第271話 進路

【 2日目 PM 7:03 車内 】



「ようやくフルメンバーが揃ったな。やっぱ5人揃ってこその俺たちだよ。」


「ふふふ、そうですね。」


ーー慎太郎に許してもらいご機嫌の牡丹が慎太郎の隣をちゃっかりとキープする。


「ウフフ、これで心置きなく敵を殲滅出来ますね。」


ーー負けじと楓も慎太郎の隣をキープする。

「はいっ!がんばりますっ!」


ーー美波はあざとく慎太郎の正面をキープする。


「みんな一緒だと安心します!」


ーーポジション取りに負けたアリスは苦肉の策で慎太郎の腰に正面から抱きつく。


「けど問題なのはここからどうするかだな。このまま到着したエリアを探索するか、それとも戻ってタラオの行った下りへ行くか。」


「タラオ?何ですかタラオって?」


楓さんが不思議な顔で俺に尋ねる。やべ、うっかりしちまった。


「いや、なんでもないです。天栄王武の事です。アイツらと合流した方がいいのかなって。」


「タロウさん、私はあの男は信用出来ないと思います。」


牡丹が真剣な表情で俺に告げる。


「あの男の笑顔は薄っぺらいと言いますか、作っている顔です。全て計算で動いている。そんな表情でした。恐らくは楓さんが上りを選ぶ事も予測していたのだと思います。上か下かの選択を迫られれば大抵は上を選ぶと思います。特に楓さんのように上昇志向の方は尚更です。もしかしたら下りは安全なのを確認済みなのかもしれません。」


「なるほど。それはあるかもしれないわね。牡丹ちゃんの言葉にはかなり説得力があるように聞こえるわ。」


「私も離れた所から見ててあの人は嫌だなぁ、って思いました。上手くは言えないんですけど気持ち悪いって言うか…」


「それはわかります。あの人は嘘を吐く人の顔をしていましたから。伯母や伯父と同じでした。」


やっぱりな。なんか気に喰わない奴だとは思っていたがみんなも良い感情は持ってなかったみたいだな。でも…やっぱイケメンだから好意は持っちゃったりしてんじゃないかな?聞いてみる?でもそんな事聞いてたらカッコ悪いよな。さり気なく聞いてみる?それならギリセーフだろ。うん。


ーーアウトだよ。


「で、でもさ。イケメンだったよなー。」


ーー慎太郎は誰とも目を合わせないで脈絡無く発言する。めちゃくちゃ格好悪い。


「そうですか?私はあまりそうは感じませんでした。何より年下には興味無いので。」


ーー楓がキッパリと慎太郎の発言を否定する。


楓さんはああいうのは好みじゃないのか。ま、高校生だもんな。色々とマズいもんな。


ーーマズいのは女子高生と朝晩キスしてるお前だよ。


「私も同じですね。イケメンとかを思った事もなかったですっ。……タロウさん以外どうでもいいし。」


ーー美波もバッサリと慎太郎の発言を切り捨てる。


美波は蘇我クソの時にも聞いたけど整った顔の奴は好きじゃないのかな?あー、だから俺みたいなブサメンがいいのか。納得。


「タロウさんの方が何万倍もカッコ良いです!!」


ーーアリスは全力で慎太郎を持ち上げる。


アリスは可愛いな。俺が必ず幸せにするからな。いよいよとなっなら蟹漁船かマグロ漁船に乗るからな。安心してくれ。


「私はタロウさん以外の男性は皆同じ顔に見えるので分かりません。」


ーー牡丹は安定の牡丹であった。


うん、牡丹の答えは知ってた。牡丹は安定の牡丹だ。


「そ、そっか。ふーん。」


ーー格好悪いぞ慎太郎。


ーーそして牡丹が慎太郎の腕を掴み耳打ちをする。


「…心配なさらなくても私は他の男性に興味なんて持ちませんよ。この身も心も魂もあなたのものです。永遠に。」


ーー本当に安定の牡丹であった。

だが一見重い台詞である牡丹の言葉は慎太郎にはマッチしていた。基本的に愛に飢えている慎太郎は牡丹に重過ぎる程の愛を向けられるのが心地良かった。2人の相性は非常に良い。それは紛れも無い事実である。


「…おう。さてと、んじゃ作戦会議の続きだ続き!!」


ーー慎太郎は照れ隠しをする為に声を大きくする。


「うーん、上位を狙うなら戻った方がいい気がしますよねっ。こっちのルートにプレイヤーがいるかわからないですし。」


「確かにそうだな。美波の言う通りこっちにプレイヤーがいないかもしれない。現れないって言ってたゾルダートたちが現れたって事は隠しエリアの可能性は大だ。それならプレイヤーがいないと見るのが妥当だろうな。」


