第342話 思惑
【 アリス・牡丹 組 1日目 PM 4:39 集落 】
遊園地内での一戦を終えた私と牡丹さんは、楓さんと美波さんとの合流を急ぐ為、エリアを回っている。だが一向に合流は叶わない。ゼーゲンを手にしていない私は身体能力が普通の小学生でしかないので大きく牡丹さんの足を引っ張ってしまっている。その為、時間こそかなり経ってはいるが、距離は稼げていない。本当に申し訳ない気持ちだ。でもそれを言ったら牡丹さんに怒られてしまった。牡丹さんは本当に優しい。こんな素敵な人とタロウさんを取り合わないといけないのは本当に苦しいな。みんながお嫁さんになれればいいのに。
そんな事を考えながら歩いていると集落のような場所へと私たちはたどり着いた。集落の様子を見る限り今風の建物では無い。昭和の時代のような建物群が一帯に広がっている。
「なんだかノスタルジックな所ですね…さっきの遊園地とは随分違います。」
「アリスちゃん、私から離れないで下さい。」
私が集落の景観を見ていると、牡丹さんが厳しい表情で声を出す。
「敵ですか…?」
「気配は消しているつもりなのでしょうが私には感じられます。建物に隠れて機会を伺っているようですね。」
…気配を消しているのにそれを見抜くって凄すぎないかな。気配を探る事だって普通は出来ないのに。
「気配を消せる程の相手ですから相応の実力者だと思われます。決して私から離れないで下さい。」
「わ、わかりました!!」
私は牡丹さんの側に付き、周囲を警戒する。
「居るのはわかっていますよ。出て来たらどうでしょうか?」
牡丹さんが他のプレイヤーへ呼び掛ける。すると周囲の建物の扉が開き、中から続々とプレイヤーたちが姿を現わす。いるのは7人。完全に囲まれている。
「気配は消したつもりだったんだがなァ。流石は”闘神”島村牡丹ってトコかァ。」
リーダー格と思われる男が口を開く。40代ぐらいで長髪を束ねた痩せ型の男だ。雰囲気はある。かなりの手練れかもしれない。他の連中を見ても強そうな雰囲気は出ている。それなのにこの配置は不味い。私たちが取り囲まれる形になっている為、フェーゲフォイアーで一網打尽に出来無い。陣形的に2人は葬れるけど5人は牡丹さんに任せないといけない。私たちの劣勢だ。
「ククク、映像で見た時よりももっとイイオンナだな。ウマそうだ。」
「オイオイ松本さん。みんなで平等に分けてくれよ?」
「そうですよ。リーダーだからって独り占めはダメっすよ?」
「わかったわかった。ガキもいるんだからみんなで色々楽しめんだろ。ま、仲良くヤろうぜ。」
男たちの会話はいつものテンプレート通りだ。流石に嫌気がさしてくる。やっぱりタロウさんは特別なんだな。
ーーアリスよ。慎太郎も結構すけべだぞ。
「だが油断はすンなよ。”闘神”なんだから半端じゃねェはずだ。殺す気でいかねェとこっちがヤラれちまう。」
ーーリーダー格の男、松本の一声にクランメンバーの顔つきが変わる。ナメたような態度は一切無く、本気で牡丹とアリスを殺そうという殺気を感じる程だ。
今まで見たようなただの下衆では無い。牡丹さんの実力をちゃんと理解した上で戦おうとしている。やっぱり油断は出来ない。フェアブレッヒェンドナーが単体魔法なのか全体魔法なのかはわからないけどそれに賭けてみた方がいいだろうか。
ーーそんなアリスをのよそに、牡丹が涼しい顔でゼーゲンを引き抜く。
「お喋りは終わりという事で宜しいでしょうか?申し訳ありませんが私たちは急いでおります。すぐに終わらせたい。」
ーーその牡丹の物言いに男たちは笑い出す。
「ヘッヘッヘ。そんな焦んなよ。これからタップリと愉しませてもらうんだからよ。」
「俺は遅漏だからな!なかなか終わらねェぞォ?ヘッヘッヘ!」
ーー例の如く、下ネタ全開の男たち。
それを見て牡丹はため息をつく。
「もう宜しいですか?」
ーー牡丹はゴミを見るような目で男たちを見る。
「ヘッヘッヘ、したがりなんだなお前。オウ、いいぜ。かかってこいや。」
