第302話 第二次入替戦 楓・牡丹 side 4

上空に魔法陣が展開する。時空系だ。これは少し厄介ね。時空系の強さは良く知っている。牡丹ちゃんにしても、夜ノ森葵にしても、第一次クランイベントの時に対峙したリッターの男にしても超人的な強さを誇っていた。それに松嶋は強化系のアルティメットも持っている。手を抜いていたら負けるかもしれない。

だが全力は出せない。先程から澤野が私を舐めますように見ている。やはりあの男は何か狙いがある。それならばこちらの手の内を極力知られたくない。制限された中で松嶋を倒す。これが私に課せられた勝利条件か。中々に厳しいわね。


「ヒッヒッヒ、どうしたぁ?ビビっちまったか?お前が察している通り、私には2枚のアルティメットがある。この力を手にして私は変わった。だからこそこの場にいるんだ。どうする?この場で全裸んなって公開オナニーでもすればケツにブチ込むのだけは勘弁してやってもいいぜ?」


「ウフフ、少し強くなったぐらいで随分と天狗になっているのね。」


「いいねぇ。その態度最高だわ。私に屈するお前のツラ早く見たいねぇ。」


「…ふぅ。もう下ネタは結構。かかって来なさい。」


「そんじゃ遠慮なくッ!!」


ーー松嶋が金色のエフェクトを弾かせて強襲する。それと同時に楓も金色のエフェクトを纏い松嶋に対抗する。

楓の武器は剣。松嶋の武器は手甲。互いの第一撃目が火花を散らして幕を開ける。


ーー松嶋が手甲を駆使して楓にラッシュを仕掛ける。前回の一戦とは異なり自分の得意とする体術での攻め。その威力の一つ一つが凄まじく、流石の楓も一瞬足りとも気が抜けない。

だがそこはやはり芹澤楓だ。松嶋の攻撃の全てをゼーゲンにより捌き落とす。致命傷どころかダメージを与える事すら叶わない。


ーーそして攻守が入れ替わり楓の反撃が始まる。

楓が猛烈な剣の嵐を繰り出す。その剣の一太刀一太刀が一撃で命を狩り取らんとするばかりに松嶋へ猛然と襲い掛かる。

だが強化系アルティメットによる身体能力の大幅上昇、時空系アルティメットによる身体能力強化によって松嶋は楓の攻撃を全て受け流す。


ーー互いの技はほぼ互角。普通に戦うなら勝敗が決する事は無く、引き分けになったかもしれない。だがこれは試合では無く死合だ。必ず決着は着く。そして何より互いにまだ全力では無い。


「ウフフ、なかなかやるじゃない。随分と鍛錬を積んだのね。褒めてあげるわ。」


「フン、あの時は手甲があるなんて知らなかっただけさ。これを装着してる今ならテメェに負けたりなんかしねぇよ。」


「あら、そう。ならそろそろ勝負を決めようかしら。」


ーー楓がそう宣言すると同時に前方に魔法陣が発動する。そして中からブルドガングが現れると同時にラウムから聖剣を取り出して松嶋へと一気に遅い掛かる。その速度は雷のように速く、見ているものを置き去りにし、瞬きをする間に松嶋の間合いに入る。そしてその首に聖剣の剣先が触れようとした瞬間ーー



ーーバゴォーン



ーー轟音が鳴り響く。松嶋とブルドガングの間にガス臭い匂いと煙が充満する。

爆発に巻き込まれたと思われたブルドガングはその超速度により何とか回避する事が出来、ノーダメージに済んだ。


『あっぶなっ!?何々!?自爆!?』


「…違うわね。これがきっとあの女のスキルよ。」


「ヒッヒッヒ、流石は芹澤楓。すぐに理解出来るなんて賢いじゃないか。」


ーー煙の中から松嶋の声が聞こえる。次第に煙が晴れてくると無傷の状態の松嶋千晶が平然と立っていた。


『あの爆発で無傷とか頑丈すぎでしょ。』


「恐らく術者にはノーダメージなんじゃないかしら。」


「ヒッヒッヒ、お前の言う通り私には効果が及ばない。」


ーー松嶋は上機嫌だ。勝負を決めに行った楓の攻撃を失敗させた事により自分が優位だと思ったのだろう。単純だがこういうタイプはそうなると調子付く。楓たちにとっては面倒な事この上無い。


『自爆するスキルって事?』


「違うと思うわ。もしそんなスキルがあったとしても自分が無傷な訳は無い。」


『ならなんだと思う?楓そういうの考えるの得意でしょ。』


「時空系は時間と空間に作用する効果を発揮する。そこから考えれば可能性としてあるのはガスしか無い。」


『がす?がすって何?』


「空気中には酸素だけじゃなくてアルゴンってガスもあるのよ。」


『ふ、ふぅん。』


ブルドガングが気不味い顔をして私から目をそらす。この兆候が出た時は考える事を放棄した時の挙動だ。流石に付き合いも長くなって来たからそれぐらいはわかるわよ。


「でも…アルゴンは可燃性ガスじゃないはずよ。仮に燃えたとしてもこんな大爆発を起こしたりしない。」


「ヒッヒッヒ、頭が良いんだねぇ。私には何の事かさっぱりだがアンタの読みは合ってるよ。私のスキルは《爆破の種》ってヤツさ。空間内にあるガスを使って爆発をさせる事が出来る。燃えようが燃えまいが関係無い。ガスならなんだっていいのさ。まぁ、ガスの種類により威力が段違いなんだろうけどね。」


『何よそれ…だったらどこもかしこも爆発させ放題じゃない…!?』


「そういう事さ。私のこのスキルは恐らく最強。負けるはずが無い。さぁて、たっぷりと可愛がってやろうかね。芹澤楓。」


ーー高性能のスキル効果を発揮する松嶋の時空系アルティメット。それを手を抜いた状態で勝たないといけない楓とブルドガング。2人にとって試練の時がやって来る。

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