第289話 会合 肆

ーー暗黒の空間の中に円卓と7つの椅子がある。時間が経過するとともにその椅子が1つ、また1つと埋まっていく。だが全ての椅子が埋まる前にその会合が始まった。


『揃ったようだな。では始めようか。久方ぶりのイベントではあったが無事に成功を収めた。これも皆の尽力の賜物だ。御苦労であった。』


ーー円卓の中央に座するモノ、アインスが他の参加者、”ヴェヒター”に対しそう述べた。


『んで?今回のはどこまでがテメェの計算なんだ?』


ーー”ヴェヒター”の一人であるフィーアがアインスに対して攻撃的な口調で口を開く。


『フッ、キミはいつもヒト聞きの悪い事を言うなフィーアよ。』


『腹黒いテメェの事なんだから計算で動いてねぇわけがねぇ。各エリアで色々と起きてやがったが、特定の連中に偏ってやがる。全部テメェの差し金だろ?』


『偶然さ。』


『芹澤と島村ン所の連中が儀式の間に行ったのも偶然か?』


『ああ。』


『馬鹿な事言ってんじゃねェぞ!!奴等には”剣聖”と”剣王”がいるんだ!!もし”目覚め”ていたらどうするつもりだ!!ログ見る限りじゃ”剣王”は思い出しそうだった!!洒落になんねぇんだぞ!?』


ーーフィーアが立ち上がり怒りを露わにする。そこから出る圧は悍ましい程に凶悪であった。だがアインスはそれを見ても特に何かが変わる訳でもない。淡々と言葉を並べるだけであった。


『フィーアよ。確かにキミの言う通り今”目覚め”て頂いても困る。だが私は関与してはいない。それはフンフとズィーペンが証言してくれる。』


『テメェらがグルなのに証言もクソもあっかァ!!!』


ーー更に激昂したフィーアがラウムを開き、中からナニカを取り出そうとする。だが、


『やめろフィーア。ソレを出せば貴様を制圧するぞ。』


ーーフンフがフィーアに対し警告をする。フンフからもフィーア同様に凶悪ともいえる圧が放たれ、円卓の空気は最悪なものへと変わっていく。


『…テメェ、誰に口を利いてやがんだ?5番が4番に指図してんじゃねェぞ!?』


ーーフィーアがラウムからソレを引き抜こうとした時、室内に轟音が鳴り響く。その音に呼応し、円卓が大きく揺れ、”ヴェヒター”たちがバランスを崩し始める。


『フィーアよ、キミの力は私は大きくかっている。だが戯れがすぎるぞ。1番の私に対してな。フフ。』


ーーアインスの絶対的なまでの圧に屈するかのようにフィーアはラウムを閉じ、席へと座る。


『我々が啀み合う必要なんて無いだろう?キミも私に協力してくれるのならありがたいのだがね。』


『…フン。』


ーーこの時、ツヴァイだけは危機感を持っていた。このままフィーアまでがアインスの軍門に下るのならパワーバランスが完全に崩壊する。あくまでも”ヴェヒター”内での力関係は五分にしないといけない。その為の策を講じなければとツヴァイは考えていた。


『さて、話を進めよう。次は入替戦を行う事となっているが、これがリスト入りしているプレイヤーたちだ。確認してくれたまえ。』


ーーアインス以外の5人が空中でタッチパネルのようなものを操作し確認する。


『特に名の知れた奴が入ってるわけじゃないんですね。全体的に小粒だな。』


ーーゼクスがリストを見て酷評する。それだけ大したプレイヤーがいなかったのだろう。


『評判が良いから強いわけではないさ。勝負はやってみなければわからない。フフ。では予定通り明日の開催とするが問題無いか?』


ーーアインスの言葉に皆が無言で肯定する。


『では次の議題だ。次のイベントについて私から皆に提案がある。』


『あ?提案?』


ーーフィーアが噛みつくような口調でアインスに問う。


『ああ。これに関しては皆の素直な意見を聞かせてくれ。全員の賛成を得られないならば否決とする。』


『フン、多数決で来ねぇのか?テェ事はよっぽど面白ェんだろうな?』


『フフ、かもしれんな。では見てくれたまえ。』


ーー先程と同様に5人が空中でタッチパネルの様なものを操作する。


『ほう。頭脳戦か?』


ーーフンフがアインスに問う。


『ああ。力だけでは無く知力も必要だ。それを図るための場を設けるのも我々の仕事だ。』


『だがこの”クランからリーダーとランダムに一名を参加するものとする”という条項はどうするんです?蘇我のようにクランを結成してないプレイヤーも随分といますよ?』


ーーゼクスが疑問点をアインスへとぶつける。


『そういった輩は参加不可だ。このイベントでは勝利報酬をゼーゲンとする。参加出来ないプレイヤーは相当な痛手になる事は間違い無い。それがペナルティーだよ。』


『色々と課題も見つかりそうな内容ですが私は面白いと思います。』


ーーズィーペンがアインスの案に対し、好意的な評価を下す。


『では決を採ろう。この案に賛同出来ないモノは挙手願おう。挙手が無ければ満場一致と見て、次回のイベントをこちらで設定する事とする。』


ーーアインスの言葉に5人が納得する。そして、誰も挙手をする事が無く可決された。


『皆に感謝しよう。では、次回のイベントはこちら、トート・ゲヒルンとする。期日は4日後の開催とし、各エリアにはリッターを管理者として配備するものとする。ではこれにて会合は終了としよう。申し訳ないが私はゲヒルンの調整に入らなければならないので先に失礼させてもらう。』


