第347話 美波アルティメットスラッシュ

【 美波 side 1日目 PM 8:39 採掘場 】



ーーノートゥングがドゥバッハとの戦闘を開始した頃、美波側でも戦いが始まろうとしていた。



「本気で俺たちとやろうってのか?」


「テメェのアルティメットは木嶋さんと戦ってんだぜ?」


「1人でSS持ち3人を相手にすんのか?あ?ナメてんじゃねェぞゴラァ!?」



ーー男たちが美波に対して凄んで来る。

通常であれば、極道者にそのような態度で来られれば萎縮し震え上がってしまうだろう。だが美波はこの男たちに臆している所は無い。俺'sヒストリーで通常経験し得る事が出来ないような事をいままで美波は経験した。そんな経験が彼女を強くしたのだ。美波は凛とした目で男たちを見る。



「…素人にここまでナメられっとはな。」


「ああ。極道モンの恐ろしさをたっぷりその身体に叩き込んでやるよ。」


「女に生まれた事を死ぬ程後悔させてやっかんな。アァ!?わかってんだろうなゴラァ!?」



ーー美波の態度に男たちが激昂する。

ラウムから手甲を取り出し装着する。全員が強化系SSのようだ。それを見て美波はゼーゲンを握り直し、戦闘態勢へと移る。



「かかって来なさい。あなたたちのような悪は私が成敗してあげるっ。」



「あんま調子に乗ってんじゃねェぞこのクソアマがァ!!!!」



ーー男たちが銀色のエフェクトを輝かせながら美波へと襲い掛かる。

手足を織り交ぜた打撃を男たちが繰り出す。拳の鋭さ、蹴りの切れ味、どちらを取っても一級品である事は間違い無い。だが、武道や格闘技経験者の綺麗な型とは違う。早い話が喧嘩だ。荒削りな喧嘩の中での技が昇華されている。ここから見ても男たちのスキルは身体能力上昇系である事は間違い無い。

それは美波にとって好都合であった。達人級の力を備えた連中を相手にするとなれば今の美波では相当に厳しい。だが、身体能力を上昇させただけの雑な戦いならばーー



「ーー甘いわ。」



ーー美波が華麗な剣捌きで1人の男の胴を斬る。



「ぐァァァァ…!!!」



ーー斬られた男は大きくよろける。

だがSSスキルの身体能力上昇効果により辛くも一撃で沈む事だけは避けられた。



「中村ァ…!?大丈夫か…!?」


「あ、ああ…ヤバかった…もう少し踏み込んでたら死んでいた…。あの女…ただの女じゃねェぞ…」



ーー美波の一撃により男たちの表情が変わる。男たちは先程まで美波を完全にナメていた。サブスキルにより力を抑えられている事と、女だという事。それらの事項により自分たちが負けるはずが無いと思っていた。

だが今の美波の一撃によって男たちは美波を警戒し始める。ここからが本当の戦いだ。


男たちが連携を取りながら美波へ襲い掛かる。先程のようなふざけた振る舞いは無い。美波を殺すつもりで男たちは攻めて来ている。しかしそんな男たちの攻撃を美波は難なく躱す。ノートゥングとの修行により相手の呼吸を読む技を習得した美波に死角は無い。どれだけ力を抑えられていようと相手の攻撃がどこから来るかわかっていれば、絶対的なまでの力量差が無い限りは戦局は変わらない。



