第366話 お城

「どうだい美波。俺のオススメの城だけど気に入ってもらえたかな?」


「……。」


「あ、それとも近いからお城好きな美波なら当然ここに来た事あったかな?」


「……。」


「時間があれば別の所に行ったんだけど日帰りだからな。今日はここで我慢してくれ。」


「……。」



私は今お城にいる。うん、確かにお城だよ?お城ですよ?でもさぁ…



「やっぱ白河小峰城は最高だよな!!東北三名城に選ばれるだけはあるぜ!!!」



キャッスルですよ?私はキャッスルにいるんですよ?そっちのお城じゃありませんけど?私はラブホテルにイキたいんですけど?何で私は白河小峰城にいるの?



「見てくれよ美波!半同心円石落としの石垣が見事だよな!!この積み方が美しい!!くぅー!!堪らねえ!!」



やっぱりこの人馬鹿なんじゃないかな?私のドキドキを返して欲しい。ムカムカするなぁ。

……待ちなさい美波。きっとここで趣味を共有しなきゃダメなのよっ。だって前にもあったじゃない。



ーー



ーー



ーー



【 7月のある日曜日の事 】



「家の事が終わりましたしそろそろお出かけしましょうかっ!」


「そうね。そのまま夕飯食べて来ましょうよ。なんでも好きな物食べてね。」


「楽しみです!」



ーー美波、楓、アリスの3人が楽しそうにリビングで談笑をしながらお出かけの打ち合わせをしている。



「あ、ごめん。18時まで待ってもらえる?それか俺は今日は家にいるよ。」



ーーだが慎太郎はそれにノッて来ない。それは非常に珍しい光景だ。慎太郎は女性陣の提案を却下したりは基本的にしない。そんな慎太郎がノッて来ない事に3人は驚きを隠せない。



「えっ!?ど、どうしたんですかっ!?具合でも悪いんですかっ!?」


「具合が悪いなら寝ていた方がいいです!」


「そうですよ!早く寝室に行きましょう!」


「具合は悪くないから大丈夫です。ただテレビを見たいんですよ。」


「テレビ…ですか…?」



ーー3人が顔を見合わせる。



「はい。今日は名古屋場所の初日ですので。」


「「「え?なんですかそれ?」」」



ーー3人が慎太郎に聞き返す。

そして慎太郎が答える前に洗濯物をしまってリビングに来た牡丹がドヤ顔で答える。



「相撲です。今日から名古屋場所が始まるのですよ。」


「お!!もしかして牡丹って…」


「ふふふ、私は相撲が大好きです。」


「マジでか!?」



ーー流石は真の正妻。



「はい。タロウさんもお好きなのですね。やはり私とあなたは運命で結ばれているのですね。」


「そうかもしれないな!!」


「「「!?」」」



ーー趣味を共有出来る存在を見つけて興奮している慎太郎はつい相槌を打ってしまう。それに牡丹は大満足し、3人は悔しそうな顔をする。



「今場所は特に見逃せないんですよ。」


「そうです。大関破天王が綱取りをかけた大事な場所です。」



ーー3人は思った。

『誰それ?綱取りって何?』



「もしかして…牡丹も破天王のファン?」


「はい。破天王関を贔屓にしております。大関の左を差した時のあの力強さ、惚れ惚れ致します。」


「そうそう!!破天王の左差しは間違いなく現役ナンバーワンだろ!!」



ーー3人は思った。

『ヒダリザシって何?』



「やべぇ…楽しみすぎるんだけど。ほら牡丹、立ってないでこっち来なよ。もう中継始まるよ。」


「「「!?」」」



ーー慎太郎からこっちに来いとか今まで言った事無いので3人は驚き慄く。



「ふふふ、では失礼致しますね。」



ーー牡丹が最高に幸せそうな顔で慎太郎の隣に座る。



「さあ!始まったぞー!あ、3人は俺たちの事は気にしないでいいですからね。好きに外出して下さい。」


「「「!?」」」


「ふふふ。」



ーー



ーー



ーー



…そう。忘れもしないわ。あんなに屈辱的だった事はない。あれから必死に相撲のルールを覚えて2日目からは一緒に見る事が出来るようにしたんだから。

あの時に私は悟った。趣味が一緒は正義だと。



ーーまた訳の分からん事を言ってやがる。



だから今回は私が勝つ!!絶対にこのチャンスをモノにしてみせるんだからっ!!

そうと決まればタロウさんと趣味を合わせないと。



ーーどうやって?



