第306話 第二次入替戦 各々 side

【 ツヴァイ side 】


ーーツヴァイが楓と牡丹を放って慎太郎の元へと急ぐ。想定もしていない慎太郎の行動によりツヴァイは大きく動揺していた。


あの馬鹿…何をやってんのよ…また勝手な事をして…


ーー程なくして慎太郎と笠原の間に入り2人を制止する。


『御待ち下さイ。勝手な戦いを許可する事は出来ませン。』


とにかくこの戦いを止めないと。タロウに戦わせる訳には絶対にいかない。


「許可なんかいるかよ。知った事か。」


ーー慎太郎が笠原を睨みつける目をやめない。ツヴァイに視線を一切向ける事なく睨み続ける。


何を勝手な事言ってんのよこの男は。いい加減にしなさいよ。


『いいエ、許可は絶対デス。』


悪いけど強制的にでもこの戦いをやめさせるわ。


「だから許可なんかいらねーって言ってんだろ。」


コイツ…殴ってやろうかな。


『これは私的な争いをする場ではありまセン。入替戦なのデスヨ?だから許可が必要なのデス。冷静になって下さイ。』


「俺は冷静だ。冷静になるのはお前だろ。」


『はイ?』


「このクソ野郎はもう”闘神”だろ。この子に勝ったんだから。だから俺は予備軍として第5戦をこのカスとやるだけだ。それに何で許可がいるんだよ。」


しまった。そうだ。パニくってて気がつかなかった。マズい。タロウじゃ笠原には絶対に勝てない。コイツはゼーゲンも解放済みだし、なにより”具現”が出来る。”具現”が出来ないタロウでは瞬殺されるのがオチ。

…仕方がない。多少は後付けになるけどルールを捻じ曲げるしか無い。


『確かに仰る通りデス。ですガ、連戦は出来ませン。そういうルールとなっておりマス。』


そんなルールは無いけどね。でもわかってね。タロウを守る為なんだから。


「そんなルール知るかよ。俺は聞いてねぇ。つーかお前うるせぇな。少し黙ってろよ。」


ーーかつて無いほど怒り狂っている慎太郎にとってツヴァイなどどうでも良かった。


はっ、はぁぁぁぁ!?何!?何その態度!?黙れって言われたし!?お前とか言われたし!?私がどれだけアンタの為にやってると思ってんのよ!?


ーー慎太郎の態度に憤るツヴァイだが実は内心めっちゃ傷ついていた。


「…ねぇ、これはもう収集つかないでしょ。」


葵が私に近づき小声で話しかける。


「…たーくんってコレ系の事をやるとキレるの美波ちゃんの時でわかってるじゃん。収めるとしたらあの綿谷って子を解放しないとムリだよ。でもそれは出来ない。やらせるしかないよ。」


『…馬鹿な事言わないで。タロウじゃ笠原には勝てない。』


「…とりあえずはやらせるしかないでしょ。たーくんが負けそうになったら私が出るよ。そんで闘技場内の楓ちゃん、牡丹ちゃん、綿谷みくちゃんを除く全員始末すれば口封じになる。ここはログ残らないし。それならたーくんが貴女の事を嫌いにならないよ?」


『…アインスはどうするつもりよ。蘇我まで始末したら黙ってないわよ。』


「…その時はたーくんたちに事情を話すしかないよ。最悪、牡丹ちゃん覚醒させてフリーデン使わせれば私たちだけで”ヴェヒター”全員相手にしてもやり切れるでしょ。」


『…まあ。』


「…でも美波ちゃんの事は我慢しなよ?このシナリオで行くなら始末は絶対出来ないから。」


『…サイテーなシナリオね。』



ーー



ーー



ーー



【 楓・牡丹 side 】


やっぱりタロウさんはそういう人なのね。とても優しい人。だからこそ私たちはみんなあなたを…


「楓さん。」


牡丹ちゃんが話しかけてくる。さきほどまでの鬼の様な形相から少しだけ柔らかい表情にはなったが、依然として厳しい顔をしている。


「何?」


「タロウさんが敗れた時は私の持てる全ての力を使ってツヴァイと笠原の首を落とします。奇襲で攻めれば恐らく一撃で仕留められるかと。ただ、夜ノ森さんが空きます。ですので楓さんは夜ノ森さんをお願い出来ますか?終わりましたら私もすぐに向かいます。私たち2人でかかればどうにかなるかもしれません。もし無理だったとしてもタロウさんだけはこの場から離脱させたい。」


「もちろんよ。当然じゃない。」


私たちは互いに視線を向けあい覚悟を決める。私たちの全ては彼の為。どんな結末を迎えたとしてもそれは変わらない。

見守りましょう。彼の戦いを。



ーー



ーー



ーー



【 慎太郎 side 】


ーーツヴァイの制止も聞かず笠原と睨み合う慎太郎。もう彼は止められない。慎太郎の怒りのメーターは完全に振り切れていた。


「このガキが…誰のツラ殴ってんのかわかってんのか?」


ーー笠原が立ち上がり口の中に溜まった血を吐き出す。こめかみ辺りに青筋を立て、血管が切れそうなぐらいに浮かび上がっている。相当苛立っているのだろう。

だが対照的に慎太郎は涼しい顔をしていた。鋭い目つきなのは確かだが、それ以外は冷静なように見える。


「女助けてイイカッコしようってか?調子に乗ってんなよクソが。」


「……。」


ーー慎太郎は全くの無反応。ただ睨みつけているだけだ。


「なんだオメェ?ビビってんのか?今更後悔したって遅ェんだよ!!」


「……。」


ーー慎太郎は答えない。


「つまんねぇ野郎だな。俺様に逆らった事を死ぬ程後悔させてやるよ。オイ!!始めていいんだな運営さんよ!!」


ーー笠原がツヴァイに確認を取る。


『…承知致しまシタ。でハ、入替戦第5戦始めて下さイ。』


ーー開戦の合図を送り、ツヴァイと葵はその場を離れる。


「サブスキルは使っちまったからもう使えねぇがテメェはガチバトルで死ぬ程殴ってやるから覚悟しとけよ。」


ーー笠原が金色のエフェクトを発動させ、前方に魔法陣を展開させる。そして中から出て来たのはーー慎太郎も良く知るモノであった。


「クハハハッ、どうだ?俺の《拳聖》は?”具現”まで出来るんだぜ?知ってっか”具現”を?」


ーー笠原が上機嫌で慎太郎に対してマウンティングをする。だが慎太郎に変化は無い。焦りも、臆する事も。


「…3度目か。」


「あ?」


「1度目は甲斐の時。2度目は四ツ倉の時。そして今回。流石に見飽きた。お前との因縁もこれっきりにして欲しいもんだな。」


「テメェ何ブツブツ言ってんだ?」


「ーーそう思わないかバルムンク。」



『ーーそうだな。我もそう思っていた所だ。』


ーー慎太郎の言葉に音も無く現れたバルムンクが答える。決してアルティメットを発動した訳でも無い。魔法陣から現れた訳でも無い。突如として剣聖バルムンクはこの場に現れたのだ。



ーー具現化された姿で。



ーー楓と牡丹はそれを見て驚愕する。



ーーツヴァイと葵もそれを見て驚愕する。



ーー第二次入替戦最終戦の幕が上がる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る