ーーアインスが離席し、空間から姿を消す。それに続いてフンフ、ズィーペン、も空間から姿を消していく。

そしてフィーア、ゼクスも離席しようとした時にツヴァイが声をかける。


『待て。フィーア、ゼクス。』


『あン?珍しいなテメェが話しかけて来るなんて。』


『フィーア、まさかアインスの軍門に下るつもりではないだろうな?』


『…別にンなつもりはねェよ。だがあの野郎にチカラがある事は間違いねェ。ンならアインスについた方が得とも考えられる。』


『それはあまりにも考えが浅い。”ヴェヒター”として各々が牽制し合わなければ独裁体制になる事は明白だ。我らは均衡を保たなければならない義務がある。』


ーーツヴァイの言葉にフィーアは思案するような素振りを見せる。


『確かにツヴァイの言う通りですよね。向こうが3人で組んでいる以上は現状過半数を握られている。私たちも組んでおかないと”ヴェヒター”は終わりを迎えてしまう。』


ーーゼクスがツヴァイの意見に賛同する。


『…チッ。俺はアインスも嫌いだがテメェも嫌いだツヴァイ。だが…話には乗ってやるよ。どうするつもりだ?』


『新たなドライを入れるしか無い。但し、私たちの息のかかったモノだ。そいつを入れてアインスらを失脚させる。』


『ツヴァイ、確かにそれでアインスを失脚させる事は出来るかもしれませんが武力で抵抗してくるかもしれませんよ?そうしたらどうするんですか?』


『それに関しては私に策がある。』


『あン?策?なんだそりゃァ?』


『それは言えん。』


『オイオイ、手を組むってェのに秘密なのか?』


『悪いがそれは言えん。』


ーーツヴァイの姿勢にフィーアとゼクスが不快感を示す。だが2人とも妥協せざるを得ない。所詮は仮初めの同盟なのだから。


『…まァいい。それはテメェに任す。』


『すまない。』


『問題は新たなドライですね。”条件”をクリア出来そうなのは…”あの2人”しかいませんよ?私はリスクが高すぎると思いますが。』


『それは仕方がない。リスクは承知の上。』


『なら決まりだな。アインスの野郎が新イベントの段取りしてる今がチャンスだ。入替戦が終わったら”2人”に会いに行こうぜ。』


『ああ。では明日の入替戦が終わったら集まろう。』


『わかりました。』


『おう。』


ーーフィーアとゼクスが空間から消えて行く。


「随分と危険な同盟を選んだのね。」


ーーツヴァイの背後からサーシャが現れる。


『仕方ないでしょ。フィーアまでアインス側についたら面倒な事になる。芹澤楓の覚醒まで待てなくなるわ。』


「用心する事よ。フィーアもゼクスも信用なんか出来ない。いつ寝返るかわかったものじゃないわ。」


『わかってる。』


「最悪のパターンは想定しなさい。フリーデンがある島村ならミリアルドは抑えられるはず。私がアインスを抑えて、あなたとリリで”ヴェヒター”を抑え、葵と芹澤でリッターを抑えれば何とかカタはつく。これなら相葉は始末しても問題は無いわ。出来れば保険として置いて起きたいけどね。」


『別にその段階でぶりっ子は始末しなくてもいいわよ。ボロ雑巾になるまで使ってから澤野にくれてやるわ。フフッ。』


「うわぁ…女の嫉妬は怖いなー…」


ーー同様に葵がツヴァイの背後から姿を現わす。


『うっさい。あれ?リリは?』


「なんかリリちゃん用があるみたいだよ?『殿中殿中、吉原殿中食べたくなっちゃったから買って来るね〜』って。」


『相変わらずの適当っぷりね。ま、リリの事は信じてるから何か理由があるんでしょ。』


「それと問題なのは新イベントね。何か裏があるわよ。」


「それになかなか欠陥ありそうな内容じゃない?テストもしてないで導入したら絶対穴が出て来るよ。」


『まぁね。でも心理戦だから馬鹿は簡単に死ぬだろうし。多少の欠陥があっても頭良い奴は勝てるでしょ。』


「幸い、田辺慎太郎の所はみんな知能は高いから何とかなりそうではあるけれど、理想通りに行くかしらね。」


『タロウが死にそうになったら全部ぶっ壊して救出するわよ。』


「私情挟みまくりじゃん。」


「うまく潜り込まないといけないわね。リッターが管理者になるんだから私たちの誰かが田辺慎太郎の所に配備されればいいのだけれど。」


『そうね。でも先ずは入替戦よ。間違っても芹澤と島村が欠けるなんて事にならないようにしないと。明日はサーシャが私についててね。』


「了解。」


『じゃ、私たちも帰りましょう。あまりここに長くいると怪しまれるからね。』


「だねー。帰って夕飯食べよー。ポテトが食べたくなっちゃったー。」


「私が奢るわ。」


「えっ!?サーシャが奢るなんて何のフラグ!?」


「なら奢るのやめるわ。」


「ええぇ!?奢ってよー!!」


「冗談よ。早く行きましょう。」


ーー入替戦。この入替戦においてまさかあんな事が起こるとは、ツヴァイもサーシャも葵も誰も想像はしていなかった。

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