「じゃあ戻るんですか?」


「上位を狙うならその方がいいかもな。でもこっちのルートが本当に隠しエリアならそれなりの”物”があるかもしれないぞアリス。」


「”特殊装備”ですね。」


「流石は牡丹。すぐに気づいたな。それなりの”物”って言ったら”特殊装備”かゼーゲンしか無い。またはマヌスクリプトって事もあるかもしれないけどな。」


「ならこちらの探索を優先した方が良いかもしれませんね。牡丹ちゃんと美波ちゃんがそれなりに敵を倒したから上位になれる目も残っていると思いますし。ただ、相応の強敵がいる可能性はあるわ。楽観視は出来ない。どうでしょう?多数決で決めませんか?1人でも反対者がいれば戻るっていうルールで。私たちは満場一致で動くべきだと思います。みんなの気持ちはいつも一つであるべきです。」


「そうですね。俺は楓さんの意見に賛成です。みんなはどう?」


「私もそれがいいと思いますっ!」


「賛成です!」


「私もそれで良いかと思います。」


「おし、じゃあみんなの決を取ろう。1人でも反対者がいたら戻る。いいね?」


全員が頷く。


「俺はこのまま上りルートを進むに1票。楓さんはどうですか?」


「私も上りルートに1票で。」


「美波は?」


「私も上りルートですっ!」


「牡丹は?」


「私も上りルートが宜しいかと思います。」


「アリスは?」


「私もみんなと同じです!」


「おし。満場一致だな。流石は俺たち。モメる事が無くて助かるわー。」


ーーお前が絡まなければモメる事は無い。


『大変お待たせ致しました。間も無く終着駅『儀式の間』へと到着致します。お忘れ物のないようにお願い致します。もし、このままお戻りになられたい場合は回送列車となります当車両にそのままお乗り下さいませ。お乗りになられました『境』までお戻し致します。但し、降りてしまいましたら明日の始発列車まで移動は不可のとりますのでご注意下さいませ。尚、ご忠告致しますが、くれぐれも徒歩で『境』まで戻ろうとは考えないようにして下さい。この区間はシャルフリヒターたちが解放されております。非常に危険ですのでやめる事をお勧め致します。皆様のご健闘を心よりお祈りしております。』


「…まーた謎の単語が増えたんだけど。」


「ヘンカー級と見た方が宜しいかもしれませんね。」


「そうなると厄介ね。ヘンカーと同等なら”具現”と五分ぐらいの実力があるわ。数で来られると牡丹ちゃんのフリーデンを持ってしても私たちの劣勢は間違いないわ。」


「じゃあ後戻りはできないって事ですねっ。」


「その『儀式の間』にもっと強力な敵がいたらどうしましょうか…?」


「うーん、ぶっちゃけフリーデン使ってる牡丹ならどんな敵でも押し切れるだろ。スキル使ってなくてヘンカー圧倒出来るんだからスキルコンボ決めまくって瞬間火力で薙ぎ払えば無敵だろ。牡丹、フリーデンはどれぐらい使った?」


「先程の1秒だけです。」


「んじゃこっからは温存しといて。基本的な敵は俺と楓さんと美波で戦う。牡丹はアリスの護衛。アリスはサポートで。」


これがベストな陣形だろ。流石は俺だな。生まれる時代が違えば軍師として名を馳せていただろうな。フッ。


ーー調子に乗っている慎太郎に牡丹から待ったがかかる。


「すみませんタロウさん。お言葉ですが、その布陣は危険かと思います。」


「え?」


ーー予想だにしていなかった牡丹の言葉に慎太郎は素っ頓狂な声を出してしまう。


「前衛は楓さんと美波さんにしてタロウさんは中衛にされた方が宜しいかと思います。」


「ど、どうして?」


ーー何を言われるか大体予測している慎太郎だが、それを受け入れたくない為、牡丹に対して問うてみる。


「タロウさんの実力的に前衛だと死亡率が高めかと。」


「ぐはっ…!!」


ーー予測通りの牡丹の答えに慎太郎は膝から崩れ落ちる。


「確かにそうね。タロウさんは中衛にいて下さい。出来る限りあまり動かないようにして下さいね。」


「ごほっ…!!」


ーー追い討ちをかけるような楓の言葉に慎太郎は両の手まで地面についてしまう。


「そうですねっ!タロウさんは大人しくしていて下さいっ!」


「がはっ…!!」


ーー死体蹴りをするような美波の言葉に慎太郎は顔面まで地面についてしまう。


「いざとなれば私が回復させますから安心して下さいね!」


「があっ…!!」


ーーアリスにまで頼りないと思われていると慎太郎は感じて力尽きた。


「私たちでしっかりと頑張りましょう。」


「はいっ!」

「はい。」

「はい!」


ーー屍と化した慎太郎は今際の際に思った。

『絶対…絶対見返してやる…』

そう、心に熱く誓ったのであった。

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