残念だけど私にお城の知識は無い。付け焼き刃で調べてもボロが出る。それならば深い知識を借りるしかないわっ。



ーー美波は一人で解説を続けている慎太郎をチラッと見てから三歩ほどその場を離れ、スマホの電源を起動する。それと同時に着信が入る。相手は当然ヤンデレクイーンだ。美波はそれを躊躇する事なく取る。



『美波さん、何方におられるのですか?何処ですか?タロウさんもいるんですよね?早く教えて下さい。すぐに参りますので。早く。早く。早く。』



ーースマホの向こう側から牡丹の抑揚の無い声が聞こえる。指輪の効果によりヤンデレモードにはなっていないが震え上がりそうなぐらいの圧が垣間見える。

だが美波は牡丹に怯える事は一切無く言葉を出す。



「牡丹ちゃん。牡丹ちゃんが一番好きなお城って何?」


「お城ですか?私は鶴ヶ城が好きです。戊辰戦争では約1ヶ月に及ぶ激しい攻防戦に耐えた名城ですし、復元ではありますが、天守に続く建物「干飯櫓・南走長屋」が江戸時代の工法・技術を用いて復元されております。一番の魅力は、現存する天守閣では国内唯一の赤瓦の天守となっている点ですね。そんな事よりタローー」

ーーブチッ



よしっ。やっぱり牡丹ちゃんはお城好きだった。この知識は私の頭の中に完全に入った。ありがたく使わせてもらうわっ。



ーーうわぁ…腹黒美波じゃん。



「ーーて、感じだよな!!ところで美波はどの城が一番好きなんだ?」



ーー慎太郎が目をキラキラさせながら美波を見る。ちゃっかり三歩離れた位置から戻って慎太郎の横をキープしている。



「私は鶴ヶ城が好きですっ。戊辰戦争では約1ヶ月に及ぶ激しい攻防戦に耐えた名城ですし、復元ではありますが、天守に続く建物「干飯櫓・南走長屋」が江戸時代の工法・技術を用いて復元されてますっ。一番の魅力は、現存する天守閣では国内唯一の赤瓦の天守となっている点ですねっ。」



ーーうわぁ…



「おぉ!!流石は美波だな。鶴ヶ城…最高だよね!!」


「はいっ!」



フッ、ちょっと汚い手かもしれないけど真剣勝負にそんな事言ってられないわ。私は今日絶対にタロウさんとラブホテルにイクっ!!



ーーお前は絶対正妻じゃないし、正ヒロインじゃないよ。ただの卑怯なエロ女子大生だよ。



「鶴ヶ城はまた今度行こうね。泊りがけで。」


「とっ、泊りがけっ!?」



き、来たわっ!!タロウさんが私とお泊まりしたいって言ってるもんっ!!ラブホテルにイキたいって!!



ーー言ってねーよ。精神科に行け。



ふふっ、ミッション完了ね。これで美波はオトナになりますっ!!



「そんじゃそろそろ帰ろうか。サービスエリアでメシでも食ってみんなに土産でも買って行こう。」


「え?帰るんですか?」


「え?帰るよ?今から帰っても18時過ぎるだろうし。」


「え?お城は?」


「え?来たよね?」


「違いますよっ!!キャッスルじゃありませんっ!!」


「何言ってるのか全然わかんないんだけど。」


「もうっ!!ラブホテルですよっ!!」


「ぶっ…!?」



ーー慎太郎が飲んでいるコーラを盛大に吐き出す。



「真っ昼間のこんな場所でデカい声でナニ言ってんのこのクンカーは!?」


「だってタロウさんが美波とラブホテルにイキたいって言ったじゃないですかっ!!」


「言ってねーよ!?てかデカい声でそれ言うのやめて!?みんな見てるから!?あ、おばあさん、なんでもありませんよ。この子ちょっとアレなだけなんです。お城見学楽しんで下さいね。」


「早くお城にイキましょうよっ!!」


「だから来たよね!?美波だってお城見学楽しんだでしょ!?鶴ヶ城好きなんでしょ!?」


「私はキャッスルに興味ありませんっ!!ラブホテルにイキたいんですっ!!それは牡丹ちゃ…なんでもありません。お城大好きです。キャッスル最高です。」



ーー興奮していた事によりうっかりボロを出す美波。なんとか誤魔化そうとするが時既に遅し。慎太郎は全てを悟る。



「…へぇ。どうもおかしいと思ったら鶴ヶ城好きなのは美波じゃなくて牡丹なわけか。俺からスマホ取り上げたのも電源切って牡丹から隔離する為だったわけね。牡丹がヤンデレモード入ってたらどうすんのかな?」


「あわわわ…!!」



ーー慎太郎がめっちゃ怖い顔をしている。

もうどうなるかは御察しの通りだ。



「美波。」


「……はい。」


「正座。」



ーー相変わらずのポンコツ美波であった。






********************



いつも読んで頂きありがとうございます。かつしげです。

もう一作の方が書きたくなったので俺'sヒストリーの更新が少し遅くなります。

よろしければもう一作の方も読んで頂ければ嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る