ーー男たちが戦闘態勢へと移行する。
それを見たアリスが牡丹に自分の役割を伝えようと声をかける。
「牡丹さん!私がーー」
ーー牡丹が手にしているゼーゲンを周囲360度に対して1回振り回す。それを見たアリスは何をしたんだろう、と、考える。だが、その考えの答えが出るよりも先にドスン、ドスンという音が周囲から聞こえてくる。それらの音の正体を確かめようと首を動かすと、先程までいた男たちが消えている事に気付く。いや、消えていない。全員が寝転んでいる。首を落とされて死体となって。
「……え?」
ーーアリスは現状がよく理解出来ない。
だが、
「さて、先に進みましょうか。ここに楓さんと美波さんは居られないようですので最早無用です。」
ーー牡丹のあまりの強さに開いた口が塞がらないアリス。ただただ牡丹の強さを痛感し、集落を後にするのであった。
ーー
ーー
ーー
「島村牡丹か。1段階解放のゼーゲンなのにこの強さ。改めて見るけど実力は申し分無いわね。」
ーー建物の上空から牡丹とアリスを見るサーシャ。彼女は牡丹たちの護衛の為、エリアに不法に干渉している。
「でも…まだまだ奴には届かない。残り4本のゼーゲンを手に入れるのは必須としても”覚醒”しないで勝てるとは思えない。それはフリーデンを持ってしても同じ事。」
ーーサーシャが牡丹の力についての考察をしている。
「ーーで?あなたはどうしてここにいるわけ?」
ーーサーシャが見る視線の先にいるのは、
『グロスヘルツォークである貴女に久しぶりにお会いしたくてね。』
ーー銀色の髪色をした、顔の整った男がサーシャの前に現れる。
「仮面を外してまでここに来るなんて正直驚いたわ。トート・ゲヒルンはどうしたの?ホストであるあなたがいないのは不味いんじゃない?」
『フフ、仮面は別のモノに被せてある。俺が少し留守にしても問題は無いさ。』
「ま、いいけど。それで?あなたも島村を見に来たの?それとも私を始末しに来たのかしら?」
ーーサーシャから剣呑な雰囲気が出る。
『そうでは無い。俺が見に来たのは芹澤楓さ。』
ーー予想だにしなかった者の名を聞きサーシャは少し驚く。
「意外ね。あなたの目的は芹澤だったの?」
『フフ、さあてね。ただ、今回俺が興味があるのは芹澤楓さ。その為の二重イベントだよ。』
「やっぱり”アレ”を与えるつもりなのね?」
『当然勝ち切れればの話だよ。島村牡丹には俺がフリーデンを与えたから彼女は”アレ”を使えない。』
「芹澤なら使えると?」
『俺はそう思っているよ。それに彼女は”アレ”を見るのは実質初めてでは無い。都度2回経験済みであろう。葵のお陰でね。』
「ログに残ってないのに知っているのね。それもあなたの計算なのかしら?」
『どうだかな。ただ、今回のイベントは芹澤楓の強化の為のイベントさ。彼女には”五帝”として他の4人と同格になってもらう。』
「随分とぶっちゃけるじゃない。私としては芹澤が強くなって悪い事は無いわ。」
『ならば俺とサーシャの方向性は同じだな。いがみ合う事はあるまい。先程芹澤楓と相葉美波を見て来たが《爆破の種》を上手く使いこなしていた。彼女のように知性の高い人間とは相性の良いスキルだ。』
「そう。それは良かったわね。じゃ、そろそろ私は島村たちの後を追うけどあなたは?」
『俺はもう行くさ。サーシャが見ているのならもう十分。では失礼するよ。◯◯…いや、ツヴァイか。彼女によろしく言っておいてくれ。』
「わかったわ。」
ーーそう言い残し、銀髪の男、アインスは姿を消す。
「食えない男ね。まあいいわ。何が目的かは知らないが最後に勝つのは私たちよ。」
ーーサーシャもその場から姿を消す。
サーシャ。アインス。共に考えるシナリオを進める為、動き出す。果たして最後に笑うのは誰なのか。慎太郎たちはそれに抗う事は出来るのか。時間だけが過ぎて行く。
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