「な、なんで当たらねェんだ!?」


「俺たちはSS使ってんだぞ!?」


「それだけじゃねェ、この女は俺たちのサブスキルコンボ喰らってんだぞ!?」



ーー男たちが震え上がる。

自分たちの攻撃がカスリもしない事に絶望を感じ始める。何より男たちに焦りが生まれていた。


ーー対照的に美波は終始冷静だ。自分の勝利を疑わない。もはや勝利への道筋は見えた。



「これで終わりにするわ。今まで自分が犯した悪事について地獄で反省をしなさい。」



ーー美波を包む金色のオーラが輝きを強める。



「美波アルティメットスラーーーッシュ!!!」


「「「ぐわぁーーー!!!」」」



ーー美波の必殺技、『美波アルティメットスラッシュ』が火を噴く。

男たちの胴が斬り裂かれ、血が噴き出し、その命が狩り取られる。



「女をナメないでよねっ。」



ーーそして、ドヤ顔で勝ち名乗りを上げている美波を結界の外から見ている楓は思った。



『ネーミングセンスが超絶ダサいわね。』



と、中二病全開な楓は心の中でそう思っていた。




ーー




ーー



ーー




戦闘を終えた私は楓さんの元へ戻る。術者を倒した事で結界が解除されたのだ。



「お疲れ様、美波ちゃん。本当に強くなったわね。」



楓さんが優しい笑顔で私を讃えてくれる。



「ふふっ、ありがとうございますっ!」


「…ごめんね。」


楓さんが俯いて私にそう言った。



「謝らないで下さいっ。…さっきは生意気な事を言ってしまってすみません。」


「謝るのは私の方よ。何をやっているのかしらね…美波ちゃんが止めてくれなかったら私はあの男たちに負けていたわ。そして陵辱され、私の純潔は奪われてた。本当に馬鹿よね…」


「…楓さん、話してくれませんか?前にも同じような事がありましたよね。強姦って言葉が楓さんの逆鱗に触れている。違いますか…?」



ーー楓は美波の言葉に黙る。



「…楓さんにとっては言いたくない事なのかもしれません。でも…私はあなたの心の負担を分かち合いたい。当事者じゃないのにわかるなんて言葉は使ってはいけないのはわかります。でも…私は楓さんの力になりたい。だって…楓さんの事が大好きですから。楓さんの苦しみをわかりたいから。」



ーー美波の言葉に楓は口を開く。



「…私にもね、親友がいたの。中学生までは。名前は未央って言うの。」



私は楓さんの話を黙って見つめながら聞く。



「その子がね…レイプされたのよ。」


「えっ…?」


「相手は全く面識のない男。学校の帰り道、車で連れ拐われて夜通し乱暴をされたわ。」



私は言葉を紡ぐことが出来ない。ただただ楓さんの話を聞くしか出来ない。



「その事件の翌日、私は未央からその話を打ち明けられた。でも…何も声をかけてあげられなかった…泣き叫ぶ未央に何も…」



ーー楓の目から涙が溢れる。



「次の日に未央は死んだわ。屋上から飛び降りて。」



私は何も声を出せない。出す事が出来ない。



「私は…何もしてあげられなかった…親友だったのに…」


「楓さん…」


「だから私はオレヒスを始めたの。彼女の死を…あの事件を無かった事にする為に。…ごめんね。重かったよね。」


「そんな事ない…そんな事ないですっ!!」



私は楓さんに抱きつく。涙を流す楓さんを…キツく…キツく抱き締める。



「私も協力しますっ…!!未央さんを助けますっ…!!」


「美波ちゃん…」


「だから泣かないで下さいっ…楓さんの痛みを私も一緒に背負いますっ…私は未央さんの事は知らないけど…でも大親友の楓さんの親友なんですから私も未央さんの親友ですっ…!!だから…泣かないで…」


「……そんなに優しくされたら惚れちゃうわよ。」


「ふふっ、じゃあ楓さんは私の彼氏ですねっ。」


「あら?それじゃあ美波ちゃんが私の彼女なのね?」


「はいっ!」


「ふぅーん。」


「な、なんですかっ!?」


「…美波ちゃんとならタロウさんを共有してもいいかもね。」


「えっ?すみません、聞こえなかったですけど…?」


「なんでもないわ。ありがとう美波ちゃん。元気出たわ。」


「ふふっ、楓さんらしくなって来ましたねっ!」


「もう冷静さを失ったりしないわ。彼女を守らないといけないし。」


「はいっ!よろしくお願いしますねっ!」


「それじゃ、今晩はここで寝ましょうか。ウフフ、ステキな夜を過ごしましょうね。」


「な、なんか楓さん怖いですよっ…?」


『……。』



ーー百合百合しい雰囲気を醸し出している2人をノートゥングが乾いた目で見ながらこう思った。


『うわぁ…この2人って百合の者だったのか。む…?でもこの2人がくっつけばシンタロウ争奪戦はボタンとやれば良いだけか。ふむ、悪くないな。』


と、結構打算的な事を考えていた。

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