっているんだからこれぐらい俺がやって当然だ。彼はそう言って私たちに片付けをやらせない。私のシーンだからと言って手伝おうとしても却下される。それに夜のマッサージも毎日だ。自分だって疲れてるのに。


ーーそれが慎太郎なんだよね。



「ほいほい。可哀想なセンセーをこの花山院未央が手伝ってあげましょうかねー。」



そう言って未央がタロウさんの手伝いをしようとする。



「大丈夫だから未央もみんなとシャワー浴びて来な。」


「大丈夫大丈夫!まだ運動足りないからさ!」


「あー、シニアだったらもっと練習やってるもんな。ありがとな未央。シニア休んでこっちに来てもらって。」


「いいっていいって。」



2人で片付けをしているので私も参加しようとする。



「楓はいいよ。疲れてるでしょ。」



未央から待ったがかかる。



「これぐらい大丈夫よ。なんて事ないわ。」


「んー、どうするセンセー?」


「じゃ楓にも手伝ってもらうか。あ、未央。この後って時間ある?」


「なになにー?デートのお誘いー?いやー、いくら私が魅力的だからってそれは困るなー。楓にも恨まれそうだし。」


「ちょっと。」


「視察しときたいんだよ。」


「視察?」


「ああ。成城リトルシニアは午後から練習試合だろ?そんなら3年の2人の全力を見れるって事じゃん。」


「おー!調べたねー。」


「もし未央が午後から合流するつもりだったら俺と楓だけで観に行くけど、合流しないならガイドを頼みたい。」


「んー、私に貸し1って事ならいいよん。」


「オッケ。それじゃヨロシク。あ、昼メシは用意したから観戦しながら向こうで食おうよ。」



お昼なんていつ用意したのかしら?そもそもタロウさんはお金を持ってないはずよね?



「おー!何か奢ってくれんの?」


「サンドイッチ作って来たんだよ。楓の家の厨房からちょっと拝借して。手作りのとか嫌?」



ーーここで楓に雷鳴が落ちる。この3ヶ月の間に慎太郎が何かを作った事など一度も無い。そんな慎太郎の手料理をまさかこんなところで食べられる事になるとは夢にも思っていなかったからだ。



「全然?へー、料理できるんだねー。楽しみー。ね、楓。」


「うん、絶対食べるわ。」


「うん?」


「そんじゃ決まりな。ちゃっちゃと準備して楓の家の車で球場に向かおう。」


「はい!」

「おー!」



ーーもう完全に野球小説になって来たな。

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